第五章 便利屋07
夏になると、避暑をかねて母方の田舎へと私たちは毎年やって来ていた。
従兄弟と兄、そして近所の子。数名でここへやって来ては遊んでいた。
伸びる獣道。
そこを上って行く。
何度も足を滑らせ、服が湿った土で汚れる。ハイヒールが刺さり、ぬけなくなりながら、ようやく明るく開けた場所に出た私は、思わず歓声を上げてしまう。
一面の緑。
この場所を見つけたのは偶然だった。
兄たちに置いていかれ、私は夢中で捜し歩いた。普段は、絶対に上って行かない獣道。地元の子達さえ、蛇が出ると恐れている道だった。
祖母からも、散々話を聞かされていた。
その時、私は一人でトイレに行けなくなってしまうほどに、怯えさせられた言葉がある。
……神隠し。
背筋が寒くなり、私は両腕を摩る。
忽然と人がいなくなってしまう話だ。
それほど危険な場所だから、近付いちゃダメってことよ。と母親が細くして聞かせられたが、先に聞いてしまった言葉のインパクトが強すぎて、そんな言葉が入り込むよりなどなかった。
どこを探しても見つからない兄たち。もしかしたらと、少女だった私は本気で考えてしまっていた。
半泣きで、棒切れで生い茂る草を叩き、何度も兄たちの名前を呼ぶ。
どのくらい歩いたのだろう。目の前に白い門扉が見えて来て、私は夢中で駆け寄る。
ずっと先まで続く芝生が植えられた庭。ちょこんとおかれた白いブランコに少年が一人、遊んでいるのが見えた。
少年の髪は、光を浴びる度、黄金に輝き、鳥たちとまるで会話を楽しんでいるよう思えた。
何度も指に止まらせては、羽ばたく鳥を目で追いながら、いつの間にか目の前に現れた少女を少年は、微笑んで迎い入れる。。
じっと見つめる私に、少年は何も言わず、鳥が止まっている指を目の前へと差し出す。
私にもそうするようにと言わんばかりに、微笑む。
恐る恐る差し出す私の指へと移って来た鳥は、ちょこんと首を傾げてから、囀りを始める。
「君のこと、気に入ったようだね。僕は、ギルバード。君は?」
「さゆり。松野さゆり」
もう少年の興味はそこにはなかった。
風が吹くたび、ふんわりと髪を光らせ、駆け出す少年の後を、私は夢中で追いかけだす。
何かを思い出したように少年は振り返り、私に目をつぶるように言う。
「良いものをあげる」
そう言った少年が、何をしたのか分からない。
しかし、目を開けた私は、驚きで目を瞬かせる。
指に止まった鳥の声が、そう、鳥の声が何を話しているのか、分ってしまうようになっていた。
少年は楽しそうに、笑うばかりで何も教えてはくれなかったが、その日から、私は彼の虜になったのは言うまでもない。




