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空っぽ鎧の黒騎士様!!  作者: ken
三章 鬼ノ国編
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33話 黒装束の襲撃

 竜の洞窟での戦闘から一週間がたった。

 森の中で少し頭が飛び抜けた木。大人が二程で囲むようなその大木の前で、黒髪ポニーテールの女性は拳を後ろに引いた。


「はっ!!」


 掛け声と共に拳が大木に打ち付けられる。その威力は女性が放ったとはとても思えない威力をもっており、大木は穿たれて樹皮に大きな穴を作り出した。


 そんなことをやってのけるクロナを、エリーナは欠伸をしながら眺めていた。


「よくやりますわね。疲れてないんですの?」

「疲れているさ。毎日やっているから残り魔力もすくないし、なっ!!」


 話しながらまた一発。次は大木に軽く拳がめり込む程度だった。クロナは傷つけた部分を手を軽く擦ると、溜め息を吐いた。その後エリーナの方に顔を向ける。


「お前は眠っていいんだぞ?私に付き合う必要も無いのだし」


 エリーナはクロナにそう言われて少し困ったように考え、口を開いた。


「何でしょう?こう。私も何かしたいんですのよ。前みたいにならないために」


 二人の頭に浮かぶのは第三師団長の戦い。エリーナはテクニックで押されていた。


「ならその何かをしたらどうだ?見ているだけでなく」


 よくわからないといった様子でそう返すクロナ。それにまたまた困ったようにするエリーナ。


「一応確ウルと武器の扱いの鍛錬はしているんですのよ?けれど、強くなる近道……って言うんですの?側近で種族称号以外持ってるのは貴方だけですから、見ていれば何かヒントがあるかも知れないって思ったんですのよ」


 内容を聞き、クロナは顎に手を当てて少し考える。そして一つ頷いた。


「ふむ。私で良ければ見本になろう。好きにしていればいい」

「ありがとうございます。助かりますわ」


 そうしてクロナは顔を木に戻し、再び拳を引いて放つ。今度は最初の一撃同様の穴を開けた。クロナが満足そうに頷く。


「それってどういう仕掛けなんですの?」

「ああ。これか?」


 先程開けた穴を指さすと、エリーナは頷いてみせた。


「これは【突き進む者】という称号の[収束]という能力でな。全身の強化を一部に集めるというものだ」

「つまり、貴方だと全身分の[剛力]による強化を一部に纏めるって事ですの?」

「そうだな。[剛力]は一部分に集中して使っても威力は高まるが、[収束]を使えばその何倍もの威力になる」


[剛力]は強化した部位が発生させる力量を操作する能力である。鍛錬次第ではあるが、一部分につき操作できる力量はある程度決まっている。だが、[収束]はその操作できる力量の幅を全身の幅を合わせた量にする力なのだ。


 説明をしていたクロナは、少し困ったような顔で付け加える。


「ただ、発動が難く、その時間も短い。そのうえ魔力消費も激しいんだがな」

「だから威力に差があったんですのね」

「ああ。だが、鍛錬次第でなんとかなると思う。今は発動を稀に失敗するから、[剛力]を押さえて魔力の消費を減らしながら特訓中だ」


 発動時間が短い為、直前に能力を発動して殴っていたのだ。だが、その発動が失敗すれば[剛力]状態で殴っただけなのだ。

 クロナは失敗が少なくなるよう、発動時間等を伸ばそうとしているのだ。


「その威力で抑えているなら、鍛錬してうまく使いこなせるようになると強そうですわね」

「そうだな。少しでも速くそうなりたいものだ」


 一区切りついた所でクロナが鍛錬に戻ろうかと思った時、エリーナの表情が急に険しくなった。


「……どうした?」


 反応の意味が理解できず、首を傾げて尋ねる。だが、エリーナはその言葉に答えもせずにクロナの元まで駆け寄り、耳元に口を寄せる。そして小声で短く告げる。


「隠密、包囲、三。距離、五十」


 その言葉でクロナは目を丸くした。


 エリーナの言葉は、五十メートルの距離で姿を隠し、包囲している物が三人いるという事を意味する。


 エリーナの[気配察知]の能力はとても優秀であり、意思さえあれば生物でなくとも察知する。そしてその範囲は最大五百メートルを超える。常時発動しているものでも三百メートルは探る。普通、遠距離攻撃で無ければ不意打ちなど出来ない能力なのだ。だが、今それほど優秀な探索能力を持つエリーナに、たったの五十メートルまで近づいたのだ。反応した以上それは意思を持つ。つまり、それが意味する事は、それ程の実力を持ったものが三人も二人を狙って来ているということだ。


 戦うか。逃げるか。それ以前に逃げ切れるのか。クロナは必死に考えていた。


「来る!!」


 クロナが歯噛みしていると、エリーナが叫んだ。それと同時、三人の者が現れた。


「まったく……俺らに気付くとかスゲーな。お前が空の黒騎士……なわけねえか」

「当たり前だろうが。黒騎士は男という報告だ。恐らく部下の者だろう」

「となると、もしかして第三師団長とやりあった奴等?それなりの強さかしら」


 二人を囲みながら余裕に話を始めた三人。全身を黒い布で覆い、顔は黒い塗料で見えづらくしている。


「さーて。どうする?見つかったし……ばれないように埋める?」

「馬鹿が。報告を聞いていたか?殺すな」

「そうよ。さあ、はやくエサを捕まえましょう」


 そうして黒装束の三人は、それぞれの方向からクロナとエリーナに音もなく攻撃を仕掛けた。

 エリーナは[高速]を発動し、一気に黒装束の後ろに回り込んだ。そのまま拳を握ってうなじを殴る。狙いは脳震盪による気絶である。だが、その目論見は外れてしまった。


 寸前で気付かれてしまい、振り向いた者の頬を殴る結果になったのだ。


「ぐふっ!!」


 ダメージにはなったようだが、行動不能にまでは追いやれなかった。相手はすぐに立ち上がった。


「いってえな、おい!!速すぎね!?」

「ふん。油断してるからそうなるのよ」


 仲間の負傷を少し気にしながらも、二人の黒装束はクロナを短剣で切り裂いていた。クロナは必死に躱して致命傷を避けてはいるが、深いキズが何本も刻まれていた。だが、致命傷に至らないのは恐らく黒装束が手加減しているからだろう。


「馬鹿は良い。それよりも足を潰せ」

「はいはい。了解」


 一人が足を潰せと言った途端。クロナの足に二つの血塗れの刃がそこに向かった。喰らえば確実に移動能力を削ぐだろう攻撃。だが、そこでクロナは足を守ろうとしなかった。


「対価は貰うぞ!!」


 クロナは[剛力]を全力で使用。同時に[収束]で右手の小指から手首の側面のみを強化した。手加減していながら、拳を強化して木に大穴を開ける威力。それが全力で手の極一部に集められた。纏められた暴力的な力は、並みの武器などよりも遥かに強い。


 一つの刃を手刀で捻じ曲げ、[収束]の力が消える。だが、勢いを緩めずに手刀を振り続け、もう一度[収束]を発動して太ももをバターを切るようにあっさりと肉を抉り、骨を粉砕した。鍛錬の効果はここで実証されたのだ。

 クロナが敵の移動速度を削ぐと同時、もう一方からきた刃が片足のアキレス腱を切り裂いた。


 足を潰されたどちらも片膝を付き、苦痛に顔を歪める。


「どんな馬鹿力だ……くっ!!対価を取り過ぎだろう……」

「私の傷を全部合わせれば、まだ足りないと思うぞ……」


 息も荒く。二人は睨み合う。そんな中、アキレス腱を切り裂いた女がクロナの背後で距離を取る。


「あんたは危ないね。遠くから狙わせてもらうよ」


 そう言って一枚の魔法陣を作り出し、短剣を投げて割った。

 一枚の魔法陣。そこから放たれるのは殺傷能力皆無に等しいただの強風。だが、短剣がその風に運ばれて速度を上げている。当たればクロナの肌など軽く破り、深く突き刺さるだろう。そんな攻撃がクロナに向かって飛んでいった。


 その一撃をクロナは体を転がして躱す。だが、更に三本の短剣が飛んできた。


「まだまだあるよ!!どうする!?」


 飛んできた三本に加えて、更に数本のナイフが魔法陣を割り、次々と光を散らして飛んでくる。

 魔法陣を一枚しか出していないため、展開に時間がかからないのだ。


 足が動かず、全てを避ける事は困難と判断したクロナは片腕を盾にした。そして来るべき衝撃に備える。だが、それはやって来なかった。


「お待たせしましたわね。二人も押し付けてごめんなさい」

「いいさ。間に合ってくれたんだからな」


 エリーナが二人の間に割って入っていた。エリーナも足を狙われて片足の傷がひどく、その足にはあまり力が入っていない。辛うじて立っている状態だ。

 そんな彼女は両手に黒装束が使っていた短剣を握り、全ての短剣を否したのだ。[高速]を頻繁に使用し、速さに慣れているエリーナだからこそできる芸当である。


「ちょっ!!あんたの相手は私じゃなくて……っ!!」


 そこでナイフを投げていた黒装束は気付く。エリーナを相手していた者も、足を抉られた者も気絶している事に。


「ああ。道理でどっちからも援護が無いわけね。しかし、足が動かない味方の助けに回る気とか無かったの?仲良さそうに見えたんだけど?」

「そうしていたら、今頃その技を三人に使われて蜂の巣状態でしたわよ?さすがに私もその量は相手出来ませんもの。パッと見の戦力で負けているのですから、危険は潰しておかないと。それに──」


 エリーナはクロナを見て微笑んで続ける。


「私の友人はしつこいんですのよ」

「まあそうだが、もっと良い言葉を使ってほしいな」


 クロナには[再生]の能力がある。魔力の消費がかなり激しいが、自己治癒能力を高める能力だ。今発動すればほぼ間違いなく魔力が枯渇するので使わないようにしているが、いざとなればこれを使えばいいのでエリーナは安心して敵を任せられたのだ。


「そう……でも、ここからは一方的よ。速さが自慢のあんたにはもう速さがない。力が自慢のもう一人も近づかなければさほど怖くない。それ以上の何かをこの状況で隠しているとも思えないしね。もうあんた等はあたしに勝てる可能性は無い」


 戦闘態勢を取って余裕の笑みを浮かべる黒装束。だが、逆にエリーナは力を抜いた。


「ん?何、諦めた?」

「いえ。私達の勝ちですわ」


 自信たっぷりに言いはるエリーナに違和感を感じ、警戒で目を鋭くする黒装束。だが、すぐにその顔は変わった。


 ──恐怖で。


「あ、あああ。あ…………きゃあああああああああ!!」


 恐怖に身を包まれた黒装束は叫び、身を屈め、体を異常なまでに震わせる。目の焦点はあっておらず、口も震えて塞がらない。目鼻口からは様々な液体を垂らしている。


「おい」


 たったそれだけ。たったそれだけ声を掛けられ、黒装束は失禁しながら気絶した。


「……やり過ぎたか?」


 そう言ったのは羽を背に生やし、空を飛ぶジンだった。


 先ほどまで苦戦を強いられていた相手を、ジンはひと声かけただけで倒したのだ。


「……やはり私はジンの配下で良かったよ」

「……ええ。私もそう思いますわ」


 凄いと思いつつ、あっさり倒されて少し凹んでしまう。そんな複雑な気持ちの二人であった。

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