9話 虎の手
バレちゃった。
なんだよ。このウザイお嬢様口調の奴。初めに俺を見つけた時はビビって叫んだくせに。子供達がいなかったらぶっ飛ばしてるのにな。
ベタに木の枝を踏んだ音でコソコソ近づいたのがバレ、さらには全員がきっちりと効果範囲に入っていたらしく、追跡してたのもバレてた。
ちょっと舐めすぎてたな。
そして今、子供達を囲むようにしてラピッドタイガーが数匹陣取っている。「動けば殺すぞ!!」と言われ、手を上げて突っ立っている状態である。
「あらあら、どうやって消していたかわからないけれど、反応も出てしまったわね。となると、精神体って訳でも無いようね。さあ、あなたがここまで来ることが出来た理由を薄情なさい!!でなければあなたの鎧を自らの血で汚すことになるわよ!!」
「やってみろよ。出来ないから」
だって俺中身空だし、血なんてないし。
「ふん。威張ってられるのも今のうちだけよ。やっておしましいなさい!!」
掛け声でラピッドタイガーが数匹斬りかかってくる。しかし、鎧には傷一つ付かない。
「くっ!!切れないだと!?」
「なんて硬さだ!!傷もつきやしねぇ」
「股間を思いっきり叩いたのに痛がる素振りも無いなんて……」
それぞれが驚きを口にする。
最後の奴、地味に恐ろしいな……。
「だから言ったろ?」
「ふん!!ずいぶんと頑丈なようね。だーけーれーどーも!!鎧が傷つかなければ直に切ればいいじゃない!!」
なんだよ。その『パンが無ければお菓子を食べればいいじゃない』みたいな言い方。お前の発想は革命を生むかもしれんぞ。
「お嬢の言うとおりですね!!」
「さすがお嬢!!頭いいぜ」
「お嬢はやることがいつもせこいものね!!」
「そうでしょう。そうでしょう……最後のは私の聞き間違いよね?」
「当たり前ですよ」
「そうですぜ」
「聞き間違いじゃありませんよ」
「……三匹とも後でお仕置きね」
二匹が涙目で最後の一匹を睨む。しかし、最後の一匹は嬉しそうにして見ていない。
マゾかよ……。二匹は頑張ってくれ。
「とにかくあいつを殺すのよ!!」
「「「はい!!」」」
良い返事をして俺の鎧を脱がすべく頑張るが、虎の体である以上難しいようだ。まあ、人間の手でも俺の[防具操作]の力で外せないのだが。なのでそこは心配なかった。だがしかし、今一つの問題が俺を苦しめている。
ヤバイ、肉球超気持ちいい。
ラピッドタイガーの肉球が体の色んな所に当たるのだ。
幸せ~。でも、子供達をはやく助けねば。でもでも、もうちょっとくらいは~。でもでもでも、子供達が~。ああー!!どうしよう!!
脳内パラダイスである。
「ええい!!じれったいわね!!もういいわ。あなた。子供達を殺されたくなければ自害なさい!!」
「チッ!!やめさせんじゃねぇよ!!」
「え?」
「あっ。なんでもないよ~。自害だよね。自害」
あっぶねぇ。本音出ちゃった。さて、パラダイスタイムも終わったし、そろそろやるか。
「あのさ、子供達を殺されたくなかったらだよな?」
「当たり前でしょう?」
「もうそこにいないのにどうやって殺すんだ?」
「はぁ?何を言ってい───」
そう言いながらお嬢様口調のラピッドタイガーは振り向き、絶句した。
それもそのはず。子供達はいなくなり、俺と会話していた四匹以外のラピッドタイガーが全員気絶していたのだ。
「は、はああああああ?一体何が……」
「いや~。感謝してよ?肉球が無かったら、全員命無かったよ?」
本当は初めから全滅させる気なんて無かったけどね。
仕組みは簡単。
蔓を地面の中を通して操り、一番後ろの奴から順に締めていくだけ。子供達は驚いて声を上げられると面倒なので、優しく首を締めて気絶させてから安全地帯に運んだ。因みに、反応が出たと言っていたのは、蔓をだしてジトカ草と一体化したからだろう。
通常通りだと地面は貫通出来なかったが、[覚醒]を使った全力使用なら出来た。
正直な所、いつバレるかヒヤヒヤした。生物反応の探知能力は何処にいくつの反応があるかまでしかわからない。なので本体から離れた蔓までは気づかなかったのだ。しかし、後ろを向かれたらアウトだったので、俺に注目していてくれてよかった。特に危なかったのは近くの三匹、後ろを向かれないようにどれだけ俺が体をクネクネさせて誘導したか。
「さ~て。そろそろ俺の力を見せちゃおうかな~」
「ふ、ふん!!あなたの仲間は距離が遠くて何もできませんわよ?つまりは四対一なのよ」
「だから?」
こいつらは今回誰も殺しておらず、未遂であり、なにより肉球が気持ちよかったのでビビらせるだけにしてやることにする。
近くにある岩を高熱化による手刀にて溶かし切る。
「そ、そんな事したって無駄よ!!私達には名前の通り速さという武器が───」
「武器が?」
言葉を言い切る前に身体能力全開により、一歩で詰め寄る。いきなり止まったせいで地面が軽く抉れたが別にいいだろう。
俺の力技による速さに、ラピッドタイガー達は口を半開きにして驚いている。
「あ、えっと……その……」
「殺され───」
「すいませんでした!!ごめんなさい!!私が悪かったですわ!!調子に乗ってましたの!!殺さないで下さい!!お願いします!!」
『殺されたくなければ二度と狐人族に手を出すな』と言おうとしたのだが、とんでも無い速さで謝罪が来た。
「えっ?あ、うん」
あっ。ミスった。勢いで返事しちゃった。
言葉を付け足そうとしたが、相手はチャンスを逃しはしなかった。
「やった!!ありがとうございます!!ありがとうございます!!いや~。あなたがいい人で本当に良かったですわ!!まさか取り消したりしませんわよね?あなたは一度言ったことは取り消さない素晴らしいお人に見えますもの!!ね?ね?ね?」
「う、うん?」
「ですわよね~。そうだ!!昨日の敵は今日の友!!私とあなた、いい友達になれそうではありません?ああ、でもあなたなら私達を守ってくれそうだし、配下になってしまったほうがいいかしら?もういっその事両方なんてどうかしら?」
「そ、そう?」
「ええ!!も~ち~ろ~んですわ!!さあ!!それではいいですわね?」
「えっ?は、はい」
「返事をなさいましたわね?これで約束されましたわ!!我が友であり、我が主よ!!今日からよろしくお願いしますわ!!」
「うん……」
なんだろう……まともな思考時間が無かったからか?丸め込まれた感が凄い。
「さあ!!それではあなたの行く先に付いて行きましょう。もう我等はたったの四匹。身軽なフットワークで何処へでもついていけますわよ」
「え?集落に来た三匹は殺したけど、後は気絶させただけだぞ?さっき『肉球が無かったら、全員命無かったぞ』っていったろ?」
「そ、そそそそうでしたっけ?て、てっきりもう四匹だけかと……」
こいつ焦って俺の言葉飛んでたな。
「どうする?俺の配下やめるか?仲間を三匹殺してるわけだし。配下になら無くたって、別にお前らを殺しはしないぞ」
「いえいえ。と~~~んでもございませ~ん。あなたのような強い者につけば生涯安泰ですもの!!三匹に関しては元はと言えばこちらから喧嘩を吹っ掛けた状況なので、むしろこれだけの被害で済ませて頂いてありがたいくらいです。狐人族にも謝罪し、受けるべき罪は受けましょう……まさかですけど、罪を償った配下をひどい扱いしませんわよね?」
「まあ、そうだな」
「でしたら何も問題ありませんわ!!さあ!!白目剥いた馬鹿者共を叩き起こして、狐人族に謝罪に参りましょう!!」
それから俺は流されるままにラピッドタイガー達を引き連れて集落に帰る事になった。
一緒に追跡していた奴らは警戒したが、ラピッドタイガー達全員での謝罪でなんとかなった。
そして、集落に戻ると必死に謝罪した。それはもう引くくらいの。
「ごめんなさい!!」、「すいませんでした!!」、「許して下さい!!」をローテーションで、全員きっちり揃えて言ってくる。頭を下げるタイミングすら見事に揃っている。
お前らは一体どこでそのテクニックを身につけた。
呆れた狐人族は、人的被害もないし食料をいくらか渡せば許すという事にしたようだ。
ラピッドタイガー達は喜び、お礼を述べた。
そこでラピッドタイガーたちと狐人族の問題は解決した。と思ったらまた別の問題が発生した。
「オホホホホホホ!!私達はジン様の配下!!あの方の手足なのよ!!」
とあのラピッドタイガーが言い。
「後から来た小奴らが配下になっているというのに、何故儂らは配下にしてもらわんのじゃ!!ウル!!一刻も速く配下に入れさせてもらえるようにお願いするぞ!!」
という事を信者のあの爺さんが言ったからだ。
さっきまでの態度は何処へやら、ラピッドタイガーが誇らしげに俺の配下である事を自慢する。それを狐人族は羨ましそうにする。信者に至っては泣く奴までいた。あの爺さんも泣いていた。いい年して自慢話で泣くなよ。
この事でお互いに可笑しな遠慮は無くなり、むしろ仲良くなったようだが、このままだと信者が暴れだしそうだ。
どうなるかと思いながら見ていると、ウルが話しかけてきた。
「ねえ、ジン。私達を配下に入れてくれない?」
「別にいいけどさ、全体の意見としてはいいのか?信者の発言でって事なら反感を買うんじゃないか?」
「そこは大丈夫。しっかりと集落で会議をしたわ」
「そうか。改めてよろしくな」
「はい。よろしくお願いいたします」
ウルは頭を下げてから、悩んだように俺に聞いてきた。
「それで……えっと……もう配下として敬語にすべき?それともまだあなたを友達として扱っていいのかしら?」
ウルは配下になるなら友達は無かったことにすべきかと悩んでいるようだ。だが、俺は友達が欲しかったのだ。今更関係を変えるなど嫌だ。
「友達の関係は無くしたくない。何か無い限りは友達としての関係を優先してくれ」
「わかったわ。友達としてもよろしくね」
「ああ、よろしく。こっちのが楽でいい」
体で表現するようにダラ~ンとすると、ウルがフフフと笑った。
「そう。私もこっちのほうが楽でいいわ。けれど、変わっているわね?普通なら配下を友達扱いなんてしないわよ?」
「いいんだよ。俺が欲しいのは友達だ。お互い信頼しきれるような友達。ウルはそんな関係になってくれるって信じてるぜ」
「ええ。期待してくれていいわよ」
俺達はお互いに顔を合わせて笑いあった。




