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第十話 バカな五号は今日も先生に怒られる

彼はバカでアホで、それでいて真っ直ぐだったと兵士は語った。

「センセー!! 見てみてー!! メッチャ俺の腕回るわー!!」

「五号っ、壊れるからやめろ!!」


 陸軍中央支部人体兵器開発研究所


 そこでは青年の喜びに満ちた歓喜の声が響いていた。あまりに大きな声に彼の側にいた研究員達は耳を塞いだ。


「あっ」

「……五号、俺はやめろと言ったからな。替えにかかった金額はお前の給料から引かせてもらう」

「げっ」


 五号と呼ばれた活発そうな青年は自身の左腕を振り回した。サイボーグ化された己の左腕をブオンブオンという音が鳴るほどの勢いで回した。


 普通の人間でもその勢いで回したら、肩を脱臼するだろう、というほどの勢いで彼は腕を振り回していた。


 結果、彼の左腕は振り回された反動で外れ、研究所の隅へと飛んでいく。ガンッと鉄製の腕は壁に当たり、床に落ちる。

 誰が見ても壊れているのは明らかだった。


 五号から「センセー」と呼ばれた四〇代の男性研究員は制止したにも関わらず、左腕を飛ばした青年の姿に溜息をついた。そして、頭を押さえた。


 自身が五号にとっての「先生」である自覚はあった。だが、ここまで理解しない「生徒」は今まではいなかった。


 だからこそ、彼は教師としては許されなくても、軍部に所属する者として許される「賠償責任」を五号に求めた。


「なんで、回したら外れるって教えてくれなかったんすかっ、センセー!」

「普通に考えれば、回せば外れるって分かるだろう。三号でもそれくらいは分かるのに、どうしてお前は」

「だって、俺バカだもーん」

「自分でバカを誇るな!!」

「誇る!」

「誇るな!!!!」


 非常に不満げな顔で自身に詰め寄る五号を先生は叩き倒す。


 それくらいしなければ、目の前にいるバカなサイボーグ兵士は理解しないことを分かっての「教育方法」だった。そうしても、彼が学ばないことも察してはいた。


 しないよりはした方がマシな教育方法だった。


 五号は先生に叩き倒されながらも、「痛いっすよ、センセー! 暴力はんたーい!!」とわめき散らした。




 二期個体、五号。もしくは陸三号。


 彼は陸軍にてサイボーグの人体兵器として登録されている二期個体である。


 素体は二〇代前半の一兵卒の男性軍人。素体自体の知性・理性が低めである。そのための問題行動や素行の悪い行動も見受けられる。だが、その反面、飲み込みが早い一面も見受けられる。


 他国との紛争時に非常に重篤な身体欠損状態となり身体の一部──一部顔面、左腕、両足、一部内臓──をサイボーグ化し、彼は命を長らえた。

 現在は現場での任務を熟しながら、管理官が所属する人体兵器開発研究所で研究の手伝いをしている。



 管理官は陸軍所属の四〇代前半の男性研究員。非常に面倒見が良く、周囲に振り回され気味である。

 現在は前職の教員の経験を活かし、三号、五号、八号、一一号、一三号などの教育係も兼任している。



「そういえば、今日、授業の日じゃないですか、センセー」

「はっ?! そうだった! あと二時間もない!」


 五号の左腕を拾い、調整を始めようとした先生は五号の言葉に急いで腕時計を見た。


 彼が日々、一部の人外・人体兵器達に対して行っている「授業」。それの実施が二時間後に迫っていることを彼は今の今まで忘れていた。


 五号も先程まで忘れていた。ふっと思い出しただけだった。


 実は管理官から課題が出ていたことなど、忘れているのだから。


「センセーにしては忘れちゃうの珍しいね」

「お前が問題ばかり起こすからだろうが!」


 先生は以前より動きが悪くなった自身の身体で五号に蹴りを放つ。腐っても軍部に所属する研究員だ。


 最低限の護身術はできる彼の一撃を五号はいとも簡単に避ける。まるで、それが遊びかのようにふわりと避ける。


 先生は苦々しい顔をしながらも側にいた研究員に五号の腕を預ける。


 五号の腕の調整は五号管理官のみがすることではない。というよりは彼が管理官であるから時間があるときは五号の調整を行っているだけで研究所にいる人間は全員、五号の調整ができた。


「今日の調整はここで終了だ。二時間後に軍部中央合同庁舎の第二小講義室に集合するように他の四人にも伝えておけよ!」

「はーい、分かりましたー!」


 先生はいくつかの資料を掻き集め、軍部中央合同庁舎へと向かう。


 五号はそんな彼の後ろ姿をニッコニコと楽しそうな笑みを浮かべながら見送った。


「んー! じゃあ、今度は右足でも、」

「「それはダメだ!/ダメよ!」」

「「やめろ!/やめてあげて!」」


 五号が今度は右足を振り回そうとしたのを研究所にいた研究員達が声を揃えて止めようとしたことは言うまでもない。



 ──――それが自身の管理官への信頼からできる行動だと五号本人以外の全員が察していた。

彼は誰に対しても面倒見が良く、苦労人だったと教師は語った。

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