10話 初めての酒
色々あったが目的の洞窟らしき物に行く事が出来そうだ。しかし、俺の配下達をこのままにしてはおかない。折角の部下だし、大切にしてやらねば。
という訳で、まずは自己紹介をし合った。
ラピッドタイガーはヘルウルフ同様に名前がないらしい。判別がしにくいので、名前を付けるように言った。すると、名付けてくれと何匹か言ってきた。面倒なので長の一匹以外は、全員勝手に名前を作るように言った。
というわけで部下の強化である。しかし、すでに進化した者を抜いた狐人族四十人とラピッドタイガー三十匹という量を進化させるのは大変そうだ。
とりあえずは約束の食料調達に苦労しないよう、ラピッドタイガー達を進化させることにした。
「エリーナ。ちょっと来い」
エリーナとは、お嬢様口調のラピッドタイガー達の長の名前だ。ラピッドタイガーで俺が唯一名前を付けた奴である。
「何かしら?ジン」
「ちょっと進化させてやるからここに入れ」
借りて置いた、狐人族の住処の一つを指さす。
「え?進化?そんなに簡単に出来るわけないじゃない」
「俺の能力で出来るんだよ。いいから来いって」
信じていないようだが、『百聞は一見に如かず』だ。とにかく入ってもらった───
「ちょっ!!これ!!凄いですわ!!進化ですわよ~。あの進化ですわよ~。ウフフフフフフ」
踵を軸にしてグルングルンと回転する元ラピッドタイガーの亜人。猫の耳と尻尾が付いており、金髪の縦ロールだ。
「ちょっ!!おま、やめとけ」
思わず目を手で覆ってしまった。
「え?何故ですの?」
回転を止めて不思議そうに訪ねてきた。手を外して横を向いてから答えてやる。
「いや……だってさ……双丘が……」
「双丘?……ああ、胸ですわね」
そうなのだ。そこが問題なのだ。エリーナは胸がデカイ。なのに腰が細い。そう、スレンダーな巨乳だったのだ。さらに顔も結構いい。それが全裸で回転するものだから、もうブルンブルンと……さすがに恥ずかしくなって見れなかった。
「オホホホホホホ。私の美しいスタイルに魅了されていたのね!!」
手の甲を口元に当てて偉そうに言ってきた。イラッとするが、間違ってもいないので反論出来ない。
「……」
「あら?何も言わないの?もしかして本当にそうなのかしら?」
「……」
「え……本当なの……」
「……」
答えたくないので黙っていると、急に顔を赤くし始め、手と尻尾で体を隠す。
「ちょ、ちょっと見ないでくださる!?よくよく考えてみればかなり恥ずかしい状況でしたわよ!!」
「今頃気づいたのか……待ってろ、服作るから」
後ろを向き、ミシン並みの速さでチクチクと縫うこと数分程。
「これやるから着ろ」
「ありがとう……」
毎度のようにホノサウルスの皮で作った服を着てもらったのだが……服の上からでも胸が凄い。
「落ち着いたか?」
「まあ……なんとか」
まだ少し顔が赤いがいいだろう。
「じゃあちょっと調べさせてくれ」
「調べる?何を?」
「ん?能力とかだな。動くなよ」
手を翳して調べてみる。
個体名:エリーナ
種族:猫人
称号:【猫人】[気配察知]意志を持つ存在の気配を広範囲察知可能。
[高速]速度の強化が可能。
ふむ。猫なの?虎から猫なの?犬人の時もそうだけど、いいのか?まあ俺は狼や虎よりも犬猫の方がいいけどさ。
能力の[気配察知]は前よりも強化された感じだな。存在の気配。つまりは俺みたいな奴も対象になった訳だ。
[高速]は犬人の[剛力]みたいなもので、一時的な身体強化だろう。
さっそく伝えてやった。すると、直線距離ではおそらく俺よりは遅いが、かなりのスピードで反復横跳びをしだした。しかし、俺の力技と違って小回りが効きそうだ。
「へえ~。なかなか便利ですわね」
伝えてすぐに出来るようになるだと!?よく考えれば追跡してた時も俺と同レベルの気配察知能力を使ってたようだし……もしや、こいつ天才か?
「さて。もう終わりですの?良ければすこし力試しでもしに行きたいのですけど」
「ん?一人だけでか?」
「いいえ。よく一緒に行動する三匹を連れて行きますわ」
「ああ、あいつらか。なら少し待て。進化させてやる」
「本当ですの!?ありがとうございます!!」
という訳で三匹を進化させみると───
「お嬢。これからもお力になります」
そう言ったのは目が開いているかわからない程細い、笑顔の似合う色白で爽やかそうな美青年。
「我等の力を存分に使ってくだせぇ」
そう言ったのはガタイの大きい筋肉ムキムキで色黒のワイルド系のイケメン男。
「これでさらにお嬢のお仕置きに耐えられます!!これからはもっと激しくお願いします!!」
そう言ったのは赤い髪で背が高い美少女。
マゾの人は女だったのか……マゾ+百合って大丈夫か?
「いいでしょう!!まずさっき私をせこいと言った罰よ!!」
「待ってください!!お嬢」
「そうですぜ。悪いのはこいつだけだ」
「三人分お願いします!!」
「黙りなさい!!連帯責任よ。全員いつものように頭を下げるのよ!!今回は百セット!!」
そうして始まったのは「ごめんなさい」、「すいませんでした」、「許して下さい」の三つをローテーションで同時に言う事で、タイミングを間違えると体の何処かを抓られるというものだった。結構な力でやるので一度でも涙目だ。
あのシンクロ率はここで鍛えられたのか……マゾの人はきっとわざと間違えてるよな。もうなんか視点が定まってない上ににやけながら涎たらしてんもん。被害者二人には頑張ってもらいたい。
引いてしまい、見るのが嫌になったので静かにその場を後にした。
他の奴等を進化させるかと思っていると、火の玉で肉を焼いているウルと仙狐人に進化した者達を見つけた。
「焼いてもいいのか?煙たくなるぞ」
洞穴は少し地下になるように出来ているが、しばらく煙は残ってしまうのだ。
「そうなんだけど、今日は配下になった記念だからって焼くことにしたの」
「そうか。焼く人数は足りてるか?」
「ええ。なんとか。気にしなくて大丈夫よ」
「わかった。なら俺はラピッドタイガー達の進化の続きをしてくる」
「そう。用意が出来たらよぶわね」
火で肉を焼きつつ、手を振ってくる。
器用だな。もう[炎呪]は使いこなしているのか。
「ああ。じゃあな」
手を振り返して俺はまた進化させる作業に戻った。
ラピッドタイガーを全て進化させた。やはり進化したら顔が良くなった。もうこれは決まりだろう。
しかし、女性の方々を一度に進化させた時は全裸でテンションが上がりまくりなのだが、男達を進化させた時は進化でどうなるかという楽しみ以外、特にテンションは上がら無い。男の全裸見たってね……むしろ進化を除くと軽く嫉妬するな。なんだよ!!皆良い面しやがって!!こんにゃろう!!
ああ、でもイケメンならいいってわけでもないんだよな。晴彦とかそのいい例だ。あいつって顔が良いのにやることダメだもんな~。「付き合ってください」って言われて「何処まで?職員室?」とか平気で言ってた時もあったな~。どこのお話の天然主人公ですかって話だ。
さて、今回はこんなくだらない事を思い出す余裕もあった。どうやら犬人族の時で魔力量が鍛えられたようなのだ。とは言っても普通に動くのでギリギリだけどね。
服も配って着せた。これで行動するのに問題無いだろう。
しかし……俺の配下が全員亜人になったのか。犬人族が三十人、猫人族が三十人、狐人族と仙狐人族を合わせた数が五十人の計百十人の上司か。軽い村長じゃね?いつの間にか結構な責任ある立場になったな。しっかりせねば。
それからしばらくして、宴会に呼ばれた。
いくつかの焼いた肉の山を囲むようにしたグループが出来ている。俺はその全てが見渡せる位置に用意された肉の前につれていかれた。どうやらここは、それぞれの立場が上の者が集まるようだ。チャノとエリーナが座っている。おそらくウルも座るだろう。
「我らが主よ。宴の始まりをお告げ頂けますか?」
ウルが初めてあった時のような綺麗な動作で礼をしてくる。今は部下モードのようだ。
「え?俺がするの?」
「勿論です。あなたは我等の主なのですから」
ニッコリと微笑んでくる。
確かに。一番えらい奴がこういった事はするべきだろう。
「そうか、わかった」
俺がそう言うと、ウルはスッと下がっていった。
ウルは秘書とか向いてそうだ。色々完璧にしてくれそうな気がする。
まず、端から端まで皆を見る。そして俺は声をかけた。
「皆配下になってくれてありがとう!!今日は思いっきり騒いでくれ!!」
こうしてお祭り騒ぎは始まった。
驚いた事に集落には酒と香辛料があった。森の植物で作ったのだとか。
これで香辛料付きの肉が食える!!……とは言っても鎧に当てて味を感じるだけだが。食感が欲しい。
勿論お酒も飲めない。この世界なら飲酒に年齢制限もないから飲めるのに。ああ、もうノンアルコールではなく、アルコールの入ったお酒を飲んでも許されるのに飲めないなんて!!味だけだなんて!!酔う感覚を味わってみたかったのに!!
そういえばお袋はお酒に酔うとやたらとテンションが高くなる人だったな。酔い過ぎると親父を柔道の技で投げ飛ばしまくって騒いでたっけ。
親父。警官なのにそれでいいのか?と初めて見た時は思ったが、わざとやられてるみたいだったのできっとストレス発散に付き合ってやっていたのだろう。けれど、その後で破れた障子を貼るのを手伝わせないで欲しいと思ったものだ。
色々と考えながも、肉と酒、香辛料の味を楽しんでいると、チャノと話していたエリーナが俺に標的を変えてきた。
「あら、ジン。全然減っていないじゃありませんの。調子でも悪いの?」
「ああ、違うんだ。俺は食べ物を食べられなくてな、食べ物の味だけを楽しんでいるんだ。だから用意してもらっている量も少ないだろ?」
「そういえばそうね。でもどうして食べられないの?」
「ん?気になるか?ちょっと待てよ……」
俺は兜を両手で外してやった。中は勿論空である。
「なっ!!」
一歩後退って大きく驚いてくれた。良い反応である。
こうした反応って嬉しいよね。
「こんな事も出来るぞ」
オオムカデと一体化して兜を宙に浮かべて回す。
「お~。すごいですわね」
「だろ?俺の一発芸だ。実は色々あってこの鎧に魂が入っててな。今はこの鎧が体の役割をしているんだ。だから元は男だが、今は性別もない状態なんだよ」
「へ~。珍しい事もあるものですわね」
兜を元に戻すとチャノも会話に参加してきた。
「すごいでふね~。さすがジン様でふ~」
酔っぱらっていた。近くで話しかけられた俺とエリーナが鼻を押さえる。
「臭っ!!チャノ!!あなたいったい今の少しの間でどれだけお酒を飲んだの?私と一緒で飲んだ事が無いからあまり飲まないって言ってたじゃないの!!」
「いや~それがでふね~。あ~んまりにもおいひいいんで~。ちょっぴりのみふぎちゃいました~。テヘッ☆」
臭い。けど今のは可愛いかった。ラッキーである。
酔っ払ったチャノはエリーナによって運ばれていった。
「ねぇ。ジン。ちょっと良いかしら?」
チャノ達の後ろ姿を眺めていると、俺の後ろからウルの声がした。
「ん?なん───」
「えいっ」
後ろを振り向くと同時、視界が暗くなり、顔面に温かく柔らかい感触がある。兜の後ろにも似たような温度の物が何か二本。
「えっ?何?何が起きた?」
「もうっ。分かんないの?今どこに顔を埋めてるか」
すぐ上からウルの声がした。
柔らかさ+埋める+すぐ上からの声=『 』
答えは簡単だった。
「ちょっ!!お、お前!!何やって!!」
「気付くの遅~い」
肩を掴んで引き剥がす。するとそこには、酔っ払ったウルがいた。
目は潤んでキラキラ輝き、トロンと垂れており。頬は赤く染まり。息遣いは荒く。耳は垂れ。着崩れた浴衣のような服から見える、汗を掻いて湿った肌には乱れた髪が張り付いている。なんとも艶やかである。
……えーっと。どうしよう。
「ジン。手、どけて」
「え?ああ。うん」
言われたままに手を離すと、ウルは抱きついてきた。耳元で荒い息が当たる。
「なっ!!だから何してんだよ!!」
「ウフフフ。照れてるの?可愛い」
そして頭を撫でてきた。
「えっ!?あ?ん?な?へ?」
声は掠れている。もう何が起こったかよくわからない。パニック状態である。
俺には顔の怖さで近づいてくる者が殆どいない。さらに身近な人で異性なんてお袋と百合花ぐらいだろう。お袋は論外、百合花は小さい頃から一緒なのであまり意識などしたことはない。故に女性免疫がゼロに等しい俺にはこの状況はハードすぎるのだ。
慌てまくっていると助けの声がした。
「ウルが暴走しておるぞ!!ジン様を助けるのじゃ!!」
ウルは女性達に運ばれていった。
「申し訳ありません。ジン様。孫がご迷惑を……」
信者の爺さんだった。ありがとう。ちょっと残念な気もするが、本当に助かった。
「いや、いいよ。助けてくれてありがとう。何だったんだ……一体」
俺が尋ねると信者の爺さんは困ったような顔をしながら説明してくれた。
「それがですな……ウルは酔うと、泣き始めるか、抱きつく癖が出ましてね……まあ、抱きつくのはある程度信用している者と決まっているのですが……男には抱きつかんのですよ。もしやジン様は女ですか?」
「いや。心は男だ。だが体に性別は無い。ウルが抱きついてきた理由はきっとそれだな」
ちょうど俺の体の話をした後だしな。
「なるほど、性別が無いからですか。ありそうですね」
「ああ。今回は助かったよ。ありがとう。もう戻ってくれてもいいぞ」
「はい。わかりました」
爺さんは礼をして信者達と元の席に戻っていった。その途中、話声が聞こえてきた。
『聞いたか!!ジン様には性別が無いらしいぞ』
『ああ。正直、信仰が勝っていたから言っていたが、男を相手するのは嫌だったんだ。』
『俺もだ。良かったぜ。これで男の信者達、皆が遠慮無く───』
そこで会話が聞き取れなくなった。
なんだ!?遠慮無くなんだ!?嫌な予感たっぷりじゃねぇか。
色々あったがお祝いは終わった。
次の日、ウルが真っ赤な顔で頭を下げて来た。
「本っっっ当にごめんなさい!!あんな事しちゃって……」
顔を赤くして目を泳がせるウル。これがギャップ萌えか。可愛いな。
「別にいいさ。まあ気にするなよ。俺が得したようなもんだしな」
「……本当にいいの?」
目を潤ませて上目遣い。これは一種の武器ではなかろうか。
「当たり前だ」
「そっかありがとう」
「ああ」
ウルは大きく深呼吸をして落ち着きを取り戻し、俺に聞いてきた。
「洞窟へは何時行くの?案内するのだし、出発日を教えてもらえる?」
「そうだな。全員進化させて、しっかり休んでもおきたいから……後三日って所かな」
「わかったわ」
そう言ってウルは俺から離れて行ったが、途中で止まり、クルリと俺に向き直って礼をした。
「皆を助けてくれて、本当にありがとう」
顔を上げたウルは、まだ顔を赤くしたまま微笑んだ。




