序章05
新たな私の人生の一ページ。
大袈裟に銘を打って、私はこれから始めようとしている生活に、少しだけ希望を抱き、足を踏み下ろした。
引っ越しの手伝いも無用という私に、叔母は少しだけ、悲しい目をした。
嘘でもそれを、有難いことと受け止めるべきだったのだろう。
しかし私は、そんなことさえ煩わしく思えてしまっていた。
この恩知らず目。
自分を戒める言葉を噛みしめ、埃臭い街を歩き出す。
遊歩道を歩いている時、私は見覚えのある景色に出くわし、私は足を止める。
友暉と夜空を眺めたビルが目の前にあった。
外装は少し変わっていたが、間違いない。
だけど……。
街の名前が違っていた。
大学に近からず遠からずの、学生向けのアパートを選んだ。
駅名だって全然別なものなのに、私は首を傾げる。
下見に来た時は叔父と一緒で、車だったし、ろくに街の風景など見ていなかったのは確かだけど、それにしても、ここは通ったはず。全然気が付かなかったなんて、つくづく自分の愚かさに呆れてしまう。
錆びていた非常階段は白いペンキが塗られ、入り口にはしっかり錠が掛けられている。あの日にもあったのか、記憶が定かではないが、一階にはイタリアンレストランが入っている。
開放的に広い窓から見える店中は、ほぼ客で埋まっていた。
もしあの日、ここで私が飛び降りたのなら、この店はどうなっていたのだろう。
皿を片づけていたウェーターが私に気が付き、会釈をする。
慌てて目を逸らした私は、足場う屋にそこから離れて行く。
そして、少し離れた場所からもう一度ビルを見上げた。
急にどうしてしまったのだろう?
忘れていたものが吹き出す様に、頭の中に蘇って来る。
もしかしてぺんぎん効果なのかと思い、私は携帯画面に目をやる。
友暉の言うとおりになりっ放しで、悔しくて、私は携帯の待ち受け画面に、しっかりぺんぎんを焼き付けた。
もしかして友暉とバッタリ会ってしまうかも……。と、心のどっかで期待してしまっている自分を認めたくなくて、私は愚ろうな考えを追い振り払うように、頭を振る。
しかし、そんな単純なものではないことを、思い知らされてしまう。
数か月もしないうちに、私は人とぶつかり、携帯を落としてしまい破損させてしまったのだ。
「必要な時に必要な分しか使えないのが、こいつの良い所でもあり、悪い所でもあるんだ」
壊れてしまった携帯画面を恨めしく見つめる私の脳裏に、友暉のそんな言葉が過って行く。
それから大学4年間、ぺんぎんのことを思い出すことなく、良くも悪くもない日々を過ごし、最大のピンチを迎えていた。
どん底の就職活動。
叔父夫婦に買ってもらったスーツも、だいぶくたびれてしまっている。
靴とバッグは、いらないという私の言葉を無視して、母親が送って来たものだった。
いつも一緒につるんでいた、美和子も就職を決めたというのに、私は一つも引っ掛かっていない。
それどころか、酷い言われ方をして、就職活動すら億劫になって来ている。全ての人が敵に思えて、外に出るのが恐くなっている。
新しい年を迎えようとしていた。
フリーメールが届く。
どこかの店の案内だった。
冬のバーゲン広告の下に表示された神社の写真が、私の目を惹いた。
「ここどこ?」
思わずつぶやいてしまった私は、笑ってしまう。
今さっきまで、神様なんていないと思っていたからだ。
それなのに、検索をしている自分がいる。
ばかばかしいと思いながら、私はしっかり行く気になっていた。




