表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/33

第四章  魔王となりし者 5 第四章【終】


 タイトは、独り、クライス・ド・ソール六世の私室に向かって、歩いていた。

 六世の私室の前までくると、タイトが声を掛ける前に、室内から声が掛かった。

「入れ、タイト」

 そう言われ、タイトは、「失礼します」と声を掛けてから扉を開けた。

 そこには、先ほどと変わらぬ服装の六世がベッドに腰かけていた。当然、腰には宝剣を下げたままである。

「タイトよ、お主は、どこまで知っておるのだ」

「どこまで、と言われましても陛下の御存じである事実以上のことを、私が知ることなどできるはずもございません」

 そのタイトの言葉を聞いて、六世は笑みを()らした。

「体型どおり、狸よの。分かった。それで何ようだ」

「ハッ、実は、ダグの容体が思ったより深刻でありまして、今日予定されておりました話し合いを三日後に延ばしていただきたく、御願(おねが)いにあがりました」

「そうか、ダグも、お前の話を聞かなくては、死んでも死にきれんだろう。あい、分かった。タイトの好きにいたせい」

「ありがとうございます。それでは、三日後、陛下の御公務が終わり次第、参上いたします」

 六世は、そこまで、話が終わると、腰に下げた剣を外し、(くつろ)ぐような姿勢でタイトに言った。

「タイトよ、お前は、本当に不思議な男だな。お前には、人を和ませるような何かがあるのか」

「それは、()(かぶ)りというものですよ。私は、(ただ)の駄目兵士にございます。王国にとっては、唯の金食い虫過ぎません」

「フハハハ・・・。それこそ、自分を卑下(ひげ)し過ぎだ。お前のような、男が、余の(そば)で働いてくれていたら、余も・・・」

 六世が、そこまで言うと、タイトが止めに入った。

「陛下、もう、過去を変えることはできません。過去には、希望など無いのですよ。希望は、明日に向かって持つものです。確かな明日を迎えることは誰にもできませんが、()いのない明日を迎えることは誰でもできます」

 そこまで言うと、六世が口を挟んできた。

「お前の発言は、難しすぎるぞ」

「失礼しました。それでは、もう少し、言い()えましょう。今日という現実を受け入れられた者だけが、悔いのない明日を迎えることができるのです」

 今日は、ここまでと、タイトは頭を下げた。

「それでは、三日後に参ります」

 そして、タイトは、六世の私室を出て行った。

 六世は、また、私室に独りになった。遠くを見つめて誰にともなく話しかけていた。

「悔いのない明日か・・・、本当に、余にも迎えることができるのだろうか」 

 そんなことが、自分に訪れることはないと信じてやまない六世であった。

 自分は、もう魔王となったのである。その時点で、悔いはないが、明日が来ることもない、と思わずにはいられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ