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 ちらりと竹中を見る。彼に勧めたら食べるだろうかと考えた。

 だってさっき、おいしそうって言ってくれたから。しかし、それを勧めるのに躊躇していた。もし、さっきの言葉、本気じゃなかったら彼はあからさまに断るだろう。お腹がいっぱいですからとかなんとか言って、気まずい雰囲気になるかもしれない。

 手作りとはいい印象もあるが、他人が素手で触れた物だ。神経質な人は嫌かもしれない。それに食べ残しみたいな物だ。


 竹中はそんな私の迷いを感じたらしい。


「あれ、もうお終いっすか? 残すんだったら僕にください」


「えっ、だってお腹一杯なんじゃないの? それに私の手で触っちゃったから」と口を濁す。


「いいっすよ。このくらいなら全然食べれるし、手作りなんだから触るのってあたりまえじゃないですか。たとえ鹿島さんの歯形が残った食べかけでも気にしません」


 そう言って、もう最後の一片に手を伸ばしていた。豪快に口に入れた。一口で食べてしまった。呆れかえって見ていた。


 彼の表情が輝く。


「うまいっ」と叫ぶ。


 慌てて咀嚼し、飲み込んでいた。早くそれを語りたいというそんなワクワク感が伝わってくる。まるで子供が大好きなケーキを食べた時のように、そんな明るいオーラが伝わってきた。


「いや~、うまい。甘目のピクルス、入れてるでしょ。あっさりとした酸味がマヨネーズとマッチしていてすっごくうまいっす。からしもいい具合にきいてるし、最高。僕好み」


「そう?」


 こんな私でもそんなに褒められると照れくさい。

 あまり料理をしない私だが、ひと月に一度は作るこの玉子サンドは私なりのこだわりがあった。その好みでこだわった所を言い当ててくれたことも嬉しかった。それは味覚が似ているということなんだろう。竹中は的確にその中身を言い当てていた。



 夕べ、ずっと前に買った甘目のピクルスが冷蔵庫の奥に押し込められているのを発見。もうそろそろ処分をしなければならないというのが第一の動機。卵も賞味期限ぎりぎりだったから、前日に卵を茹でておいた。食パンだけは朝食用に買ってあったから、厚めだけどそれをそのまま使った。


 前もってそのつもりで買い物に出かけていたら、サンドイッチ用の薄いパンを用意していただろう。厚みがあるからお腹がいっぱいになってしまったというのだけは誤算。



「次にまた作る機会があれば、ぜひ僕の分もお願いします。そのお金、払うんで」


 この時、竹中のために作ってきてもいいと思った。お金ってところがこの関係に一線を引いている気がして笑える。きっと気になる女子なら、作ってきてほしいと告げ、そのお礼に食事の約束、つまりデートとして誘うんだと思う。けど、相手が私だから、そこにはなんの意味もないということだと知らせている。


 私もちょっと意地悪を言ってみた。


「じゃあ、また今度ね」


 社交辞令のまた今度。聞こえはいいが、「今度」と「お化け」は出そうで出ないということ。普通の人なら頭をかいて、また今度ですか、やっぱりと笑う。けど、竹中はそういうことを知らなかったらしい。かなり真面目に受け止めている。


「本当ですか。嬉しいな。絶対ですよ」


 そう言われて慌てたのは私の方。


「あのね、今度って・・・・」


 無粋ながら説明をしようとした。その私に手のひらを向けて遮った。


「知ってます。今度っていう意味。期待しないで待っててってことですよね。でも、僕は本気で待ってますから」


 その、本気というところがちょっと心がざわめく。いわゆる、胸キュンということ。そんな思いがけない自分の反応にも戸惑いを感じている。こんなに年下の男の子相手に何を考えているんだろう。あり得なかった。


「私、その気になったら突然作ったりするの。もし、その日に新人君がお昼持ってきたらどうするの?」


 まだ、本気にできない私がいた。彼は、両方食べますから、僕の胃袋のことは心配しないでくださいと言って笑っていた。もうこの会話はおしまいにしよう。この次、玉子サンドをいつ作るかはわからないから。私は水を飲み干した。


 

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