第四話 三号と三号管理官は地獄を生きる
彼はあのときから変わっていない、ととある軍人は口にした。
空軍中央支部航空機整備場の一画
そこには三〇代前半の真面目そうな軍服姿の男性が一人。
そして、梁には背に鷹の翼を持ち、カラスの爪を持つ一〇代後半の青年が一人、ぶら下がっていた。
「三号、返事をしろ」
三〇代前半の軍服姿の男性は厳しい目つきで梁にぶら下がる青年を睨み付ける。その顔は痛みに耐えているようにも思えた。
整備員達は離れた場所から二人の様子を見守る。
「…………」
「三号、返事をしなければ、お前を規律違反で梁から撃ち落とす。三秒以内に返事をしろ」
「うっせぇわ、おっさん。はいはい、オレはここにいますよーだ」
男性の言葉に三号と呼ばれた青年は即座に返事をした。
彼は撃ち落とされることが嫌で、反応をしたわけではなかった。『罰』を受けたくないために反応したのだ。
「お前、二日前の任務時間外に八号に絡んで怪我をさせたらしいな。それも私が一一号管理官のもとに行っている間に。八号管理官から連絡があったぞ」
「あー、そのこと?」
「何故、八号に怪我をさせた」
男性の声は低く、怒りが籠もっている。
青年は男性の言葉に一瞬、言葉を詰まらせる。だが、すぐに悪びれる様子もなく、口を開く。
「だって、あいつ、頭良くて指示ばっかしてくるし、ウザい」
「八号の言っていることは基本、至極真っ当だ」
「あー、はいはい。分かりましたよ、オレが悪いんすよね」
「おい」
「はいはい、分かってますよ。出来損ないですいませんでしたねぇ。初期個体の唯一の現役個体がこんな個体ですいませんでしたねっ!!」
「私はっ、そういうことを聞いているわけではない!!」
青年の自暴自棄な言葉に男性の怒号が整備場に響く。
その瞬間、青年と男性の首筋に微弱な電流が走った。二人はその瞬間、揃って痛みに顔を顰めた。
初期個体、三号。もしくは空一号。
それは空軍にて人外兵器として登録された個体であり、初期個体三体のうちの唯一の現役個体である。
素体は一〇代後半の反軍部の青年。素体は反軍部時代に軍部の反軍部捕縛作戦とは名ばかりの反軍部殲滅作戦で軍部により捕縛された。
彼は拷問・尋問を受けた末に強制的に人外兵器化された。抵抗虚しく、三号には鷹、カラスとの混合キメラ化が行われた。
人外兵器化後、彼は知性・理性は失わなかったが、人間の身体に鷹の翼と牙、カラスの爪といったように鷹とカラスの特性が強く出る状態となった。
発語能力は問題なくあるものの、元々の成育環境が悪いために知性・理性はそこまで高くはない。
管理官は三〇代前半の空軍所属の男性軍人であり、階級は少尉。
飛行迎撃部隊に所属しながら戦闘機・航空機の整備も可能な軍人である。
過去、三号管理官就任直後に三号による脱走未遂が発生。そのために管理業務以外にも監視業務も行っている。
「じゃあ、何が聞きたいんだよ、管理官」
「お前が八号を怪我させた理由は彼が「年下」で、「頭が良く」て、「指示を出して」きて、「ウザい」からではないだろう」
三号管理官である少尉は整備場の梁にぶら下がる三号の目を睨み付けながらも、真っ直ぐに見る。
「……あいつの「僕は間違っていません」っていうツラが嫌いだ」
「そうか」
「「正義面」してんのが納得いかねぇ。あいつ自身はガキだし、全部親がレール引いてるくせに」
三号は少尉の視線に耐えきれず、梁から降りる。
鷹の羽根で宙に浮きながらバランスを取り、体制を立て直す。そして、少尉から少し離れた場所に降りた。
彼の顔は少尉から逸らされていたが、言葉は自身の管理官に向いていた。
「……気持ちは分かるが、怪我をさせて良い理由にはならない」
「わぁってるよ」
「今回は軽い怪我で済んだから良いが、八号が再起不能になれば、お前も私も無事では済まされない」
「そのときはあんたの管理不足であんたも処罰受けるし、オレも廃棄処分だろ。……今だって、規律違反しただけでこのざまだ」
三号は電流が流れた首筋、正確にはうなじを押さえる。
そこには小型のデバイスが埋められていた。それは青年を見張るためのGPSであった。そして、同時に彼が規律違反等を行った際に微弱な電流を流し、罰を与える機械として活用されているものだった。
「分かってるよ。脱走してみたときに聞いたわ。いちいち、うるせぇんだよ、おっさん」
「口を慎め、三号」
「細けぇ」
少尉は自分に毒づきながらも、言いつけを拒否しない三号に安堵の息を漏らす。言いつけを拒否すれば、彼に痛みが走ることが分かっていたのだから。
チリリと少尉のうなじに埋められた小型デバイスがさらに熱を帯びる。だが、少尉はその熱の痛みを顔に出すことはなかった。
三号に付けられたGPSと同様のもの。いや、彼のものよりも電流の電圧が高圧なものまで流すことができるデバイス。
それが三号管理官である少尉には取り付けられていた。
三号管理不足の罰として、活用されるために。
「分かっているなら、今後、そういう行動は慎むように」
「はいはい」
「場合によっては六号管理官の軍曹殿か、一号もしくは九号に言いつける」
少尉は自身から視線を逸らしながらも、返答した三号の言葉に居たたまれなくなった。
三号の経歴上、同じ未成年のうちに兵器化した八号と相性が悪いのは察していた。
家族はおらず、強制的に拒否権もなく、人外兵器化された未熟な青年。
家族がおり、自ら望んで人体兵器化を受けた成熟していた少年。
そんな二人の反りが合わないことなど、分かってはいたのだ。
「……やだ」
「だからだ。二度と、こういうことはするな。いいな」
「……へいへい」
軍人と反軍部だった青年。
二人の地獄は今日も終わらない。
彼はとても真面目でお堅い人間だ、ととある青年は口にした。




