選ばれし者編side story「ノベレット」
「悪いが魔神よ。この世界を再び闇に染めさせたくは無いのだ」
そう言って、剣を抜いたのは男性だった。それも輪廻がよく知る男性だった。
「あらあら、あっさり背後を許すのはどうやら私だけじゃないようね」
輪廻はその様子を見てそう言い、にやりと笑みを浮かべた。
そして止めを刺そうと、一気に駆け出す。その勢いで、ぬかるんだ地面が波を打ち、さらに激しい風を発生させる。
「さようなら。Cide『ジェノサイド』」
走る輪廻の左肩辺りに無色透明の剣が現れる。
輪廻はそれを右手で掴み取り、素振りするように薙ぎ払うと、その剣は色を得、実態を明らかにする。
そしてその剣は勢い良く突き出され、そのまま少女を貫く。はずだった。
「あなた……何を……」
想い描いた通りに行かなかった輪廻が、思わず呟く。
そしてその呟きに、輪廻の剣を禍禍しくて巨大な鎌で弾いた、ドレスで金髪の女性が返事をした。
「あなたこそ、何をするつもりで?」
剣を弾かれた事により崩した体勢を輪廻は素早く復帰し、そのまま回転しながら足払いをする。
女性はそれを低く飛び上がり、回避すると、次に輪廻は浮かび上がる女性を剣で横に薙ぎ払った。
しかし女性は、それさえも剣の払われた方向へ側宙するように回避し、ぬかるんだ地面に華麗に着地する。
輪廻は少し苛立ちを顔に出しながら聞き返した。
「聞いているのはこちらよ? ノベレット」
「……では、言わせて頂こうかしら。まずあなた方は、会議で決定した事項に犯則しているわ。覚えて無いとは言わせないわよ?」
「決定した? 何がだ?」
男性が思わず、反応する。
「魔神の排除はメイガス大魔法使いが行うって事よ」
「それは貴様らが勝手に言ってただけだろうが!」
「言葉の使い方に気をつけなさい。アンノウン。まぁ、なんにせよあなた方がこの決まり事が守れないと言うのであれば、少し面倒ですけどこの二匹の魔神を保護するまでよ」
「させると思うのかしら?」
輪廻が剣先をノベレットに向ける。
「出来ないと思う? 所詮あなた方は、この物語のみで役者を演じている登場人物の一員に過ぎない。故に、あなた方はこの物語に反する行動は起こせない。この意味分かるかしら?」
「ええ、分かるわよ」
「お利口ね。だったら次にあなたの取る行動は、少しでもあなたの願望が成功する確率の高い行動よね? 計算は得意でしょ?」
「……引くわよ、アンノウン」
少し間を置いて、輪廻はノベレットを睨みながらそう言うと、その姿を空間の歪みへと消した。釣られるようにアンノウンも姿を消す。
そして残ったノベレットは、固まる二人の魔神の元へ歩みを進め、言った。
「良かったわね。あの二人の経験値にならなくて済んで。そして、私に感謝しなさい。これでしばらくは狙われないでしょう」
「貴様……どういうつもりだ」
少女は泥まみれの女性に肩を貸しながら言った。
それに対してノベレットは、地に落ちている折れた剣先を拾いながら答えた。
「どういうつもりも何も、ただ養殖よ。それ以外の何物でもないわ」
「貴様!」
少女は吠えるように言った。
しかし次の瞬間、少女の顔を掠めるように折れた剣先が通り過ぎて行った。
「私は人間。あなたは魔人。これだけで十分過ぎる理由でしょう?」
少女は何も答えられなかった。
そこへノベレットは続けて話す。
「これからあなた達には理不尽な分岐点が何度も訪れるわ。選択肢を間違えなければあなた達にも好機は訪れるでしょう。コンテニューは出来ないけれど、頑張ってね。それでは御機嫌よう」
ノベレットは魔人に手を振りながらこの場から姿を消す。
二人の魔神だけが残された。
これから先は、断末魔が主人公です。