第一一話 命を燃やす
燃ゆる命は紅く笑う。
「五号、次にお前が参加する紛争の作戦書を持ってきた、が、何やってるんだ、お前」
先生が軍部中央合同庁舎に行って三〇分後、陸軍中央支部人体兵器開発研究所の扉が開かれる。廊下から研究所に入ってきたのは一号と中佐だった。
五号は二人の姿に気が付くと、書いていた課題から視線を離し、二人の姿に目を輝かす。
課題については周囲にいた研究員に言われ、五号は思い出したので書いていたまでで、本人のなかでの優先順位はあまり高くなかった。そのため、今、二人が姿を現したことで課題の優先順位はさらに下がった。
「あ、兄さん、おひさっす! 腕回してたら外れました」
「先生に「やめろ」と言われなかったのか、お前は」
五号からの返答に一号は頭を押さえた。持っていた作戦書は側に来ていた研究員に渡した。
「言われたっすけど、間に合いませんでしたねー」
「五号管理官に同情する」
「中佐に同意します」
「あ、一号管理官じゃないっすか。この前の紛争ではお世話になりました!」
五号は頭を抱える二人を目にも入れず、ニッコニコとした笑みを浮かべた。悪意も、敵意も、何もないために二人は五号に対してキツい言葉を掛けることはできなかった。
「お世話になったと思うなら、今度は私の私物を絶対に壊すな」
「はーい!」
作戦中に五号に偶然、私物の懐中時計を渡したところ、不運にも彼に懐中時計を踏み壊された中佐は彼に文句を言うがそれは至極当然のことだった。
なぜならば、中佐は立場も所属部隊も違えど、間違いなく、五号にとっては上官という上の立場の存在であったのだから。
「……五号、管理官がいないうちに聞いておく」
「はい?」
呆れながらも中佐は言葉を紡ぐ。彼が作戦書を五号に渡しに来た一号に着いてきた理由は一つだった。
一号は中佐が五号に話しかけている隙にと一部の研究員に五号が参加する作戦の説明を行い始める。
中佐と五号が参加する紛争の作戦書の素案を考えたのは他でもない一号だった。だからこそ、一号は責任を以て、五号にも分かるような説明を研究員達に行った。
自分が行ったところで五号は理解できないことを経験から知っているからの行為だった。
「体調は良いか」
「まあ、良いっすね」
「サイボーグの具合は」
「悪くはないっすね」
五号はあまり聞かれない質問事項に「なんでそんなことをこの人が気にするんだろう」と内心、首を傾げた。だが、そこまでだった。それ以上は考えなかった。
考えたところで結局、何も自分のためにはならないと判断したのだ。
「全体の損傷の進行状態は」
「……言わなくてもいいっすか?」
そして、彼が考えるまでもなく、中佐が彼に似たような質問を投げかけた理由を五号は途端に察した。
中佐は自分の損傷具合を把握しようとしているということを。
「言え。命令だ」
「え~」
「言った方が自分のためだぞ、五号」
チラリと助けを求めるように五号は一号に視線を向けた。運悪く、一号はまだ研究員達に作戦の説明を続けていた。一号は五号から助けを求める視線が送られてきていることに気付いていたが、気付かないふりを続けた。
この場では中佐の行うことに逆らう理由が一号にはないのだ。
「いー」
「言え」
「うー」
小さい子どものように各場所は助けの視線を五号は送った。だが、無情にも彼に助けの手を差し伸べるものは誰もいなかった。
この場で中佐に逆らおうと思う者は誰もいなかった。それも普通のことだった。
中佐はただ、五号の損傷具合を聞こうとしているだけなのだから。
「……今はもとの状態の三〇パーセントくらいまで損傷進んだって聞いてます。ま、まだ大丈夫っすよ」
五号は諦めた。そして、自身の損傷具合を口にする。口にしてから中佐の顔を見れば、彼の顔はあまりにも苦虫を噛み潰したかのような顔をしていた。自分も似たような顔をしているのだろうと五号は察した。
どれだけ自分がバカでアホであろうと人間の身体が酷く損傷し、そこからサイボーグ化したところで元の身体に戻ることはないということは分かっていた。
そして、サイボーグ化は万能ではないことも知っていた。酷使すればするほど、自分の身体がボロボロになっていくということも分かってはいた。
「どこがだ」
「どこが?」
「今の状態で大丈夫と言う根拠はどこにあるんだ、五号」
「ここにいる俺」
だが、それでも五号は気丈に振る舞う。誰にバカにされたところで気丈に振る舞い続ける。
「アホか」
「え~ん、口が悪い」
残された長くない命。
そんななかで残された人生を楽しむためには全力で命を燃やす必要があると五号は考えているのだから。
燃ゆる命は短い命を謳歌する。




