・間話「ユリ・テイル・フルト」
第三話の後に投稿していた間話3話になります。
殆ど変更していませんが所々変えております。
あらすじ自体は一切変更しておりません。読まなくても本編には影響しないようにしております。
私はオリン共同連合の首都シュリの下級貴族の長女として産まれた。
ユリ・テイル・フルト
それが私の名前。
最初の娘として大切に大切に育てられた。
親は優しかった。それも凄く、怒られた事なんて殆ど無いのではないだろうか。
甘やかされて育てられた。
さらに下級でも貴族の身であるため使用人やメイドは私の言うことを聞いた。
傍若無人に育ったと思う。
若干の不自由はあったがそれでも親に甘えれば極力叶えてくれようとしてくれたし、親に言われた習い事はしてたし親は本当に何も言わなかった。
10歳になる頃には淑女には到底及ばないがある程度礼儀作法が出来るようになった。
勉強も出来た。
―優越感―
私は特別なんだと、普通と違うのだと、そう思った。
実際農民とは天と地の差がある。
生まれが全てとは言わないが圧倒的アドバンテージには変わらない。
そして私は出会ってしまった。
魔法に
この世界では魔法を覚えるのは難しくない。
お金を払って魔料理を食べれば一発だ。
だが同じ魔法にも優劣が存在する。
生まれながらに持ってる才能
それで優劣が決まる。
私は治癒魔法と水魔法の才能が飛びぬけて良かった。
親に魔法の練習がしたいと先生を呼んで稽古をつけてもらった。
先生は元冒険者で色んな話を教えてくれた。
ある時はダンジョンでAランクのモンスターを3人パーティーで倒したり
ある時はSランクモンスターと30人パーティーで挑んで返り討ちにあったり
ある時はダンジョンの中で隔離されて1週間何も食べずに過ごしたり
そのどれもが危なっかしくて
そのどれもに心を踊らせた。
親には内緒で町に出掛けるようになったのもその時期だ。
親は親で出掛けているのには気付いていたが愛娘には弱かった。
ただ親は男の子が欲しかった。
当たり前か
下級と言われても貴族、後取りが欲しくない訳がない。
ユリが産まれてから次が全く来ない。
行っていない訳ではない。
それなのに10年も来ないのだ。
もしかしたらもう産まれないのかもしれない。
そう思っていた矢先弟が産まれた。
半分諦めていた所に産まれた正式な後継者候補。いや、今後の事を考えるとこの子を何がなんでも後継者にしないといけない。
喜んだ。喜びに喜んで弟を育てた。
その頃からだろうか。
私の扱いが段々と変わっていった。
最初は私も弟も平等に接してくれていた、だけど少しずつ私だけが疎外されていった。
最後には私は蚊帳の外であった。
私は捨てられたと思った。
愛情を横取りされたと思った。
弟が少しだけ憎かった。
弟は私に無邪気な笑顔を送ってくれるが、私はその笑顔に答えれるほど心に余裕が無かった。
私も変わり始めた。
口が悪くなった。
元々わがままな性格に更に拍車がかかり始めた。
親の前ではわがままであっても礼儀を持って接していたはずが、いつの間にか喧嘩口調になっている始末
そんな私に母はいつも「お姉さんなんだからその口と振る舞いをどうにかしなさい」と言ってくる。その度に私は怒った。
私はお姉さんだ。
それは事実だ。
だけど私は貴方の子供だ。
お姉さんだからなんだと言うのだ。
私はまだ子供でいたい。
先に生まれようと後に生まれようと関係ない。
でも、それでももう私の居場所はここにはないんだ。
そう思えるほど私は追い詰められていた。
(…出て行こう)
決心するのは早かった。
この頃になると魔法の使い方もある程度のものになっていたし、高位魔法使いの認定も受かった。先生は今の私でもギルドに行って冒険者になれば生きていけると断言してくれた。
私は14歳の時に家を出た。
私は外でも生きていけると思った。
そのままギルドに向かった。
ギルドにはたくさんの人が居た。
いかつい人が多かった。
少し怖かったが受付所のお姉さんは綺麗だった。
ーーーーーーー
「―――――ですので初めての方は初級クラスFクラスからのスタート、いくつかの実績のち、評価により昇級となっております。」
「私は魔法使いよ!どうして一番低いクラスからスタートなのよ!!!」
「…ですので、先程にも申し上げましたが…」
現在私はギルドのシステムに文句を言っていた。
先生から頑張ればBクラスになれると言われた事がある。
幼い私はBクラスの実力者なのだと錯覚していた。
それがFからのスタート
何故Fクラスからなのかと不服だった。
不服だからこうして受付のお姉さんと口論しているのだが
それと後で知ったのだが魔法使いは珍しくない。ダンジョンには何かしらの魔法を覚えていないと必ず死ぬからだ。
現に周りの冒険者も全て魔法使いだ。
「申し訳ございませんが規則になっておりますので、この条件を飲めないのであればギルドに名前を置くことは出来ません。どうなさいますか?」
「…うっ、わ、わかったわよ!!!Fクラスで良いわよ!!今に見てなさい!!!!」
こうして私は冒険者になった。
魔法の先生からギルドについてある程度説明を受けていたので簡単な概要は分かる。
ダンジョンと言われる場所が世界各地にありその中の物を取ってくればお金に換金される。
難易度はFからSまで存在する。
中にはSSなるものも物語では出てくるし、都市を一つ飲み込んだダンジョンも存在すると聞く。
冒険者は基本ソロで探索をしない。
なのでパーティーを組む事にした。
簡単に見つかった。
どうも二種類以上の魔法を使える人は意外と少ないみたいで治癒と水が使えると言えば是非入って欲しいとお願いされた。
攻撃と回復両方出来るのは魔料理人位だと言われた。
パーティーを組んだ。
そうかそうか、私は貴重なのか。
私は調子に乗っていた。
初めての探索、簡単な魔石の調達だった。
特に問題なく終えることが出来た。
その日、パーティーを解散した。
原因は私の性格
私は自分が特別なのだとペラペラペラペラ自慢話やら相手を卑下する言い方をしていたらしい。
解散の時にもう二度と組まないと言われた。
腹が立った。
だが他に呼んでくれるパーティーはいくらでもあった。
一つくらいどうって事はなかった。
その後も色んなパーティーに入った。
だが、やはり上手く行かずパーティーは次の日には解散、また別のパーティーとそんなことを転々とした。
15歳になった。
私はDクラスまでなった。
今はどこのパーティーにも属していないフリー
この一年で分かったことがある。
まずダンジョンがぬるい。
初めて魔獣を相手にした時私は全力の水魔法を放った。
一撃だった。
避けようともせず、避けることも出来ず、一撃
Dクラスにまで上がったが未だにダンジョンはぬるい。
それが私を増長させたのだろう。
更に口が悪くなった。
実力があるが口は悪い。
噂はすぐに広まった。
早くクラスを上げたいのにこの口のせいでパーティーを組んでくれる人はもうこの町では居なくなった。
一人で行こうとは考えなかった。
それは危険だとさすがの私でも分かっている。
一人だともしもの対応が出来ない。
対応が出来なければ死ぬ。
だからパーティーを組むのである。
(どうしよう…)
私はある決心をした。
Dクラスまで上がったことで懐には多少の余裕が出来てきたし、当分飢えで苦しむことも無いだろう。
次の日シュリを旅立った。
産まれ育った町、この町から一度も出たことが無かった。
若干の恐怖とそれ以上の――あるいは恐怖を塗り潰す為の――好奇心
私は馬車に揺られながらシュリから少し離れた小さな町に赴いた。
ギルドは世界各地に存在する。
小さな町も例外ではない。
私はギルドに行きパーティーを組んだ。
すんなりと組むことが出来た。
思った通りだ。
ここでならまた一からスタート出来る。
そう思っていた。
それも束の間だった。
それから一週間が過ぎた。
ユリとパーティーを組んだことのある冒険者がこの町にも居た。
私を見つけるとすぐに仲間に触れに回った。
”青い蛮族が居るぞ”と
口の悪い私はいつの間にかこんな呼び方をされていた。
この名前が酷く嫌いだった。
それからこの町でも誰もパーティーを組んでくれなくなった。
(こんな近くじゃ駄目なんだ…)
もっと遠くに
私を知らないほど遠くに…
私は稼いだお金でめいっぱい遠くまで行く事にした。
途中ギルドのある町で少しだけパーティーを組みお金を稼いだ。
出来る限り”青い蛮族”だとばれないように丁寧に接する事を覚えた。
それから二年がたった。17歳になった。
私はアルト村についた。
その時点で私の懐は殆ど空になっていた。
アルト村はあまり大きい村とは言えない。
寧ろ小さい方だ。
ここまで小さかったらギルドなんてあるのだろうか。
そう思い村を見て回るとギルドがあった。
少し驚いたが、何でも近くに星草と言うダンジョンがあるらしい。
ランクはC~B
近くにこれ以外のダンジョンが存在しない。
ただC~Bは普通の人には十分脅威だ。
なので村の安全を守るためにギルドを設置した、と言うことらしい。
私はこの村で一番安い宿を探した。
青い蛮族と呼ばれているがある程度教養がある。
礼儀正しく接する事も覚えた。
「いらっしゃいませ」
道具屋に来た。
宿を探すには人に聞くよりその町で商売している人に聞いた方が正確な情報が入りやすい。
そしてこの道具屋だが驚くことに魔料理が売られていた。
当たり前だが魔料理なんて少し大きい町か首都にでも行かないと食べれない。
理由は魔料理人が強いからである。強さこそが全てとは言わないがギルドでは魔料理人は重宝される。
魔料理人一つ売ればそれなりの収入にもなるのでこんな小さい村に普通は居ない。
――詐欺師かもしれない――
一瞬そう思ったがそれよりも宿だ。そちらの方が私には重要なのだ。
「あの…この村で宿を探しているのですがどこかに安い宿は無いでしょうか?」
私は店主であろう20代後半ほどの白い髪のした男に話しかけた。
この人が魔料理人なのだろうか。
それと、私もやろうと思えばこれくらいの礼儀は出来る!
「…あぁ、それならラーナさんの宿がここでは一番安いかな?あまり質は良くないみたいだけど、安くて質の良いのならここを出て左にあるリニアさんの宿かな?オレンジの屋根が目印で質ももまぁまぁだよ?」
「ありがとうございます。……ラーナさんの宿はどこでしょうか」
「あぁ、それなら…」
――――私は一番安い宿に泊まった。
言われた通りあまり良くは無い。
朝ごはんも質素で美味しくない。
だけど私にはお金が無かった。
ここ最近美味しいご飯なんて食べていない。
(お肉食べたい…)
そんなお金はとっくにない。
そのお金も今日の宿泊費で消えた。
(さてこれからどうしよう…)
そんな何個も私に選択肢は用意されていないのが現状だけど。
ギルドに赴く
人は殆ど居ない。と言うより居なかった。
受付のお姉さんが呑気に本を読んでいる。
ギルドには二つの換金方法がある。
ダンジョンの資材をそのままギルドで換金する方法とギルドが仲介人として発行しているクエストをこなしてお金を貰う方法
ダンジョンの殆どはギルドを通してお金に換わる。
ダンジョン=ギルド
この法則が既に出来上がっている昨今、大概のギルドは繁盛している。
いつも忙しそうに走り回るお姉さんが名物な位だ。
それがここのお姉さんは呑気に読書を楽しんでいる。
―――嫌な予感がした。
「あの、パーティーを組みたいんだけ…ですが、空いているパーティーってない…ですか?」
「え?あぁ!冒険者さんですか、現在居ないですね、ここ一ヶ月であなたが初めての冒険者なので当分は来ないと思われますよ。」
そう言うとお姉さんは目線を落とし、本の文字を目で追っかける作業に戻っていった。
淡々と告げられた。
これから
これから私がしないといけない事に言葉を失った。
これから一人で赴く場所に
私は一人でダンジョンに行かないといけない。
怖い。
ダンジョンがどんなにぬるいと言っても一人では危険過ぎる。
一つ間違えればそのまま死に直面する。
それにランクは私より上なのだ。
肩が震えた。
私は気を紛らわせるためにクエスト掲示板を見た。
張られているクエストは一つ
『星草ラビットの皮30枚
・推奨ランクC
・報酬 銀石3枚
・期間、発行より1年以内
・場所、星草』
ずっと張られているのか紙はぼろぼろだった。
発行日を見た。半年ほど前のものらしい。
発注者はラルク・グライド
にしても銀石3枚か、他の町に比べたら若干少ないがこの村にしてみれば多いだろうに
どうせ星草に行くんだ、ついでに受けよう。
クエストを受けて私は村を出た。
この村の周りは辺り一帯が草原
その中に一箇所だけ陥没した場所がある。
土が大きく抉られたような場所
そこが星草の入り口。
一説では星がこの草原に落ちて出来たらしい。
故に星草
私は深く息を吸った。
ここに来るまでにギルドや村の人に聞いて星草の情報はある程度手に入れた。
ダンジョン自体に罠は無くラビットもそこまで強くない。
出るモンスターは
「ピッグ」
「ラビット」
「ノウフェザー」
この三種類
ラビットは小さく動きが早いがそれだけだという。
ノウフェザーは飛べない鳥型の魔獣
鳥型は飛行するから厄介であって飛行しない鳥はただの的でしかない。
動きも遅く割と臆病なんだとか
厄介なのがピッグ
好戦的で一匹自体の強さはCクラス
聞く限り私で問題なく対処できそうなのだが問題は仲間を呼ぶ事
戦うよりも先に仲間を呼ぶ。
ピッグは仲間意識が強い魔獣のようで、その声を聞いたら必ず駆け寄ってくる。
多いときで30体同時に相手しないといけないらしい。
このダンジョンがCからBの所以がそれだ。
『数の暴力』
それでも行かなければならなかった。
行かないと私は食べるものがない。
(今日はラビットとノウフェザーを換金しよう)
クエストはまず食べ物にありついてからだ。
魔獣だけでなく魔石や魔草なども換金すればお金になるが一番手っ取り早いのは魔獣だ。
私は星草に入った。
―――――感想を言おう。
余裕だった。
普通ダンジョンはパーティーで行くもの、もしソロで行くなら自分の一つ下のランクが丁度良いとされている。
私のランクはD、星草はCもしくはB
いつも以上に気負ってきたのに拍子抜けすぎて若干がっかりしている。
ラビットもノウフェザーも単体でそこまで強くなかった。
群れを成しているわけでもなく簡単に倒せた。
運よくピッグには遭遇していない。
(なによ、簡単じゃない!もうラビットの皮30枚も集めちゃおうかしら。そうね、集めちゃお)
そう思えてくるほど星草は温かった。
現在ラビットを18体狩っている。
いつものように圧縮袋に全て入れている。
もうこれをそのまま換金してもそれなりの収入になるだろう。
だがノルマの半分以上を達成している。
ここで頑張れば今日は美味しいものが食べられる。
お腹は既に悲鳴を上げている。
疲れもきている。
既に疲労が限界を超えていた。
だからこそ思考が楽観的だったのかもしれない。
少し奥に進んだ所にラビットの群れが居た。
数にして7体
(ふん、丁度良いわね)
ラビットの強さも分かった。
7体なら同時に相手しても勝てる自信があった。
「…アイスランス」
気付かれないように魔法を小さく形成。
小さい氷の槍、それを14本
1発外しても良いように2本ずつプレゼントだ。
魔法は魔料理一つにつき一種類しか覚えれない。
だから一種類の魔法を魔力量や技術で多種多様に使い分ける事が魔法使いとして必須科目なのである。
コレも本来は大きな一発の槍を作る魔法。
それを小型にして数を増やす。
発射。
全ての槍が当たった感触があった。
(よし倒した!)
「PIGYAAAAAAAAAAAAAAAAAー・・・」
ラビットではない声が響いた。
「何が……」
(―――起きた?)
確かに魔法はラビットに向かって放たれた。
ラビットに当たっている。
だが数本は別の魔獣に当たった。
初めて相対する魔獣
ノウフェザーでもなく、ラビットでもない。
消去法で考えよう。
これがピッグ
2mは超える巨体
ピッグは背中に傷を負っている。
さっき放った魔法が当たったのだろう。
どうやらピッグもラビットを狙っていたようで、ピッグが走ったと同時に私が魔法を放ってピッグに当たったらしい。
それで倒せたら問題無かった。
だが生きていた。
(…ピッグ!?どうして!?ッ!!早く倒さないと!!!)
「アイスランス!」
すばやく槍を形成し放った。
振り返ったプッグは大きく口を開け叫ぼうとしたとき魔法が目を抉り頭を貫いた。
(良かった……)
何とか鳴く前に倒せた。
これで安心だ
気を緩め後ろを向いた。
そこには無数のピッグが壁のように立ちはだかっていた。
(どうして!?)
私はとっさに記憶を辿りさっき魔法が当たった時にピッグが泣いたのを思い出した。
あれは泣き声では無く仲間を呼ぶための鳴き声だった。
眼前に広がる光景を見た。
こちらに気付いていないということは無いだろう。「ふー、ふー」と鼻息を荒くしてこちらを睨んでいる。
体中から無数の汗が流れた。
「…ッ!!アイスランス!!!」
叫んだ。
その声が引き金になったのだろう。
ピッグの群れが私に向かって雪崩のように襲い掛かってきた。
「アイスランス!アイスランス!アイスランス!」
精一杯の魔力をつぎ込み魔法を形成する。
一匹、また一匹とピッグの後頭部を破壊した。
―――――数にして13匹
何とか倒しきった。
怖かった。
魔力も大部分は使ったがまだ帰れる位には残っている。
鳴かす事なく倒しきった。
(…早く帰ろう)
倒したピッグは大きく、全部を持つことは不可能だ。
何体か置いて帰ろう。
そう思い、来た道を逆走しはじめた。
「……PIGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAー・・・」
無数の汗がまた流れた。
倒したはずのピッグが一匹
鳴いた。
気付いたときには私は走っていた。
「ハァ…ハァ…」
後ろは振り返らない。
後ろを振り返ったら私は走れなくなる。その確信があった。
ドタドタと物凄い量の足音が私の耳を冒している。
その音が徐々に大きくなっている。
(…追いつかれてる!)
出口までもうすぐだったが足音からして間に合わない。
私は迎え撃つ決心をして後ろに振り向いた。
その時、横から何かに吹き飛ばされた。
「グフッ!」
視界が歪む
口から血が溢れた。
内臓が衝撃で破裂したのだろう。
衝撃に耐え切れずふっ飛んだ私は、突っ込んできたであろうピッグを視界の端に捉えながら転がった。
全く気付かなかった。
後ろばかり気を取られていて他が全く見えていなかった。
まともに意識も保っていないがなんとか気絶せずに済んだ。
意識を持っていかれたら死ぬ。
(まだ倒せばいい!先に治癒を!!)
治癒魔法を使うべく口を開いた。
「…カハッ!」
魔法を唱えたはずの口から声が出ない、代わりに血液が出てくる。
魔法は詠唱しないと使えない。
衝撃で肺が破裂したのだろう。
まともに息も出来ない。
(…!?逃げないと!!)
立ち上がろうと足に力を入れる。激痛が走るが色んな所が既に激痛なんだ、これくらい気にしてはいけない。
だが一向に景色は地を這っている。
何故!?足が動かない。
足に目を向けると私の足はあらん方向へ曲がっていた。立つことも叶わなかった。
――――これならまだ気絶したほうが良かったかも知れない。
眼前には無数のピッグ
巨体を武器に向かってくる。
私は恐怖に目を背ける事も出来ず見ているしかなかった。
(…いや、
いや…死にたくない、お母さん助けて私こんな所で死にたくない。もっと世界を見てみたいずっとずっともっともっと生きていたい。お母さんお父さん我が侭でごめんなさい、本当はもっとお母さんと居たかったお父さんと一緒に買い物とかしたかった。お母さんの子供で居たかった、お父さんの子供で居たかった。もっと愛してほしかった。ただそれだけなのに、我が侭でごめんなさい、嫌だ怖いよ、ごめんなさいごめんなさい)
死ぬ覚悟は無いけれど死ぬと言う事実が変わらない事は私にも理解出来た。
ピッグはもうすぐ私のところまで来る。
その時私は死ぬ
それが否応無く怖くて意識が拒絶するように途切れようとしている。
瞼が沈んでいく、意識が遠退いていく。
(お父さんお母さん……ごめん…な…さい)
瞼が閉じる前に私の視界からピッグを遮断する何かが現れた気がした。
次は明日に更新します。




