これから
空を飛ぶ鳥を見て、憧れを抱いた。
あの鳥のように高く飛べたら。
どこまでも行けたら、って思ったんだよね
この曲はね、私がただ空への想いを書いた曲なんだよ。
『Sky』が発売された時に歌姫レティが言ったことだ。
その時のことははっきりと覚えてるし、思い出せる。
俺は目を瞑って、桐野たちの歌う『Sky』を聞いていた。
「どうだったかな!?」
局が終わると桐野は勢いよく俺に聞いてきた。
みると他のメンバーも気にしてそうだ。
そうだな…。
「まず、桐野」
「はいっ!」
凄い良い返事がきた。
「少し声が走り気味だった。お前の声はよく聞こえるからほかのパートで消されないのはいいけど、失敗したり違ったりすると余計に目立つ。歌ってて楽しいのはわかるがそこはコントロールしないとダメなんじゃないか?みんなが合わせようと速くしてくれたのはいいが、それにあわせて更に速くなるから疾走感しか曲になくなる」
このままいってしまうと、ただただ速い曲だけになってしまう。
「つぎに桃山」
「おっ…」
ギターは確か…。
「桃山につられて速くなるときコードミスしただろ」
「ああ、した」
「そのあとから少し崩れがちだった。一度失敗したなら、そのあとは何がなんでも失敗出来ないと思うから失敗するんだ。してはならない、という考えは強迫観念にしかならず、さらなるミスを起こすことになる。だから気にしない方がいい」
人間の仕方ないところでもあるから、なかなか難しいけど出来るようになればこれほど本番に強くなれるものはない。
「神崎は…」
「ほいほい、なんでしょー!」
無駄に元気だな、おい。
「とくになかった。よく叩けてたと思う」
なんもないのかーーー。
とすこし寂しそうにしている。
しかし特に注意することもなかった…と思う。歌いやすいように速度も取ってたし…。
「畑は、そうだな。もう少しこの曲を弾きこんでみるといいんじゃないかな。なんというかちょっと拙かった」
「あっ、やっぱりそうだよね。ちょっとあまり時間取れてなくてさ…ごめん」
時間が取れなかった割には弾けていた方だ。
しっかり基礎が出来ている、ということなんだろうな。
…歌いたい。
歌ってみたい。
「…昴くん。…いや、ううんなんでもない」
桐野は俺の顔を見て何か言いたそうだったが、結局諦めたようだ。
「とりあえずわかったのは全員音楽が好きだということだ。一番大事だから、それだけでも充分だ」
しかし、これからどうしていくんだろうか。
とりあえずSkyの曲をやってみた、というだけだが…。
「なあ、これからどうしていくんだ?」
桐野達は何か考えているのだろうか。
「私はね、オリジナルを作って歌いたい!みんなとやってみたい!せっかくバンド、という形にしたんだもん!コピーだけじゃもったいないよ!」
と桐野は言うが…。
「オリジナルといっても、作詞作曲の人間が要るだろ。作詞はまあ、メンバーがやれば良いとして曲にするのは誰がやるんだ」
もっともな意見を言ってみると全員俺をじっとみる。
「おい、まさか…」
嫌な予感がする。
「そう、そのまさかだよ!昴くんが出来ると思うんだよね、今の的確なアドバイス。音楽の知識もある。私達も勉強するけど、一番可能性があるのは昴くんだと思うんだよね」
こいつ…なんて勝手なことを…!
しかもアドバイスを求めながら俺の適性を確かめたとでも言うのか、こいつはこんなにも頭が回るやつだったか?いや、あまりよくは知らないが。
その後、暫く言い訳をしてみたが誰も取り合ってくれなかった。
あげく
「俺はやめるぞ!こんなところ、さっさと抜けてやる!」
と言うと桃山が
「芹沢は入ると約束して、入ったのに?しかもアドバイスだけしてどこかへ行こうというのか?見届けはしてくれないのか?そんなに責任感がなかったのか?私達はもう仲間だと思ったのだが違うのだろうか」
などとほざいてきた。
こうして俺は作曲兼作詞兼アドバイザーとなった、もといさせられることとなった。




