58話 才能による近道
前回に続いてリディア視点となっております。
海に都市を隣接させる国、フィローネ王国から使者が来ました。
どうやらジンさんに話があるようです。一体何でしょうか?
とりあえず暇を持て余している私が案内をします。屋敷にある応接室でジンさんに会わせてあげました。
「ひっ……」
ジンさんを見た使者が短い悲鳴を上げました。
無礼ですが気持ちは分かります。怖いですもんね。でも中身はいい人なんですよ。
「ワ、ワタクシ。フィ、フィ、フィローネ王国ノ……」
ガッチガチです。顔が真っ青です。目が泳ぎまくっています。無礼を通り越して何だか可哀想です。
そんな使者を見たジンさんが凹みます。小声で『そんなに怖いか……』と呟いています。こっちもこっちで可哀想です。
「まあ、落ち着けよ」
「す、すすす、すいません……」
使者は混乱しながらも話を進めました。言葉は聞き取れない事も無いのですが、グチャグチャで何を言っているのかよく分かりませんでした。
「つまりはフィローネ王国からの招待……ってことであってるか?」
「そうでふ!」
使者が勢い良く噛みました。血の出る口元を抑えています。凄く痛そうです。
「おいおい、血が垂れてるぞ。手当して貰って来い」
ジンさんが目線で私に連れて行くよう促します。私は頷いて使者の腕を引きました。しかし、使者は動きませんでした。
「どうか、お返事を……」
泣きそうな顔で使者がジンさんに訪ねます。かなりグダグダでしたが、彼にとっては重要な任務なのでしょう。
「分かったからすぐに治療しろ」
ジンさんは使者を心配をして即答しました。優しいのは結構なのですが、もっと考えなくて大丈夫でしょうか? 招待された理由もよく分からないのですが。
「あ、ありがとうございます!」
使者は嬉しそうにお礼を言って部屋を出ました。手当の為、私も一緒に出ます。
「良かった……良かった……」
安心して呟いています。お勤めご苦労様でした。頑張りましたね。
「それでは手当に向かいましょうか」
「いえ、私はこのまま帰らせて頂きます。一刻も早くお伝えしたいので」
滑らかに口が動いています。まるで先程とは別人です。私が驚いていると、使者は逃げるように走って帰りました。手当ぐらいしていけばいいのに。
扉を開けて応接室に戻ります。するとジンさんが何かを考えていました。
「どうしたんですか?」
「えっと…………招待の目的は何だろうなーって」
ああ、やはりそこですか。確かに謎です。フィローネ王国との接点が何一つ思い浮かびません。
「安請け合いするから困るんですよ」
「さっきのは仕方無いだろ? まあ、手当してから聞き直すよ」
「えっ……」
どうしましょう。使者はすでに帰ってしまいました。簡単に許可を出したのは、後があると考えていたからですか。
「そういえば帰るのが早いな。他の奴に頼んだのか?」
焦る気持ちを隠せず、体中から汗が吹き出ました。私を見たジンさんが不思議そうな顔をします。
「…………帰りました」
「え?」
何を言われたのか分からない、と顔に書いてあります。なので、もう一度言います。
「もう、帰っちゃいました……」
「マジか……」
その後、急いで追い掛けましたが間に合いませんでした。
目的は分からない。けれど招待には応じてしまった。何をさせられるのか不安です。困りました。
「本当にすいません……」
深く考える必要があったのは私でした。反省しています。
「気にするなよ。先に内容を確認しなかった俺が悪いんだから」
笑って励ましてくれました。その気遣いに感謝です。
「それよりも、これからどうするかだな」
招待された事以外は何も分かりません。何時行けばいいのかさえも分からないのです。
「遅れるのは不味いでしょうし、やはり急いで向かった方が良いと思います」
「そうか。なら明日出発しよう。今日はもう暗いからな」
空には星が出ていました。急いでいるとはいえ、夜を徹して向かう必要まではないでしょう。
「後は村の運営と同行者でしょうか」
「村の運営は幹部だけでも十分だろう。問題は一緒に来る奴だな」
現在、私達の村はヘルベルクの職人達のおかげで立派な家が次々と建っています。建設には多くの人員が割かれており、村の中で暇な人は限られています。
「フィア様とルイン様はどうでしょう?」
あの二人は建設に関わっていません。フィア様はヘルベルクで蓄えた魔法知識の研究。ルイン様は村人の鍛練をしているからです。
「そうだな。あの二人ならきっと喜んで付いてくる」
ジンさんは納得して頷きました。
「それと、私も付いて行って良いですか?」
私は力仕事が出来ませんし、魔法で家を建てる事も出来ません。なので、最近の私の役目は食料調達。備蓄はそれなりにあるので、私一人が抜けるくらいは構わないでしょう。
「別に良いけど……責任を感じて、とかだったら別にいいんだぞ?」
私は首を横に振りました。
「先程の事は反省しています。ですが、私はそれ以上にフィローネの都の海に興味があるのです」
昔、洞窟に迷い込んだ人が『帰ったら一番にフィローネの都で海を見たい』と言っていました。私がこの村から見える夜空が大好きなように、その人はフィローネの海が大好きだったのでしょう。
ですから、その海を見てみたいのです。私の夜空とどちらが綺麗なのか、勝負してみたいのです。
「そうか。なら一緒に行こう」
「ありがとうございます!」
嬉しくなって顔がほころびます。
「では、フィア様とルイン様に声を掛けてきますね」
「ああ、頼む」
私は応接室を出て、フィア様の部屋に向かいました。
「あら、リディアじゃない。どうしたの? とりあえず入って」
フィア様が大きく扉を開いて手招きします。
「いえ、すぐに済みますからここで十分です」
私は先程の出来事をフィア様に伝えました。
「付いて来て頂けますか?」
「勿論よ! 明日が待ち遠しいわ」
フィア様は嬉しそうに返事しました。浮かび上がる笑顔は無邪気な子供のようです。
「では、次にルイン様に伝えてきます」
返事も聞いたので立ち去ろうとした時、フィア様に声を掛けられました。
「ちょっと待って」
「なんでしょうか?」
先程の笑顔とは違い、真面目な顔でフィア様は私の顔を見ます。
「人伝に聞いただけなんだけど、魔法の特訓で無理してるんだって?」
人伝とは恐らくウルさんでしょう。別段、無理をしているつもりは無いのですが。
「無理はしていませんよ。ただ、時間を忘れて没頭していただけです」
「そう。それならいいかな。でも、魔法の酷使は体に悪いからやりすぎないよう注意してね」
「はい。そこは気を付けています」
特訓で体を悪くしては本末転倒です。ある程度は気を使っています。
「ご心配をお掛けしました」
「根は詰め過ぎないようにね。魔法のことなら相談に乗ってあげるから」
フィア様が聡明さを感じさせる笑みを浮かべます。
「それなら、一つ良いですか?」
「勿論」
「強くなる近道ってありますか?」
地道な努力は大切です。けれど、近道があるなら使いたいです。
「近道だったら得意な魔法を伸ばしたらどう? 努力は大切だけれど、才能があるにこしたことはないもの」
「得意な魔法ですか……」
一つ、私には突出した魔法の才能があります。ですが、その才能を鍛えるなら、他の才能を鍛えた方が早いように感じるのです。
「気に入らない魔法だったりするの?」
「いえ、何度も命を救われているので嫌いでは無いのですが……」
嫌いではありません。むしろ種族単位で慣れ親しんだ魔法です。
「えっとですね。幻覚の魔法ってどう思います?」
私の魔法における一番の才能。それは幻覚です。
洞窟から人を追い出したり、魔物を竜の口まで歩かせたりと、今まで何度も何度もお世話になってきました。
しかし、敵を目の前にした戦闘ではどうにも使いにくい。精々、攻撃の補助に使う程度なのです。
「幻覚が得意なのね。良い才能だと思うわよ」
「私も悪い才能だとは思っていません。でも、幻覚で攻撃が出来ない以上は他を磨く必要があると思うんです」
幻覚は何処まで行っても幻覚。傷を与えることは出来ません。だから私は他を鍛えた方が良いと思うのです。
「攻撃なら出来るわよ」
「え?」
耳を疑いました。思わず聞き返してしまいます。
「幻覚で攻撃が出来るわよ」
「ほ、本当ですか!?」
驚きです。それはどのような魔法なのでしょう。
「話は簡単。痛みの幻覚を見せれば良いのよ」
「痛みの幻覚?」
どういうことでしょうか。よく分かりません。
「実際に試したほうが早いかな。ちょっと我慢してね」
「分かりました」
フィア様が魔法陣を一枚砕きました。すると小さな針が飛び出し、私の腕に刺さって消えました。傷は残っていません。ですが、痛みは残っています。今も針で刺され続けているような、奇妙な感覚です。
「針が刺さっているみたいでしょう?」
「はい。傷は無いのに痛いです」
「これが幻覚の攻撃よ。痛みを錯覚させるの。今は小さな針だったけど、剣や槍の幻覚で痛みを与えればかなりの苦痛になるわ」
フィア様が針の刺さった部分を優しく撫でました。すると一瞬で痛みは消え去りました。
「魔法が解けると元通りになっちゃうけど、攻撃になっていたでしょう?」
「確かに、これは攻撃でした」
針は間違いなく痛かったです。この幻覚は攻撃です。
「どう? 近道にはなりそう?」
「分かりません。でも、やってみる価値は十分だと思います」
もしかしたら失敗するかもしれません。だけど、近道になる可能性は大きいと思えます。
「頑張ってね」
「はい。ありがとうございます」
フィア様と別れてからルイン様にもフィローネ王国の話を伝えました。返事は即答で許可してくれました。
その後、私は自室に戻って今後の特訓方針などを考えました。早く強くなりたいです!
※※※ すいません。エタりました。 ※※※




