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魔法料理 ~異世界の料理は魔法よりも凄かった~  作者: 茜村人
第一章「アルト村編 幼少期」
14/51

・間話「ユリ・グライド」

明日投稿すると言ったな。あれは嘘だ。

それと、作中の探索者を冒険者と表現を変えました。

 目が覚めた。




 夢を見た。

 あまりにもリアルな死の夢

 今でも体中が汗だらけで息も荒い。


 怖かった。

 とても、とても

 死ぬのが実感出来た。


(…………夢?)


 違う、あれは夢なんかじゃない。

 私は星草に行っていた。

 現に今、服の一部が擦り切れたり結構な血が付いている。

 夢なんかではない。




 現実




 理解すると同時に体が震えた。

 肩を抱き、小さくなるように身を寄せて震える。


 そして違和感を覚える。


(…ここはどこ?)

 私は死んだはずだ。

 もしかしてここは天国?


 そう思い視界をめぐらせる。右には窓があり窓から村の風景が入ってくる。

 ここはアルト村だと思う。

 宿と言うより誰かの私物が多い。ここは誰かの家の寝室(ベット)

 そのまま右から左へ視界を動かす、左に動かして最初に目に入ったのは白い髪

 ベットのすぐ横でリンゴを切る白い髪の男


(………!?!?!?)



 心臓が飛び出るかと思った。



 白い髪の彼はリンゴを剥きながら私の方を向いている。

 リンゴには目を向けずリンゴの皮をテキパキと剥いている。

 器用な事だ。


「おはよう、目は覚めた?」


「…え、あ、」

 頭がついていかず言葉が出ない。


「ん?…喋れる?あれ?もしかして頭とか打った?もしもーし、聞こえますかー?」

 切っているリンゴを皿に戻し、手を目の前で振り顔を近付けて声をかけてくる。


 産まれてこのかた男にこんなに寄られたのは初めてである。


「わ、わかるわよ!!」

 恥ずかしかった。

 彼を押しのけるのと同時にそれに見合った言葉が出てきた。


(…しまった!)


 彼は命の恩人かもしれない。

 その人に何をしているんだ。


「ご、…」

「あ、良かった、じゃあ痛いところとか無いかな?」

 謝ろうとしたが声が被って言葉に出来なかった。


「だ、大丈夫です…」


「そうか、今リンゴ剥いてるから待ってね、…はい」

 先程剥いていたリンゴだろう。

 剥き終わったリンゴを差し出してくる。


「ありがとうござぃ……えっと、あの……」


 素直に受け取ろうとしたが少し思うところがあり言葉を濁した。


「あ……あの、私、お金持ってない、です……」


 世の中は金だ

 善意の行為なんて無い。

 助けられるには対価を払わなければならない。


 現在私は無一文

 今の世の中は善意の押し付けで奴隷にされるケースも少なからずある。


 生きたとはいえ、そうなってしまえば素直に喜べない。

 若い女の奴隷は殆ど(なぐさ)め者として取引される。

 そうなれば私は私じゃ無くなるだろう。


「ん?あぁいいよ。俺が助けたかったから助けただけ、このリンゴもサービスだよ、食べれる?食べさせようか?はい、あーん」


 なんの事だと言わんばかりの口調

 彼の顔を見た。

 白い髪に黒い眼鏡、顔は少し老けており、26歳くらいかな?どこかで見たような…


 あれ?顔が熱い。


「た、食べれ!!!……ます……」


 私はリンゴを彼の手からとって食べた。

 子供扱いされている気分で少しふてぶてしくなってしまった。


「うーん、俺はそっちの方がいいな。」


 ふてぶてしく食べる私を見て彼は言った。

 なんのことだと少し首を傾けた。


「女の子は元気な方が俺は好きだよって話だから気にしないで」


 また顔が熱くなった。


「わ、悪かったですね!!」

 あ、素が出てしまった。

 いけない。


 恥辱と高揚が混ざってよく分からない気分だ。

 いけない、彼は命の恩人かもしれないのだ。

 落ち着いて


「…あなたが助けてくれたんですか?」

 恐る恐る尋ねた。


 正直な話あまり強くなさそうだ。

 最低限の筋肉は付いているがムキムキでもないし好戦的な性格でもなさそうでいまいちピンと来ない。

 ギルドに居た、いかにもな人とは全然違う。


「うーん……ラルク」

 てっきり質問の答えが返って来ると思っていたが、求めていた解と違う単語が出てきた。

 それも知らない単語


(……………?)


 魔法だろうか?

「俺の名前はラルク、ラルク・グライドって言うんだ、ラルクって呼んでくれると嬉しいな」

「え?あ、ラルク…さんはその。星草で私を助けてくれたんですか…?」

「あぁ、そうだけど?」

 あのピッグの群れの中から私を助けた。

 最後に集まったときは最初に倒した倍は集まっていた。

 それを出来るということはかなりの実力者なのだろう。


「…ありがとうございます、それでその…お礼なのですが…今払えるものが無くて…」

「…さっき言った事もう一度言わないといけないの?はぁ、…俺は君がピッグに襲われていたから助けた。怪我をしていたから治した。さっき寝てるときにお腹がなっていたから今はこうやってリンゴを剥いてる。全部俺がしたいからしているだけだって、俺を悪徳押し売り野郎と一緒にしないでくれる?」

 溜め息交じりに言われた。

 ちょっとご機嫌を損ねたようにも見える。

 ん?怪我を治した…?

 私の記憶の中では私は重症だったと思うが、肺が破裂して内蔵も骨もぐちゃぐちゃになってた。

 あそこまで行くと私の治癒では治すことは 愚か、応急処置も出来たか分からない。

 お腹を触る。どこも異常が見当たらない。足も手も胸も

 完全無欠の状態。

(これを…彼が…?)

 もしそうであれば彼は相当な実力者だろう。

 強い上に治癒もできる。

 私の上位互換、それも圧倒的に上位の。

 彼はそう言うが、助けてくれただけでなく治療までしてくれたんだ、タダな訳にはいかない。

 もしこれがちゃんとした教会での治癒なら治癒代は私の払えるものではないだろう。


「…ありがとうございます。でも、もしお代が必要なら、その、ないので、から、だ、で…」


 私には払う術がない。

 他に代わりになりそうな物もない。


 正直嫌だった。

 別に目の前のラルクと言う人物が嫌なわけではない。

 と言うかどんな人物か知らない。

 ただこの言葉を出すことで私が淫らだと思われそうなのと、この選択肢しか出せない私の不甲斐無さが嫌だった。

「………ふーん」

 彼はまんざらではなさそうな顔をしている。

 鼻の下を伸ばしている訳ではないけど、目が上から下まで見ているのが分かる。


 少し怖い。

「ふーん、そうゆうのもありなのか、…よしやっぱりお代貰おうか」



(お母さん、私は今夜大人になります)



「あ、でも体は払わなくていいよ」

「………え?」

「君の心を俺に頂戴」

「……え?」

「そういえばまだ名前を聞いてなかったね」

「あ、えっとユリ、ユリ・フルト」

 貴族名は伏せた。

「ユリね」

 いきなりの呼び捨て、ちょっとむかっとする。

「で、ユリはお代を払ってくれる?」

「えっと、どうゆう事でしょうか…?」

「そのまんまの意味だよ。一目惚れしたんだ。」

 何に?

「…??…私が、ラルクさんに?」

 した覚えはないが、多分

「違う違う、俺が、ユリに、店に入ってきた時にね」


(…道具屋の店主さんだ)


 思い出した。あの時道を尋ねた人だ。

「一番安い宿に泊まるし、たまたま一人で星草に行く所を見てね、それで様子を見に行ったらびっくりしたよ、本当に危ない状態だったんだよ。俺が居ないと死んでたんだよ?」

「………」


 怒っている感じはしないが、少し呆れているようだった。

 全くその通りだ。


「あまり深く探るのは良くないけど、ユリはお金持ってないって言ったよね?じゃあ今日はどこに泊まるの?どうやってこれから過ごすの?」

「…えっと」

 私はこれから先の事とさっきまでの事の両方を被弾されて下を向いて後悔に蝕まれていた。

「…はぁ、俺の家で良かったら使って良いよ」


「……えっ?」

 言われた言葉の意味がわからずラルクの方を向いた。

「えっでも、わたし、おか…」

「それももう一度言わないといけないのか…」

 私の言葉をラルクが遮った。

 全て善意だと、ただお代はお金以外で良いと

 私の心とはつまりそうゆう事なのだろう。


「別に今すぐ欲しいとも思わないから後払いでいいよ」


 言っている意味が分からない。

 どうゆうことなのだろうか…

 好きじゃなくていいから一緒に住もうと言う事だろうか

 そしていずれは体を求められるようになるのだろうか…

 私も17歳だ。性に関して一通りの知識はあるし興味もある。

 けどやはり好きでもない人とする(・・)のは怖かった。


「ゆっくり考えると良いよ。もうすぐ晩御飯だ、準備するから休んでて」

 そう言ってラルクは部屋を出た。



 1時間程だろうか、ラルクは戻ってきた。

 私は私でラルクの事を考えると良くわからない気持ちになるし興味もあるし恐怖もあるし1時間なんてすぐに過ぎていった。

 ラルクに連れられてリビングに行く。

 そこには数多くの料理が並べられていた。


 初めて見る料理もある。

 美味しそうだった。

 最近は美味しいものなんて食べていなかったし今日なんてリンゴしか食べていない。

 一番目に付いたのがお肉、ステーキだ。

 お腹が早くそれらを送り込めと促してくる。

 ”ごくっ”

 無意識につばを飲み込んだ。


「さぁ、食べよっか」

「う、うん」

 もう目が料理にしかいってなかった。

「うん、じゃあ食べる前に質問だよ」

「…な、なんですか?」

 目はまだ料理に釘付け、鼻を刺激する肉の匂い。待てをするのは結構辛い。

「答えを聞かせてくれる?」

「…え?なんの…」

「お代の」

「…?しばらく考えて良いよって」

「うん、しばらく経ったよ?」


 詐欺師か!!!!!!


 私のしばらくと彼のしばらくは違う。

 漠然とした言葉では送る側と受け取る側で手違いが生じる。

 今回はその最たる例だ、しばらくをちゃんと聞かなかった私に非があるか……

「えっと、その…」

 いきなりの質問に口篭っていると彼が口を開いた。

「僕の家に住めば毎日これが食べられるよ。」

 すっごい笑顔で淡々と言ってくる。

 現在、視覚と嗅覚の90%を目の前の料理が独占している。

 匂いからして美味しいのがわかる。

 食べたい、でも答えないと食べれない。

 食べたら今度は私が食べられる番なのだろう………




 葛藤




 多分彼もそれをわかって今のタイミングで言っているのだろう。

 笑顔が怖い。



 時間が流れた。

 その激闘に終止符を打ったのは彼の一言だった。

「早くしないと冷めるよ?」



「……ます。」

「ん?よく聞こえなかった。」

「…払います……、お代、払います」

「そっか、じゃあこれからよろしくね」

 よろしくとはそうゆうことなのだろう。

 顔が熱い。

「…よろしくお願いします」

「じゃあ頂きます。」

「いただき、ます」


  ☆  ☆  ☆


 私は今、宿の荷物をラルクの家に運んでいる。


(…死んでも良い)

 そう思える程ご飯が美味しかった。

(今日からこれが毎日…)

 涎が垂れそうだった。

 久しぶりにまともなのを食べたってのもあるだろうが本当に美味しかった。

 あれはラルクが作ったのだろうか?

 あんな美味しいのは貴族の時でも食べた事があるだろうか?

 多分無いと思う。



 ラルクの家は道具屋の裏にある。

 一人暮らしとは思えない程大きい。

 家に入るとラルクは居なかった。

 家の奥から水の音がする。

 体を洗っているのだろうか。

 とりあえず言われた部屋に荷物を置いた。

 この部屋を自由に使って良いと言われた。

 家の物も勝手に使って良いとも言われたがラルクの部屋だけは入らないでくれと言われた。

 寝室は別にあるらしく一緒に寝ると言われた。

 部屋に荷物を置いて、借りてきた猫のようにじっとしているとラルクが上がってきた。


「おかえり」

「…た、ただいま…」

「今日は疲れたでしょ、お風呂入ってきなよ」

「…は、はい」


 私は今緊張している。

 お風呂に入る。


 お風呂に入ると言う事は後は寝るだけだ。

 ラルクと


 美味しいご飯を食べた、その代償の一つに今度は私が食べられる。

 初めてだったし緊張しない訳がない。

 もしここで逃げたらどうなるんだろう。

 ラルクは追ってくるのだろうか

 でもその時は逃げるって選択肢が頭の中に思い浮かばなかった。

 されるものと、決定されているものと頭が先行している。



 私はお風呂から上がった。



 洗面所には新しい服が用意されていて少し戸惑ったが血の付いた服を着るのもなぁ…

 他に着るものもなし、素直に袖を通す。

 女性物ではあるが少し大きい

 何故こんなものがあるのだろうか。

 もしかして女装趣味…?


「遅かったね、…うん、さっき服屋のマリーさんに一着だけ見繕ってもらったんだよ。よく似合ってるね」

 こんな時間に服屋が開いてるわけが無い。同じ商売仲間のよしみってやつかな?

「あ、ありがとう」

 そのままラルクと少しお話をした。

 ラルク・グライド、この家で一人暮らし、親は15歳の時に亡くなったそうだ。それからずっと一人で店を切り盛りしている。

 色んな話を聞いたが途中から眠気が襲ってきてよく覚えていない。

 現実に戻ってきた安心感からだろうか、この家に来て気が抜けたからだろうか


「今日は疲れたしもう寝ようか」


 ラルクが私の様子を察してくれたようでそう提案してくれた。

「………はい」

 だがその言葉に私は目が覚めた。

 寝る、これからこの人と

 そうゆう関係で寝る。

(お母さん、私大人になります…)


 寝室に入ってラルクと同じベットに入った。

 あぁ、私はこの人のになるのか

 そんな事を考えている。


「じゃあお休み」

「え、おやすみ、なさい…?」

「そういえばユリって何歳なの?」

「…えっと17歳です。」

「ふーん…」

「……」




 私は今とても混乱している。

 隣でラルクが寝息を立て始めたからだ。

 どうゆうことだろう。

 そうゆうことをする為に

 私を食べたいから食べさせたのでは?

 その本来食べる側の人間は今や夢の住人だ。


 私の自分の体を見る。

 身長は150cmを超えたあたりと大きくない。

 ただ胸は既に大きくなっているし太っているわけでもない。

 冒険者として3年もしてたんだ。太るわけが無い。

 顔はまだ幼さを残しているが女としての魅力が無いわけではない。と思う。


 ではなぜ?

 分からない。

 私は寝たら襲われるのではないだろうかと気負いしながら疲労に勝てずに沈むように眠った。


 朝起きたらラルクは既に居なかった。

 寝ている間に致されていないか確認した。

 まだ私は無事のようだ。

 良かった。


 眠たい頭を起こしリビングに入った。

 入った瞬間食欲を掻き立てる匂いが嗅覚を刺激する。

「おはよう、朝ごはん出来たから起こそうとしてた所だよ」

 目に入ってきたのはたくさんの種類のサンドウィッチ

 香ばしい良い匂い。

「ふぅ、これでよし、顔洗っておいで、それから朝ごはんにしよう」

「…はい」

 顔を洗い朝ごはんにありつく

 美味しかった。

 今までこんな美味しいサンドウィッチを食べたことが無かった。

 そう思わせるほど美味しかった。


 サンドウィッチも残り少なくなり至福の時間も終わりを告げかけようとしていた時、ラルクが口を開いた。

「これから時間ある?この前着ていた服もうぼろぼろだしユリの服とか買いに行きたいんだけど?どうかな?」

「…えっ?でも私お金が」

「昨日のりんごと一緒だよ」

(昨日のりんご…?確かサービスとか言ってたような…でも本当にいいのかな…?)

「…また…同じこと言わないといけない?」

 どうやらラルクさんは同じことを何度も言うことは嫌いなようだ。

「…ありがとうございます…あ、そういえばクエストが…あっ…」

 依頼者の名前を思い出す。

「クエスト?ギルドのクエストは僕のしかないはずだけど」

「あ、えっとそのクエスト受けたんです」

「あぁ、そうなんだ、別に良いよ、なんかクエスト一つもないの寂しいからって張ってるだけだったし」

「あ、そうなんですか…」

 確かに彼なら30体なんて軽く倒してしまいそうだ。

「他にない?ないなら行こっか」


 そのまま服を買いに行き服を数着買った。

 帰ってきたら談話して、晩御飯を食べて、寝た。


 その日も何もされなかった。

 次の日も、その次の日も

 寝るだけ、何もされない。


 されたい訳じゃない。

 ただそれも込まれているだろうと予想していた。

 それが蓋を開けてみると何も無かった。


 不安になるだろう。


 そんな日が数日続いた。


「ユリ、今日は星草に行ってくるから留守番お願いできるかな?」

 ラルクはどうやら本物の魔料理人で魔獣や魔草の調達も全て自分で行っているらしい。

 魔料理人は魔法使いより強い。これは世の中の常識だ。当然ラルクも強いのだろうが私は星草に少なからずトラウマを持ってしまった。

 一人で行くラルクを心配しても変ではないだろう。

「あ、はい、行ってらっしゃ……ラルクさん……一人で行くんですか…?」

「……それだ、違和感」

 私は首を傾げた。

 何かしただろうか

「さんは要らない。ラルクで良い、そんなに年が離れている訳じゃないんだし」

「………え?」

 年が離れていない?

 私から見てラルクは26~7くらいに見える

 10歳年上。

 そんなにの範疇なのだろうか?

「えっとラルクさ…ラルクはいくつなの?」

「19」

 目が飛び出そうになった。

 全く見えない。


「え、あ、そうなん、ですか…」

 ここ数日三番目の衝撃


「ラルクさんは結構大人っぽく見えますね…」


「……」

 ジト目を食らった。

 何かしただろうか?

 あっ

「ラルクは大人っぽく見えます…」

「そうかな?ユリは子供っぽいほうが好き?」


 好きとはどうゆう好きなのだろう。

 顔が熱い。


「い…いえ、私は…」

「あー、それも違和感」


 今度は何だろう?

 ここ数日で分かったがラルクは自分のペースを崩さない。

 思ったことをどのタイミングでも言うタイプ


「…はい?」


「その余所余所しいの、最初みたいに元気な方が遠慮が無くて俺は好きだよ」


 まただ、顔が熱い。

 こんなに好き好き連呼された事が無いので耐性がないだけだと思う。

 そう思おう。うん。


「………」

「まぁいきなり赤の他人と気安く喋るのも無理だろうしゆっくり気を許してよ」

「…はい」

「じゃ、行ってくるね」

「…行ってらっしゃい」







 それから二年が過ぎた。


「おかえりラルク、今日は私が晩御飯を作ったよ!」

「おぉ、楽しみだな」

「…ラルクのに比べたら楽しみじゃないけどね…」

「そんな事ないよ、好きな人が作ってくれた料理ほど美味しいものはないよ」

「…ふん!」


 私はラルクと随分親しくなった。

 私は未だにラルクに頂かれていない。

 多分私が許すまで彼は手を出さないつもりなのだろう。


 私は私でラルクの事が気になっていたが、そこまでだ。

 好意はあるが行為までには至らない。


 ラルクは依然躊躇なく好きと言ってくるので少し慣れた。


 今はラルクに料理を教えてもらっている最中だ。

 その試作何号目かの晩御飯


「うん、ユリはやっぱりセンスがいいね、美味しいよ」

「…でもやっぱりラルクの料理の方が美味しい…」

「俺と比べちゃ駄目だよ、俺より料理が上手い人なんて世界で片手くらいしか居ないんだから」

 どうやらラルクは料理に相当の自信があるらしい。

 自信満々にそんな言葉を返してくる。


「明日は店も休みだし仕入れもないし特に予定もないけどユリはどうする?」

「じゃあ…、ラルクお菓子の作り方教えて」

 ラルクは料理だけでなくお菓子も凄く上手かった。

 前に食べたアップルパイは絶品だった。

「いいよ、じゃあ明日は買い物してからお菓子作ろっか」

「うん!」


 すっかり馴染んだと思う。




 次の日二人で材料の買い物に隣町まで出掛けた。

 隣町はちょっと遠いが馬車でいけばすぐの距離

 二人で仲良くお菓子の材料や服などを買った。

 ある程度歩いてギルドの前を通ろうとした時声が聞こえた。


「なぁ、あれって青い蛮族じゃねぇか?」


 それが私の耳に入ったとき意味も無く汗が流れた。

 ここは違う国で私を知る人なんて居ないはず、どうして


「…うわ、マジかよ、…おいお兄ちゃん」


 一人が近寄ってきてラルクに声をかけた。

 私は思考がぐるぐると回り体が動かなかった。

 ラルクはゆっくりと振り返る。


「兄ちゃん、こいつとパーティー組まない方がいいぜ、そいつは人を見下して探索中も文句ばっかり言いやがってほんとに最悪な奴なんだ、青い蛮族って呼ばれて色んなパーティーから嫌われてるこいつは、悪いことは言わねぇ、嫌な思いする前に切っちまえ」


 言われた。

 言って欲しくない事を言って欲しくない相手に


 私は怖かった。

 恐る恐るラルクの顔を見た。

 ラルクも私を見ていた。

 無表情な顔

 凄く怖かった。


 この生活に慣れてきて、このままでも良いと

 そう思えていたのに

 これが嫌でここまで来たのに

 私はまたどこかへ行かなければいけないの…?


 そんな事を考えているとラルクの手が伸びた。

 放り出されるのでは…

 恐怖で目を瞑った。


 手はそっと頭に添えられて髪を撫でた。

「…で?」

「おい、兄ちゃん俺は親切心で言ってんだぜほんとにやめとけって…」

「俺なら大丈夫です、ユリ行こっか」

 そう言ってラルクは私の手を握って歩き始めた。


 そのまま馬車に乗った。

 馬車の中はラルクと私の二人だけだった。


「……」


 私は何も言い出せずにいた。

 怖くて何も知ってほしくなかった。

 言いたくなかった。

 考え込んでいると涙が溢れた。

 あれ、どうしてだろう…


「ユリ、大丈夫か?どうした?」


 ラルクが気付いた。

 あなたの事でこんなに思い詰めているのに当の本人はどうって事ないようだ。

 少し悔しい。


「…私は………」

 それ以上言葉に出来なかった。

 どう言えば良いのかも分からないしこれ以上言葉も思いつかない。

 口篭っている私を見てラルクが口を開いた。

「もしかしてさっきの気にしてるの?」

 私は鼻を啜りながら頷いた。

「あー、うーん、俺は気にしないけどなぁ」

「で、でも私は本当にたくさんの人を見下してきてそれで逃げるようにここに来て…私は…こんな…こんな楽しい生活送って良い人間じゃ、ない…」

 涙がぼろぼろ零れた。

 それを見てラルクは困ったように頭をもう一度撫でてくれた。

 落ち着く


 少しだけ沈黙が流れた。

「うーん、でも好きになったからな…」

 ぼそっと小さく呟かれた。

 私は気になってラルクの声に耳を傾けた。

「好きになってしまった奴の負けだろう、どんな人間だろうと好きになったら好きなんだよ。…俺はユリが好きだ。未だにそれは変わっていないしユリを知るたびにどんどん好きになってる、好きな人ってなんでも許してしまうもんなんだよ、男って、だからこれら全ては俺がユリに好かれたい一心でやっていることだからユリが良いならこれからもこんな生活を送っても良いんじゃないかな?」

 その言葉を聞いて

 涙がまた(こぼ)れた。


 初めてラルクの心を聞いた気がする。

 いや、好きだとは何度も言われているが、今までのは冗談半分にしか聞こえなかった。

 今回は違う。

 はっきりと伝わった。

 好きだと

 これからも居てほしいと


「私で…私で…いいの…?」

「他に誰も居ないよ?」


 冗談半分に馬車の中を見渡し笑うラルク


 その時初めて実感出来た。



(…私は彼が好きなんだ)



 彼ともっと居たい。


 いつの間にかこんなにここの暮らしが好きになっていたのだ。


 ラルクと二人で暮らす毎日が楽しくて楽しくてしょうがないものになっていたのだ。


 そのラルクは私を好きだと言ってくれた。


 そして、その私もラルクが好きだった。


 私はまた泣いた。

 嗚咽がまじり子供のように声を出しながら


 困った顔で頭を撫でるラルク

 私の嗚咽だけが馬車に流れた。

 嫌な沈黙ではなかった。

 むしろ心地良い、そうとまで思えてくる。


「…ラルク」

「ん?」

 今私はラルクの肩に頭を預けている。

 今までこんな事したことなかったのに

 そういえば手を繋いだのも初めてだ。

 嫌じゃなかった。

 寧ろ嬉しかった。


「私…ラルクが好き…」


 ラルクの目を見ながら言った。

 ラルクは少し驚いた顔をしたがすぐに戻った。

「俺も好きだよ」

 二人の距離が近くなる。

「知ってるわよ…ばか…」

 唇を重ねた。


 その日の晩

 私は大人になった。





 次の月に私はユリ・フルトからユリ・グライドに名前を変えた。




 幸せだった。

 ラルクは稼ぎもよく殆ど不自由なんて無かった。

 なにより好きな人と一緒に暮らしている充実感

 二人ともまだ若く毎日のように至ったが私も満更ではなかった。


「ねぇラルク、私やっぱり変わろうと思う。」


 それから1年経った、私は20歳になりラルクは22歳になった。

 私はリビングでラルクとイチャイチャしていた。

 ラルクもラルクでユリにべったりだった。

 キスしたり体を触ったり

 見た目は大人でもまだ22歳

 性衝動が多いお年頃


 ラルクは何の事だと首を傾げる。

「ラルクは元気な私が好きって言ってくれたけど、そろそろ落ち着かなきゃいけないと思うの…

 お腹の子が私みたいになって欲しくないから…」

 そう言いながらお腹を撫でる。

 私のお腹にはラルクとの新しい命が宿っていた。

 私は今幸せだ。

 好きな人と結婚して好きな人との子供が生まれる。

 このお腹を触るたびに私の胸が高鳴る。

 私はこの人(ラルク)のものになったと実感できる。


「そうか、俺も落ち着かないとな」

 十分落ち着いていると思うが。

 私と同じようにラルクにも思い当たる事があるのだろう。


 そして私たちの子供が生まれた。



 私たちはその子にサンと名付けた。


 サンと名付けられたその子は元気な男の子だった。

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