1 断罪未遂
「私やってみたいことがあるのです」
グレーテが言う。
「プラウド王族を断罪してみますわ」
「えっ」
ユリシーズはその発言に虚を突かれた。止める間もなく、グレーテは天秤を出す。
「戦を起こす悪人に裁きを!」
グレーテの背後に無数の剣が浮かんだ。
「えっ。ええええええ!」
出現した大量の剣が浮かぶ光景に圧倒される。それまで、ユリシーズはただ面白い能力だと思っていたグレーテの魔法を、本当に恐ろしいものなのだと初めて実感したのだった。
「ちょ、ちょっとまっ」
ユリシーズは思わず制止の声を出すが、グレーテの魔法はすでに発動している。グレーテの背後の剣が高速で振動を始める。
宙に浮いた剣がさらに上へと登っていく。為す術もなく、その剣の行く先を見るしかない。
「あら……?」
動き出した剣が途中で消えた。
「消えてしまいましたわ……」
グレーテがぽけっと眺めながらつぶやく。
「これは、不発ということか……?」
「現在、戦は行われていない。動機があっても、実行してはいない。つまり、悪意はあってもまだ罪にはなっていない、と」
イリアス達が推測を語る。ユリシーズは思わず、ほっと息を吐いた。彼の脳裏にはプラウド王族の一人、フーゴの姿が浮かぶ。
ユリシーズの横でバルドーも小さく息を吐いていた。
「グレーテ嬢。思うのだが、その魔法はとても強力だ」
バルドーがグレーテに語りかける。
「だが、解呪という魔法そのものを無効化する魔法がある。あなたのその強力な魔法であっても、無敵というわけではない。そして、魔法を無効ではなく、例えば『反射』してしまう魔法があった場合……」
「! グレーテの発動した魔法がそのまま本人の身に降りかかる⁉」
バルドーの推測を察して、イリアスが答えを受け継いで言う。
それを聞いて、グレーテ本人も恐れを抱いたらしい。口元を覆いながら目を瞠る。
「その魔法を安全に使うには相手に反撃されないと確証が持てるときに限定した方がいいだろう」
「なんだあ! この歯こぼれだらけの剣はあ!」
寝覚めが悪くぼんやりとした頭を抱えていたフーゴは、鍛冶師のボヤキを無抵抗で聞き流す。
「聞いているのか⁉ どんな使い方をしたのか説明しろ!」
「石を斬った」
「はあ⁉」
フーゴの端的な説明に鍛冶師は目を剝く。怒られるのがわかっていたので、自分で手入れしたりするなどして先延ばしにしていたが、もう無理と判断して馴染みの鍛冶師に剣を持ち込んだのだった。
「動いて襲ってくる石像だったから」
「ダンジョンてのはそんな無茶を要求されんのかい……」
鍛冶師はふーっと息を吐く。
「お前さんの剣は言ってみれば質は二流どころか三流のなまくら。ほとんど鉄の棒みたいなもんだ。もっとまともな剣をそろそろ使えと言いたかったが、これを見て、そんな話を聞いてしまうとなまくらで良かったなと言えてしまうな」
鍛冶師の言葉をそうなんだと頷きながら聞いていた。
「……ちゃんと聞いてるのか? というか大丈夫か?」
鍛冶師はそんなフーゴの様子をどうしたのかと尋ねる。
「変な夢見たんだよね。空から剣が降ってくるやつ」
「空から剣?」
「そう。それもいっぱいの剣が……」
「へえ。それでどうなったんだ」
「どうもしない。途中で消えたんだけど」
「それが怖かったのか?」
「う~~ん。あれがすぐ目の前まで来てたら怖かったんだろうけど。怖いわけでもないのに、妙に心に残る……」
フーゴは忘れることができない不思議な夢に心を占めさせられて、ずっとモヤモヤとしていた。




