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第8話 森の襲撃

 ダンローは朝早くから出かけ、また人気のない森に来ていた。彼はそこで剣を振っていた。そうすることで精神を集中して心の乱れを治めていた。


「ん?」


 ダンローは急に人の気配を感じた。誰も来ないはずのこの場所に誰が・・・と思っているとあの老人が姿を現した。


「これは失礼しました。お邪魔をいたしまして・・・」

「いや、いいのだ。しかしどうしてこの場所を?」

「私は方術師でしてな。人の行き先ぐらいわかりますのじゃ」


 老人は懐の水晶玉を取り出して見せた。それは光の届きにくい薄暗い森の中でも輝いていた。老人は単刀直入に言った。


「あなたは悩み苦しんでおられますな」

「いや、アサカ殿のことならもう吹っ切れている。あの方は私とは縁がなかったのだ・・・」

「いやいや。それもあるが、また別のことです。この国にかかわることじゃ」


 老人はそう言ってじっとダンローを見た。その人を射すくめるような視線にダンローはこの老人には隠せないと思った。


「あなたはすべてを見抜いておられるようだ。お話ししよう」


 ダンローは剣をしまって話し始めた。


「我がサラク国は王様の不在をいいことに次席大臣ゲキが専横を極めて勝手なことをしている。それに密かに王家乗っ取りの恐ろしい陰謀を巡らしているようだ。首席大臣のビゼン様はじめ反対派の我々はそれを阻止しようと動いた。しかしビゼン様は病がちであり、代わって私が先頭に立って(まつりごと)を正さんがためゲキを糾弾した。しかしゲキは行いを正さないばかりか、私を排除しようと罠を仕掛けていたのだ」

「罠と申されますと?」

「私がよく出入りしているスザキ道場の師範代のエザキをゲキは仲間に引き込んだのだ。エザキはこちらの情報を流していた。やっと尻尾をつかんで問い詰めたところ、エザキは剣で向かってきた。多分、これもゲキに前々からそそのかされていたのだろう。私を斬れば出世させてやると。私は裏切り者のエザキを斬った」

「それではただでは済みませぬな」


 老人がそう言うとダンローは静かにうなずいた。


「私は申し開きの機会も与えられぬまま、私闘で人を斬ったということで城下追放になった。もちろん道場からは破門。アサカ殿との縁談は破談となった」


 ダンローはため息交じりに言った。


「それであなたはこの山の中に」

「ああ。ゲキがさらに我が物顔で権勢をふるっているだろう。私は王様に一日でも早くお許しいただき、ゲキを排除せねばならぬと思っている。ここだけの話だがもう証拠は固めつつある」

「そうでございましたか。王様が帰国されたならそのゲキ大臣を除くことができますな。それならばあなたが政に復帰する日も近いでしょう」


 老人は確信を得たように言った。ダンローはこの老人の正体が気になった。何もかもをすべて話してしまったが、この老人の受け答えの態度からやはりただ者ではない。もしかすると王様配下の者、いや、もしかすると評議会の密偵かもしれない。


「そろそろいいでしょう。あなたの本当のお名前とご身分を御明かしください」


 ダンローは老人の目を見て言った。しかし老人は笑顔で首を横に振って答えた。


「いやいや、私はただの旅の方術師です。すこしいろんなところに首を突っ込みたがりますがな」

「いえ、そんなことはない。あなたは・・・」


 ダンローがそこまで言ったとき。急に周りの木々が揺れ始めた。数人の者がここを包囲して近づいてきているようであった。ダンローは老人にそっと言った。


「ご老人。ご用心されよ。このダンロー。まだ付け狙われているようだ」


 すると覆面を付けた剣士が木々の間から出てきた。どこにも逃げられぬように2人を包囲していた。


「何者だ!」

「何者でもよい。ここで死んでもらう!」

「大方、ゲキの手の者であろう。」

「それは死んでから確かめるのだな。それ行け!」


 その声はゲキの配下のドランのものだった。ドランがダンローを斬ろうと手練れの者を引き連れて急襲してきたのだ。覆面を付けた剣士が一斉に剣を抜いて襲い掛かってきた。

 するとどこからかキリンが飛び出してきて、剣士たちの前に立ちはだかった。


「出てきやがったな! この人たちには指一本触れさせねえぜ!」


 キリンは覆面の剣士たちに向かっていき、突きや蹴りで攻撃していった。その強さは尋常なものではない。ダンローが剣を振るう間もなく、剣士たちは叩きのめされていった。これではダンローを斬るどころか、近寄ることすらできない。形勢不利と見たドランは叫んだ。


「うむむむ。退け! 退け!」


 すると剣士たちは一斉に剣を引いて森の中に消えて行った。老人がキリンに命じた。


「あの者たちを追え」

「はっ」


 老人の言葉にうなずいたキリンもまた森の中に消えて行った。ダンローは剣をしまい、ほっと息をついていた。多勢に無勢、一人では寄ってたかって斬られていたかもしれない・・・そう思うと冷や汗が出てきた。そんなダンローに老人が声をかけた。


「危ないところでしたな」

「ご老人。お供の方のおかげで助かった。礼を言う」

「いや。なんの。なんの。しかし失敗したからにはまた企んできますな」

「ああ。用心しなければな」


 ダンローは額の汗を手で拭った。


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