山菜採り
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明後日です。
「さて……。教会の鐘について知りたいと、あの子から伺っていますが……」
「あ、はい」
無意識にサクラを目で追っていた俺は、牧師の声に視線を引き戻された。
「アカデミーにある鐘を除くと、この町には大きな鐘って、この教会にしかないので。どんな時に鳴らしているのか気になりまして」
「ああ。そういうことですか」
牧師は納得したように頷いて、鐘の説明をしてくれた。
「アセビの町はアカデミーを中心に発展した町ですからね。アカデミーにある鐘と混同しないように、町の中心部にある教会には鐘が取り付けられていないのでしょう。この教会は、見てのとおり町はずれにありますから」
そう言って、牧師は聖堂の鐘を見上げた。
「あの鐘は一日に一回、正午に鳴らしていました。この辺は耕作地帯でもりますから、日中は農作業に出ている人が多いので、その人たちに時間を知らせるために鳴らしていたのです」
「その言い方だと、今は鳴らしていないんですか?」
「随分と昔に壊れたままになっておりまして……」
牧師の話によると、鐘楼の真下に垂れさがっている鎖を引っ張ることで、鐘が左右に傾いて音が鳴るらしいのだが、その鎖が上で絡まっているらしい。自転車のチェーンが引っ掛かって動かなくなるようなものだろう。
「この教会は、孤児院も併設しておりまして。サク……子供たちの悪戯で、同じようなことが何度か起きたので、そのまま放置してあるのです。お恥ずかしい話、修理するとなると費用もかかりますので」
「そうなんですか」
牧師がうっかり犯人の名前を口にしかけたような気がするが、俺はスルーして、聖堂の鐘を改めて見上げた。
「あれくらいの大きさの鐘だと、かなり大きな音で鳴りますか?」
「そうですね……。真下にいると耳を塞ぎたくなるくらいの大きさで、鳴ったはずです」
「北の山にいても聞こえたりします?」
「さあ……。それは、どうでしょうか」
牧師は首を傾げたが、町はずれにあるこの教会はアカデミーよりも北の山に近い場所にあるので、聞こえる可能性はあるように思える。
だとすると、前回のループで聞こえた鐘の音は、この教会の鐘だったのだろうか?
(壊れている鐘を、誰かが修理したのか? そして、それを最終日に鳴らした?)
あるいは、逆なのかもしれない。
あの鐘には不思議な力があって、あの鐘を鳴らしたからループが発動して、世界は強制的に最終日を迎えた――――そう考えることは、可能だろうか?
(……いや。あり得ないだろ)
先程の牧師の話が本当なら、あの鐘は壊れる以前、毎日正午に鳴らされていたのだ。
あの鐘を鳴らすことがループのトリガーであるのなら、壊れる前は毎日正午にループが発生していたことになり、色々と辻褄が合わなくなる。
(そもそも、鐘が鳴るとループが発動するというのも、暴論すぎて意味が分からないからな)
実際、無限ループが発生している以上、何かしらの超常的な力が作用していることは間違いないのだが……。それを前提にしてしまうと、もはや「何でもあり」になってしまうので、仮説を立てられなくなってしまうのだ。
結局、今はまだ情報が足りないということなのだろう。
(冗談で「あの鐘を鳴らすのは私」とか言い出す、変な女の子もいることだし)
ここの教会の鐘については、今後も定期的に確認した方が良さそうだ。
「そういえば、さっきの女の子――――サクラさんは、あの鐘が壊れていることについて何か言っていないんですか? 直したいとか、鳴らしたいとか……」
俺が何の気なしにサクラについて言及すると、牧師は驚いたように肩をすくめた。
「よくご存じですね。サクラはあの鐘を鳴らすために、私に内緒でアルバイトをして……まあバレているのですが、修理費用をコツコツと貯めているようです」
「そうなんですか? 何か、そこまでする理由があるんでしょうか?」
「はい。……えーと、まあ、その……鐘を壊したのがサクラなので」
「さっき、名前を言いかけてましたもんね」
俺は頷いて、考えを整理した。
サクラが壊れた鐘の修理代を貯めているのであれば、前回ループの最終日に鳴り響いた鐘の音は、やはり、この教会のものだった可能性が高くなる。
サクラが三年の歳月をかけて修理費用を工面して、ようやっと直した鐘を鳴らしたのが前回ループの最終日だったと考えると、一応の辻褄は合う。
あとは、それが無限ループと関係しているかどうかを、どのように検証するかだ。
「サクラさんは、今日もアルバイトに?」
「いえ。今日は北の山に山菜を採りに行くと言っておりました」
「……は?」
頭の中で色々なことを考えていた俺は、牧師のその言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になり、思考が完全に停止してしまった。
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