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獣人国に関する噂

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

「は? 戦況?」


「うん。何か知らないか? 戦線は膠着しているという情報以外で」


 教室の外に呼び出し、売店で購入した総菜パンを情報料として差し出すと、ラップは怪訝な顔をしてそれを受け取った。


「お前、定期的にこういうことをしてくるけど、俺を情報屋か何かだと思っているのか?」


「思っていないと言えば嘘になる」


「正直に言いやがって……」


 ラップは恨めしそうに総菜パンを睨み付けると、大きく一口、齧りついた。取引は成立したようだ。


「戦況に関しては、悪いが膠着しているという以外の話は聞かない。王都ならともかく、南の戦線から遠く離れた町にまで、逐一、戦争に関する最新情報は流れてこないだろ」


「まあ、そうだよな」


「もし、そういう情報がこの町にも流れてくるようなら、勝利目前の時か、逆に敗北寸前の時じゃないのか? 何も情報が流れてこないということは、膠着しているってことだ」


「そっか。じゃあ、パン返せよ」


「はいよ」


 俺が冗談で言うと、ラップが三分の一ほど齧ったパンを返そうとしたので、俺は慌てて差し出しかけた手を引っ込めた。


「食べかけのパンは返品不可だ。新しいパンか、他の情報をくれ」


「そうだなぁ……。貰ったパンの分の追加情報になるかどうかは分からないが、最近、西の獣人国で大きめの事件があったみたいだぞ」


「獣人国?」


 誰かとの日常会話の中で、その名前が出てきたのは初めてのことだった。


 獣人が統治する国、ガロン王国。獣人国と呼ばれることも多い。


 アセビの町は、南にある魔族の国との国境よりも、西にあるガロン王国との国境の方が近いため、町長の息子であるラップの耳に入ってくる情報も、必然的にガロン王国に関するものの方が多くなるようだ。


「大きめの事件って何だよ?」


「なんでも、お姫様が失踪して、政情が不安定になっているらしい」


「お姫様が?」


「王国だから、お姫様なら王位の継承権があるだろ? それで、揉めてるんじゃないのか?」


 ラップの話では、行商人などが国境を通過する際の審査が厳しくなったらしく、自由な行き来ができなくなるのではないかと心配する声が上がっているとのことだ。


「魔王軍と戦争しているのに、国内で揉めている場合じゃないんだけどな。まあ、この国も、外国のことは言えないけど」


「そうなのか?」


「第一王子と第一王女が、後継争いでバチバチにやりあっているって噂だぜ? お前って何も知らないんだな」


 何でもかんでも首を突っ込んで知りたがるくせに、と。


 ラップは呆れたように言うが、こちとら右も左も分からない異世界に転移しているのだ。今はまだ、手当たり次第に情報を集めて、整理している段階。無知だと笑われようと、知ったことではない。


「いくらでも馬鹿にしていいから、俺に情報を教えろ」


「なんなんだよ、その知識欲は……。怖いんだよ……。にじり寄ってくるな!」


 ラップは情報収集の鬼と化した俺に恐れをなして、逃げるように教室に戻った。


(獣人国か……。そういえば、この町でも獣人を見たことが何度かあったな……)


 この世界には人間の他に、魔族、獣人、エルフなど、多くの種族が存在している。


 ただ、それぞれが自分たちの祖国を持っているため、いわゆる「人種のるつぼ」のような多種族国家(あるいは町)は存在していないのが現状だ。


 もっとも、戦争中である魔族の国を除けば、国家間の交流は普通にあるので、旅行者は勿論のこと、商売のために外国に移り住む者や、ペダルのように世界中を旅して回る変わり者は、少数ながら存在する。


 実際、アセビの町でも獣人を見かけることはたまにあった。それは、通行人が思わず足を止めて見てしまうくらいには、珍しいものではあったのだが。


(獣人の国は政情が不安定で、人間の国も王子と王女が跡目争いで揉めているのか……)


 ラップの言うとおり、身内同士で争っている場合ではないと思うのだが。


 もし、内輪揉めが原因で魔王軍との戦争に敗れてしまったら、どうするつもりなのだろうか?


(というか、Xデーに関する情報は、何も得られなかったな)


 回避することのできない強制イベント――――しかも、死に直結するものが発生するとしたら、戦争絡みではないかと思ったのだが、違うのかもしれない。


(他に可能性があるとすれば……)


 大規模な自然災害くらいだろうか?


 でも、そんなものは戦争以上にどうしようもない。


 結局、俺はXデーに起こる強制イベントについて、何も有力な情報を得られないまま前日を迎えてしまった。

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