⚫︎書籍化宣伝用番外編⚫︎
ミューランが所属する研究室は、エルフが四人と人間が一人、そして獣人のミューランの一人というメンツである。
最年長で室長のモノクルをかけた短髪のノアは、100歳近い年齢のエルフで、独身。
次は、人間のオルツ。25歳である。
その次が、エレクトーラ、22歳だ。
短髪で右サイドに三つ編みを垂らすバルトロメオと、ポニーテールのロシュフォールは見た目通り、20歳の青年。
純白の豹の獣人であるミューランが最年少である。
エレクトーラがそんなミューランに想いを寄せている相談がされた時、同室の彼らは「やっとか」と笑った。
エレクトーラの気持ちなど、すでに見抜いていた。
「でも時間をかけた方がいいだろう。彼女は二年という月日で孤独な戦いを終えて、『運命の番』の絆を断ち切ったばかり……いわば、傷心中と言っても差し支えないじゃないか」
と言ったのは、ノア。
「僕も強引に口説くつもりはないよ」
急に迫るつもりはないと、エレクトーラは頷く。
「ミューランは見てて可愛いけど、恋愛感情とかじゃないしな」
「うん、猫見てて可愛いーって癒しとおんなじ」
バルトロメオとロシュフォールは、ケラリと笑って見せた。
「猫扱いは失礼だろ」と、苦笑するオルツ。
「厳密には彼女、豹だろ」と、ノアは細かい指摘をした。
獣人族で珍しいこともあるが、ミューランの尻尾はついつい目で追いかけてしまうのだ。物音に反応してピコピコ動く頭の上の獣耳も、可愛くて見つめてしまう。それもこれも可愛い猫科のせいである。
わかる、とエレクトーラは緩んだ口元のまま、重く頷いた。
綺麗な所作なのに、可愛いのだ。
礼儀正しくて思慮深いから、ミューランのちょっとした気遣いにも助かっていた。新人なのに微力ながらのフォローをしてくれるのだ。好印象を抱かれるのも頷ける。
「で? どういうアプローチでいくの?」
面白がりつつ、興味津々とバルトロメオが尋ねた。
「……まぁ、日常会話を増やして、私的な会話もしていく仲になる」
エレクトーラの時間をかけるアプローチは開始された。
それとなく協力していたオルツは、微笑ましかった。
ミューランの反応も、悪くはない。
そして、出会って三年で見事交際することになって、ガッツポーズをした。
ある日のこと。
「え!? レイナ、君、エルフの愛が重いって話したのか!?」
別の研究室のエルフの女性であり、オルツの同期であるレイナからそれを聞いてギョッとする。
「ええ、そうよ」
当人は、ケロッとしていた。
「それ、他が言っちゃダメだろ……どうするんだよ、拗れたら」
「そんなことないわよ! だいたい、それを知ったくらいで拗れるならそれまでじゃない? ミューランは平然だったわよ」
「それまでって……無責任だな」
「何よ!」
ムスッとふくれっ面をするレイナに、オルツは肩を竦める。
ミューランはまだ、エルフの伴侶に対する愛が重いことを知らなかった。
『運命の番』がいたミューランにとっては、繊細な問題のはず。それをレイナといったら……。
レイナに秘かに想いを寄せているオルツは、それ以上責める言葉を口にはしなかった。
相変わらずエレクトーラに寄り添われているように一緒にいるミューランは普段通りに見えた。
「ね? 大丈夫でしょ?」
そっと耳打ちするレイナから花の香りがして、オルツは顔を引き締める。
オルツは、この想いを打ち明けるつもりがない。
エルフのレイナに、自分は釣り合っていないと思っているからだ。
だから、ちょっぴり。ミューランとエレクトーラが羨ましかった。
しかし、オルツは下手を踏んだ。
それはさらに三年後のミューランとエレクトーラの結婚式を終えたあと。
「みんなは、いい人いないの?」
なんて冗談を言い合っていた空気で、ミューランが便乗して言ったこと。
つい、そばにいたレイナに目を向けてしまった。しかも、バッチリと目が合ってしまったのだ。
オルツは動揺のあまり顔を背けた。それだけならまだしも、赤面してしまったのだ。
「オルツ!?」
「ッ!!」
オルツは逃亡を選択。しかし、レイナは得意な風魔法で加速して背中に飛びついてきた。
「いつからなの!? オルツ!」
「ッ~~~!!」
「あたしも好きよ! オルツ!」
「!?!?!?」
まさかの両想いに瞠目。
しかも、そのまま。
「結婚しましょう! オルツ!」
プロポーズまでされてしまった。
オルツは秘かに想っていた美しきエルフのレイナと、スピード結婚をしたのだった。
「おめでとう、二人とも」
「ミューランのおかげだよ! あたし、ずっと脈なしだと思ってたから」
「私がキューピッド? 光栄だわ」
「…………」
クスクスと笑うミューラン。
レイナから惜しみなく重たい愛を注がれているオルツだって、感謝しているが、まだまだ素直になるには時間がかかるようで、赤面して沈黙した。