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 心安らぐラベンダー色の看板を眺めながら、店に入った。

 マスターは毎日通ってくる私に笑顔はむけてくるが、けっして声をかけようとはしない。きっと私から話せば喋ってくるのだろう。けど今のままでいいと思っている。あまり親しくならない方がいい。顔見知り程度にとどめ、奥まで踏み込まないのが人間関係で後悔しない自己ルール。



 仕事帰りにここで過ごす時は、この店の名前の入った大きなマグで受け取る。ラベンダー色で、金色の流れる英字でラベンダーのサボンと書かれていた。このマグも買って帰りたい、っていつも思いながら口に運ぶ。


 そして中央の大きなテーブルの端っこが私のお気に入りだ。対面するのは店の人ではなく、店内が見えるように座る。

 店のカウンターが見えるように座るのも楽しいが、時々従業員と目が合うことがあった。向こうは商売だからにっこり笑ってくれるが、実はそんなしぐさに笑い返すことも苦手な私。即座に笑い返せず、うつむいてしまったこともある。



 それからは背を向けて座るようになった。あちらにしたら毎日通っていても私の存在なんて大したことはないだろう。顔を見れば思いだすが、もし、こなくなってもそのまま忘れられていく。


 そんなものだ。世の中って。



 私はコーヒーを傍らに置き、まず退社連絡した。そしてその日の営業日報をタブレット端末に入力していた。休み明けに仕事場でやるべきことだが、今、ここでやってしまった方が記憶も新しい。さっさと入力し、一応、誤字がないか確かめて、送信を押す。完了だ。これで完全に仕事から開放された。


 これからは私だけの時間となる。なにをしようか。





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