0034 狼
更新遅れてすみません。
ここ暫く忙しいので、また更新できなくなるかもです。
更新できるように頑張ります。
レッサーグレーウルフたちは低く唸りながら距離を詰める。包囲は完成していて、穴が無い。
前方にはグレーウルフ、左右にはレッサーグレーウルフ。恐らく、後ろにもいるんだろう。逃げ道は、用意されていない。
「……13匹か」
カイルが静かに剣を抜く。鞘から抜かれた刃が、木漏れ日を反射した。
「下がってろ、レクシア」
そう言って、私を庇うように立つ。…でも、その表情には自信の無さが隠れていた。それだけ、分が悪いということだろう。
「私も戦うよ」
そう言うと、カイルは驚いたような表情でこちらを振り返り、そして再び前を向く。
「じゃあ、前は俺がやる。後ろは頼めるか」
「うん」
私の相槌を聞くや否や、カイルが一歩前へ出る。
それを見たグレーウルフが、その牙を見せて唸った。
「グルルル……ォォオオオン!」
その咆哮を合図に、群れが動く。
前後左右、それぞれ3匹ずつ。一斉に飛びかかって、数で押しつぶすつもりらしい。
「来るぞ!」
カイルが剣を低く構える。守りの姿勢だ。
そこに、レッサーグレーウルフが飛びかかってくる。
「はあっ!」
最初に飛び込んできたレッサーグレーウルフを、剣の腹で強く弾く。
「【剣技】!」
そのまま剣を横に振り返し、次のレッサーグレーウルフの腹を深く切り裂いた。
私も負けじと、ページを開いて唱える。
「アイスシールド」
私の目前に現れた氷の盾が、レッサーグレーウルフの攻撃を防ぐ。
「ダークボール」
続けて放たれる、黒い球体。その奥にいたレッサーグレーウルフが吹き飛び、気絶する。でも……
「数が、多い……!」
思わずそう呟いてしまう。
現に、私が気絶させた一匹の横を、別のレッサーグレーウルフが飛び越えてきていた。
「ガァッ!」
鋭い牙が迫る。その牙の隙間から、涎が垂れるのが見えて、心底恐ろしかった。
「…ダークボール!」
咄嗟に放ったせいで、その魔法は一撃で倒すのに十分な威力を持っていなかった。
レッサーグレーウルフは少しのけ反るだけで、再び襲いかかってくる。
私は物理防御のステータスが低い。たとえ一撃でも、攻撃を受けるのは危険だ。
「ォオオン!」
再び迫る鋭い牙。避けきる暇は無い。それに、避けたらカイルに当たってしまう。それだと、背中合わせになった意味が無い。
怖い…けど、覚悟を決めて、その牙を敢えて噛み付かせる。
「っ……!」
鋭い痛みが左腕を走った。
レッサーグレーウルフの牙が服を裂き、そのまま腕へ食い込む。熱いような痛み。HPが大きく削れた時の感触だ。だけど…
「捕まえた」
レッサーグレーウルフは、獲物を仕留めたつもりだったんだろう。まさか、私が自分から噛まれに来ているとは思わなかったらしい。…そして、それこそを狙っていた。
「ダークボール」
至近距離で放たれる黒い球体。それが、レッサーグレーウルフの顔面で炸裂した。
「ギャウンッ!?」
悲鳴を上げながら吹き飛び、そのまま木に激突して動かなくなる。これで3匹目だ。
だが……
「レクシア!」
カイルの叫び声。私は、グレーウルフが迫っていることに気づいていなかった。
目の前には、大きく開かれた顎。灰色の巨体が、一直線にこちらへ飛び込んできていた。
「っーー!」
反射的に後ろへ跳ぼうとする。…でも、間に合わない。今にも、グレーウルフの牙が私の首を噛み砕こうとしていた。
でも、その瞬間……
「はああっ!」
横から飛び込んできたカイルの剣が、グレーウルフの牙を防ぐ。
勇者の能力だろうか、その剣が、光と炎を纏っているのが見える。
「ォオン!」
炎に怯えたグレーウルフが、警戒して後ずさる。
「ありがとう、カイル」
あと一瞬遅かったら、私は今ごろ死んでいただろう。
そして、カイルがくれたのはそれだけじゃない。そう、それは……
「……ヒント」
「ヒント?…何の話だ?」
そうカイルが聞き返す。それを聞きながら、私は魔法を放った。正面のグレーウルフにではなく、足元のレッサーグレーウルフに向けて。
「ファイアボルト」
鋭い菱形の炎が、一直線にレッサーグレーウルフへ刺さり、爆ぜる。
「ギャンッ!?」
炎に包まれたレッサーグレーウルフはパニックを起こし、辺りを駆け回る。…通った所に、火の粉を撒き散らしながら。
「グルルルル…」
グレーウルフの耳がわずかに伏せられている。牙を剥いているのに、その瞳の奥には警戒が見えた。明確に、炎に対する恐れがあった。…当たりだ。やっぱり、「グレーウルフ系は炎が苦手」だったんだ。
「ォォオオオオン!!」
さっきのレッサーグレーウルフの火が消えて、群れが再び動き出すみたいだ。でも、辺りの木々には火がついている。…狙い通りだった。
「ねえカイル、少しだけ時間を稼げる?」
「いいけど……何するんだ?」
「ちょっとだけ、中級魔法の準備をするから」
狙うのは、炎属性の中級魔法、「フレアバースト」。群れを壊滅させるに足る、最高の威力で。
そう思っていると、私の口から呪文が自然と出てくる。あの時、シャドウランスを打ったのと同じように。
「炎よ、全てを燃やし尽くすものよ」
襲いかかってくるレッサーグレーウルフの群れを、カイルの剣が防いでいる。私は、私に出せる最大限をするだけだ。
「その原初には種火ありて、その火先は我が敵へ」
手元の魔法式が赤い光を強めていく。
「鋼をも壊す鎚となり、その意を果たせ」
……今だ!
「フレアバースト!」
辺りの空気が一瞬揺らぎ、木々に着いた火に向かって一気に収束する。その風は、辺りの全てを巻き込んで中心に引き寄せる。グレーウルフも、私たちも。
「レクシア、掴まれ!」
振り返ると、カイルが私に向かって手を伸ばしていた。反対側の手で、近くにあった木を掴んでいる。
「うん!」
カイルの手に掴まり、二人の木の後ろに隠れた次の瞬間、爆音と共に熱風が私たちの後ろを過ぎ去る。
「ォオオオオオン!?」
狼たちの悲鳴が聞こえてくる。爆発の中心では、巻き込まれたレッサーグレーウルフたちが次々と吹き飛ばされていた。炎に弱い彼らには、爆発はまさに天敵だった。
数秒後、ようやく熱風が止む。
私は恐る恐る顔を上げた。
「……どうかな?」
「見てみろ、上手くいったみたいだぞ」
後ろを振り返ると、半径十数メートルが焼け野原になっていた。…ちょっとやりすぎたかな?
レッサーグレーウルフは、無事全て倒れている。
しかし——
「まだいる」
カイルが剣を構え直す。
煙の向こうから、一つの影が現れた。…グレーウルフだ。




