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第十二話 「三日目、選考結果」

 東の空がすこし明るくなってきた。

 分厚い雲に覆われた空は相変わらず暗く、雨も止む気配がない。


 俺はというと、ずっと案山子の前で立ち尽くしていた。


 ローブとカバンを屋根のしたに置いて、一晩中雨の中でそのふざけたデザインの面を睨み付けていた。


 テオの作った人形。

 何度も木っ端微塵にするイメージを思い描いた。


 だが、魔法はそれを叶えてはくれなかった。


 魔法を使うことは不可能。

 本の一節が幾度となく頭で繰り返される。


 もうわかったよ。

 十分じゃないか。

 生前もそうだったんだから魔法くらい諦めろよ。

 次は剣術を習おう。

 次は料理も習おう。

 どっちも魔法と同じくらい役に立つんだ。


 …もう諦めろよ。


 雨の一粒一粒が鬱陶しい。

 風の魔法で雲ごとぶっ飛ばせればどれほど爽快だろうか…。


 …出来もしない妄想はやめろよ。


 嫌な自分が自分を追い詰める。


 スッと、雨が遠のいた。

 代わりに頭の上でパラパラと音がする。


「…風邪を引きますよ。」


 傘をさしたテオが居た。

 ネィダの朝食を作りに来たのだろう。


 黒い髪にも水滴が付き、白い詰め襟は肩のところが濡れていた。

 青い瞳がこちらを見ている。


「…早起きですね、テオさん。」

「君ほどじゃない。」


 目を合わさず、顔も向けずに2人は話す。


「魔法、駄目でした。僕はテオさんみたいになれないようです。」


 拳を握る。

 悔しさで目頭が熱くなり、肩が震える。


「魔力ってなんなんですかね。触ったらどんな感じなんですかね。僕、全然わからなくて。魔術教本にも、魔法を使うのは不可能だって書いてありました。」


 危うく嗚咽が漏れそうになるのを堪えた時だ。


「…あの人形は、君が壊してくれると期待して作ったんだ。」


 テオはそっと言葉を口にした。


「君にはきっと特別な何かがある。神様はいつだって試練を越えた者にその寵愛をくださるんだ。君のその苦しみも悔しさも、きっと神様が与えた試練なんだと思う。」


 どこかデニスにも似た雰囲気の声だった。

 諭すような、語るような。優しい声色。


「…信心深いんですね、テオさんは。僕は神様とかはさっぱりで。」

「知れば良いさ。この世界は君が思っているよりずっと広いし、君の知らないことで溢れている。だから今は無理でもきっと君はいつか私よりも偉大な人物になるよ。」


 テオは続ける。

 お世辞はやめてくれと言おうとしたが、彼の目は真剣だった。


「…どうしてそんなに僕を担ぐんです?魔法も使えないのに。」

「それは私の口から言えることじゃないな。」


 彼が体の向きを変える。

 自然とそちらに目線が行く。


「どうか、師匠に聞いてほしい。」


 そこにはネィダが立っていた。

 黄色のフード付きレインコートを着て、流木で作られたような白い杖ともう一着ローブを持っている。


「…行くぞ。」


 短く言うと彼女は手に持っていたローブを俺に投げた。

 デニスのカバンと同じ魔物の皮でできたローブだ。


「…弟弟子になったら私のことはテオと呼んでほしい。」

「なれるかどうかわからないですって。」

「あぁ、でも期待しているよ。」

「その気のさせてくれますねぇ…。」


 モゾモゾとローブを着込む。

 耐水性の高いこの素材は濡れた皮膚に引っ付いて難儀した。


「最終試験、いってきます。」

「あぁ、楽しんで。」


 楽しんで。か。

 そうだな。


 もしこれが最後なら。

 しっかり思い出に残そう。


 魔道とはかくも遠く、美しいものだったと。


 ---


「魔力とはすなわち、自然に宿った残滓。神の時代から姿を変えながら現代まで生き続ける精霊達の痕跡だ。」


 ネィダは足早に森を抜けながら語る。

 これは授業などではなく、独り言なのだとネィダは言う。


「神の時代では人類は皆魔力を使えない代わりに精霊達と共存して暮らしていた。」

「…なんの話です?」

「魔法の歴史だ。黙って聞け。一回で理解しろ。」


 ピシャリと言ったあとに彼女は続ける。


「精霊、人間、そして神々。それらは力を分け与えながら永い年月を過ごした。つまり、人間は魔法なんて最初から持ってなかったってことだな。」


 しばらく進むうちに細い道に出た。

 街道ではない。

 獣道のような土がむき出しの道だ。


「しかしある日を境に精霊は歴史から姿を消す。それはこの世界に魔族という存在が現れた頃だ。」

「魔族が精霊を追い払ったと?」

「いいや違う。世界にはそれぞれ魂の容量があり、魔族が現れたことでそれを越えた。だから精霊達はその大半が自然に還ることで魂が世界から溢れることを防いだ。その時に世界に残った精霊の残り滓が今私達が魔力と呼ぶものだ。」

「世界に残った精霊はどうなったんです?」

「それが精霊達の王、大魔霊だ。」


 大魔霊。

 たしか、彼らを倒したことで人類は魔法を得たのだったか。

 精霊の王の力を得ることで、精霊達の力。魔力を従えたということか。


「魔力と魔法の成り立ちはわかりました。では魔術はどこから?」

「そう、そこ。魔術教本には記されていないけどちゃんとした歴史があるんだわ。」


 森の木々に小さいものが混じり始めている。

 どうやら、コガクゥの村から遠ざかっているらしい。


「魔術とは精霊の言霊を人類が真似たもの。昔は自然を称える感謝の歌だったものが徐々に形を変えて今に伝わった。神々の逸話に準えた詠唱と名前を変えてな。」


 よいしょ、とネィダが木の根を乗り越える。

 俺もあとに続く。


「つまるところ自然の力を司る精霊達の成れの果てが魔力であり、その精霊達が行使した力の名残が魔術ということ。そこまでは理解できた?」

「はい、なんとなく。」

「ん、じゃあ続けるわ。」


 森が徐々に開けて来た。

 雨がすこし弱まったが、代わりに風が強く吹く。


「魔族の出自にはいくつか説があるけど、どれも確信を得ていない。けれど、どの説にも共通しているのは魔族は歴史のある時点で突然現れたという点がある。今から2000年前に魔族はこの世界に出現したんだ。まぁ、魔族については追々話そう。今は魔法だわ。」


 今から2000年。

 思いの外、魔族の歴史は浅い


 ネィダが言い終わるころには森が途絶えてだだっ広い原っぱが目前に広がった。

 地平線まで広がる草原の向こうには小さく町が見える。


「あそこに見えるのが首都ロッズ。そしてこのだだっ広いのがレッド平原。今日の目的地だ。」


 ゴウゴウとうねる風が雨と雷を運んでくる。

 遮蔽物にない草原では一度風が吹けば体ごと押される。


「この平原でおとぎ話の上では2つの存在が命を落としてる。1つは紅き龍。そしてもう1つが大魔霊バーン・グラッド。一説にはその2つは同一存在だったとも言われている。」


 そこまで言ったネィダはくるりと振り返った。


「さて、では質問。魔力とはなんだ?」

「えっと、自然の力を持った精霊の残滓。です。」

「では魔法とは?」

「精霊の王、大魔霊から発現した魔力を従える能力です。」

「ん。覚えが良いな。じゃあ聞くけど。魔法ってどう使う?」


 意地悪な質問だ。

 嫌と言うほど思い知らされたあとだと言うのに。


「魔力を感じ取り、自然の魔力と自身の魔力を同調させ使います。…ん?」


 なんだ、答えたはいいが違和感がある。


「…あれ?」


 そうだ、話がすこしだけ違う。

 魔力は2種類あるはず。


「ネィダさん。あの、自身の魔力とはなんでしょうか?」

「お、そこに気付いたか。やるじゃん。」


 ネィダはニヤリと笑った。


「かつて神々は人類と魔族に世界の居場所を譲った。今から1000年ほど前のことだ。神々が世界から去る前に魔族と人族に祝福を残したとされている。それがもう1つの魔力。自身の内側の魔力だ。」


 なるほ、ど?


 つまり魔法とは、

 神の力と

 大魔霊の権能を使って

 精霊の残滓から力を引き出すことか。


 頭がこんがらがる。

 規模が大きすぎやしないだろうか。


「じゃあここで最後の質問。自身の魔力とはどこにある?」

「どこって…。」


 体をさすったり、両手をみたりしながら考える。

 やはり心臓だろうか。


「とりあえず体のなかですよね?」

「本当にそう思うか?」


 そう言いながらネィダは手の先から炎を出した。

 そう思えば、持っていた杖の先端から水玉が浮かぶ。

 または足元から石柱が生え、風向きが乱雑に変わる。


「もし体の中だとしたらおかしくね?」


 …たしかに。

 もし体の中なら体のなかでしか魔法を練れないはずだ。


 つまり魔量は体の外にある?

 皮膚の上か?

 いや、違う

 だとしたら?


「ま、あんまし焦らしてもしゃーないし、実技いくべ。」


 ネィダはポコンと丸い石を作り上げると俺の足元に転がした。

 そしてカメラの画角でもみるように指でL時を2つ作りそれ越しにこちらを見てくる。


「こことここ、あとここか。」


 杖をかざせばボココと音を立てて俺の周り四隅に石柱が立ち上がる。

 1.5メートル間隔くらいだろうか。

 まるでストーンヘンジだ。


「よし。じゃあ今からこれを読め。」


 そして一枚の紙を渡される。

 すこし長めの詠唱と魔術の名前が書かれている。


 剣翼の突風(ヴォーパルブラスト)

 風の中級魔術だった。


「あの、これ中級魔術ですよね。今の僕では、その…。」


 魔力が足りない。

 初級で魔力枯渇を起こしたのだから、次はおそらく死だ。


「わぁってるよ。いいか、条件をつける。手から出そうとするな。石柱の上から出せ。あと無駄に力むな。そんで上に向けて打て。」


 よく分からない指示が飛ぶ。


「とりあえずこの鬱陶しい雨を止ませろ。やれ。」


 良いのだろうか。

 正直怖い。

 まぁ死にはしないからやらせるのだろう。

 そして、これは記念だ。

 この一発で、魔法も魔術もすっぱり諦めよう。

 魔法諦め記念日だ。


「出来なかったら笑ってください。」


 俺はそう言ったあとに紙にある詠唱に目を向け記憶する。

 そして手は紙を握ったまま構えずにすとんと下へおろした。


 ネィダが数歩後ろに下がる。


 …始めよう。

 石柱の上、4点の離れた部分に気を向ける。

 そして、俺の最後の詠唱を開始する。


「─我、気高き翼の姫君に乞い願う。」


 無作為に吹き荒れていた風が統率の取れた渦と変わる。

 石柱の上から自分の肌がビリビリと痺れるような不思議な感覚が伝わる。


「道行きにその白き翼の影を落とせ。御胸の果ての果てよりその叫びを我に届けよ。」


 強風は突風へ、突風は暴風へとその大きさを増していく。

 視界を飛ぶ草がなんども横切り、草原は大きく波打つ。

 持っていた紙が手を離れ、虚空へと舞い上がる。


「祈りは風が運び汝の翼へ、汝の翼は我が剣となれ!」


 両手は自然と空へ向かう。

 空に触れるように、空を掴むように。


 頼む。これで最後だ。

 最後に夢を見せてくれ。

 飛びきりデカイ夢を見せてくれ。


 そして巨大な風の渦は叫びを上げる

 幼い嵐はもうその時を待ちきれない。


剣翼の突風(ヴォーパルブラスト)!」


 まるで一斉に鳥が飛び立つように、風は弾けた。

 幾重にも渦を巻きながら轟音とともに空を駆け上がる。

 降っていた雨を蹴散らし、果ては分厚い雲に風穴を開けた。


 真っ青の晴れ空がポッカリと現れ、円虹が煌めく。

 雨が止み、風が止む。

 遠退いていく風鳴りだけが耳に届いた。


「…出来た…。」


 魔力枯渇はおろか、疲労感さえも無い。

 ぶっ倒れると思えた俺の体はちゃんと大地に立っていた。


 呆然と見上げた空は、どこまでも澄んでいた。

 綺麗だ。こんなに空が綺麗に見えたのは初めてだ。


「力むなつったのに。」


 黄色いレインコートについた葉っぱを落としながらネィダが言う。

 そうか、彼女のお陰か。

 俺1人でこんなデカイ魔術を魔力枯渇無しに打てる訳がない。

 彼女が最後に夢を叶えてくれたのだ。


「ネィダさん、この石柱は魔方陣だったんですね。それで俺の魔術の補助を…。」

「は?バカかお前は。あれはただの目印だ。」

「…目印?」

「そう、お前の魔力と自然の魔力の境目を目で見えるようにしただけ。」


 魔力の境目?

 どう言うこと?


「魔法は2つの魔力を同調させる。そのためには魔力の境目の近くで魔法を練らないといけない。なのにお前の魔力の境目はお前の手が届く範囲よりだいぶ遠いんだわ。」


 石柱のまでの距離を見る。

 たしかに、とてもじゃないが手のとどく範囲ではない。


「だから自然の魔力に触れることも出来ないし、魔術を打つにも自前の魔力だけで打つから変換効率が悪い。ってとこだ。」


 ネィダは事も無げに言う。


「石柱の上で魔法使ってみなよ。多分、普通に使えるんじゃねぇの?」


 半信半疑だ。

 手のひらで火を作る。相変わらず弱々しい。

 それを1度消し、石柱の上を起点に火を起こす。


 そして起こったのは爆炎だった。


 直径3メートルほどの爆炎があがる。

 轟音と共に石柱が砕けちる。

 激しい熱と光に「うわ!」と魔法を使った本人が1番驚いた。


「バカ!!!すこしは加減しろ!!!」


 ガツンと杖で殴られる。

 だが痛みよりも、目の前で起こったことの衝撃が大きい


「これ、本当に僕が…?」

「以外に誰がやるってんだ。」


 いまだに信じられない。

 あれだけ必死にやっても使えなかったのが嘘みたいだ。


「じゃあ、魔法が使えなかった原因は…。」

「まぁあたしも確信があったわけじゃねぇけど、単にお前がまだ小さかったからだろうな。体がでかくなりゃ解決した問題だったってことよ。」


 …なんだ、結局サーシャの言うことが正しかったのか。

 大きくなったら出来るようになる。

 一歳の頃にすでに答えが出ていたとは、恐れ入った。

 思わず笑いが出てしまう。


 焦って大騒ぎして結果がこれとは。

 生き急ぎ過ぎていたようだ。


「もう1つ試して良いですか?」

「…あんまり力むなよ。」

「はい!」


 先ほど石柱があったところにもう一度起点を置く。

 風の魔術を打ったときの感覚をそのまま思い出す。


 シュルシュルと小さな風鳴りが視線の先に現れる。

 風の魔法だ。

 拳大の空気の渦がそこにある。


「これをこっちにしたら…!」


 興奮を押さえながら魔法を操作する。

 右手を左に薙げば周囲の風向きが右から左に流れる。

 左手を右に薙げば周囲の風向きは左から右に流れる。


「そしたら、こう!」


 手刀でもう一本の石柱を薙ぐ。

 風の渦は刃となり、それを両断した。

 鋭利な傷痕を残して風は霧散する。


 サーシャが使った風の魔法を、一通り使うことが出来た。


「…ぃやったああああああ!!!!!!」


 俺は跳び跳ねた。


 やった!ついに出来た!

 火以外の魔法を使えた!!

 サーシャと同じだ!

 グルグルーのバーンのシュッだ!!


 同じ事を出来るようになる。

 胸の奥のつっかえが綺麗に取り払われた瞬間だった。


 両手でガッツポーズを取る。

 何も出来なかった幼い手に、やっと出来ることが。

 やりたかったことの1つが掴めたのだ。


「で、どうする?」


 腰に手をあててネィダは言う。


「故郷に帰る?」

「滅相もない!!!」


 飛び込むように俺はネィダの前に正座した。


「ネィダ・タッカー様!いえ!師匠!!どうか!どうかこのユリウスに今後もご指導ください!!弟子にしてください!!お願いします!!」


 正座のまま頭を下げる。


「…鬱陶しい真似してないで行くぞ。腹減ったわ。」


 弟子にするとは言わなかったが、彼女は行くぞと言ってくれた。

 顔をあげ、すぐにネィダを追いかける。


「帰ったらすぐに朝ごはんにします!」


 最初は飯炊き。

 弟子の基本だ。


 ─俺は魔術師の弟子になった。


 ---


 家に帰り、あるもので。しかし嬉々と朝食を作る。

 今日は鱗鳥(リザッキー)の卵があったのでオムレツだ。


 残っていた野菜スープの水分を飛ばし、イングリットの村にもあった赤と黄色のトマトを入れて炒める。

 塩で味を整えて卵でくるめば出来上がりだ。


 鱗鳥(リザッキー)のオムレツ。

 葉野菜のサラダ。

 黒パントースト。


 それらを机の上に並べる。


 あとついでに聞いてほしい。

 今回は火加減も着火も魔法で出来た。

 正しい距離で居さえすれば、本当に細かい調整が効くのだ。

 火掻き棒時代とは精度が段違いだ。


 普段からすればだいぶ離れて火を見なければならないが、それでも魔法でできることは感動以外の何物でもなかった。


 テオと俺が豊穣の女神へのお祈りをしている最中にネィダはさっさと食べ始めた。

 信心深いテオと神も恐れぬネィダ。

 2人は対照的だった。


「とりあえずユリウスは爺さんに報告とか諸々な。それが終わり次第反復練習と読書。」

「はい!師匠!!」


 食事をしながら今後のことをネィダは話す。


「テオはシーミィんとこで薬学。覚えたことは片っ端からユリウスに叩き込め。」

「承知いたしました。ネィダ様。」


「あたしは寝る。今日は休み。以上解散。」


 用意した朝食を終わったらさっさと中二階へと上がる。

 彼女にとっては研究室であり仮眠室だ。


「…なんというか、我が道を往く。って感じですね。」

「あぁ、私も最初は困ったものだ。」


 そう言いながらテオも席を立つ。


「朝食、美味しかった。また頼む。」

「お任せあれ!」

「頼りになる弟を持ったな。」


 食事の評価は上々だ。

 自炊男子で良かった。

 人に披露することなど無かったが今は役に立っている。

 これから転生する予定がある人は是非参考にしてほしい。


 ---


「そうか、ネィダの弟子になれたか。流石は俺の孫だ。」


 金の蝶番亭に戻った俺は朝食をとっているアレクに事の詳細を告げた。


「しかし、忍び込んだか。大人しい風にしていてその実大胆よな。お前は。」

「…怒らないんですか?」

「ん?何故だ?」

「いえ、その、誉められたことでは無いとは思ってたので…。」

「なぁにを言う。男児たるもの、想いを遂げるために悪にも手を出そうて。」


 アレクは腕を組ながら胸を張って言う。


「俺も昔は時に外道に走ったこともある。やり遂げてこそのことならば、尚更よ。外道でも下衆でも、やらねばならぬのが男と言うものだ。」


 意外だった。

 俺はアレクは正義漢だと思っていた。

 善良を愛し悪逆を憎む英雄だとも。


「それに、ユリウス。お前はそれを悪だと思ったのだろう。本当の悪人というのはそれがさも正義のように語るのだ。そうでないのだから俺はお前を責めたりはせんさ。」


 そこまで言って彼は立ち上がる。


「さて、俺はもう少ししたら仕事に戻らねばならん。それまでに家の用意だけは済ませておこう。」


 そうだった。

 アレクはイングリットの村を含めたドラゴンロッド卿の領地統括の任がある。

 約10日も俺に付き添ってくれていたのだ。

 これから帰るのならもう7日ほど追加になる。

 仕事も山積みだろう。


「あの、お爺様。改めてありがとうございます。僕の我が儘を聞いてくださって。おかげで前に進めます。」

「気にするな。いつだって老人は孫に言い顔をしたいものだ。任せておきなさい。問題は稼ぎのほうだが…。」

「それは大丈夫です。クアトゥ商会のお手伝いをさせて貰うことになりました。これからクアトゥさんのところに挨拶に行きます。」

「ほう、流石は俺の孫。抜け目が無い。クアトゥには借りが出来てしまったな。」

「お爺様の孫ですので。」


 2人でニヤリと笑う。


「では、行くとしようか。」

「はい!」


 2人揃って宿を出て、2人別々の方へと歩き出す。


 魔術師の弟子としての生活がまもなく幕開ける。

---ユリウスのメモ---


家賃、月に銀貨2枚

バイト 朝から夕方 日に銅貨15枚+昼飯代

週一で月に銀貨1枚、週2で銀貨2枚→家賃だいたいOK

食費の稼ぎ→別のバイト?要検討


読みたい本候補


新訳 神々の軌跡 ~古代、神代、近代を読み解く~

世界の人 種族文化と歴史解説

魔術教本 上級編

旅する食卓 美味しい魔物100選

世界図 人族語版

ドラゴンロッド列伝

治療魔術 基礎編

英雄アレキサンドルスの冒険

モテる男の必勝法 あの子もこの子もズキュンバキュン(黒く塗りつぶされている)

女を抱くなら旅に出よ(黒く塗りつぶされている)

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