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新しい生活

次の日、龍の宮へと維心と維月、洪達は飛び立ち、残った蒼達は帰路に着いた。

十六夜はそのまま彎という仙人の所へ向かい、皆は新しい生活に入った。



蒼は、相変わらず人の世の事業に力を入れ、今は平穏な神の世界と、全く動きのない闇に感謝しながら、人として平穏に暮らしていた。

瑤姫の腹はもう大きくせり出し、今月末には予定日が来る。母は一足先に先月また男子を出産し、明維(めいい)と名付けられていた。将維はもうすぐ一歳になるところだった。

十六夜は相変わらず、仙人の所に行って話をしていたが、たまに母の所に寄って来るようだ。先日勝手に連れて帰って来て、維心が大騒ぎしたことがあった。それからは必ず一言断ってから連れ出すようにと取り決められた。その時維心は激怒していた。よっぽど心配したのだろう。


そうこうしながらも、皆は一応のひと段落を迎えていた。

人が人の生活に集中できるのは、本当にありがたいことだと蒼は思った。このまま、兄弟姉妹達が共に年老いて行くまで、平穏であればいい、と蒼は思った。


侍女が駈け込んで来た。

「蒼様!瑤姫様、いよいよでございます!」

蒼は慌てふためいた。子が生まれるのか!

「オレ、どうすればいい?何かやらなきゃならないのか。」

侍女は首を振った。

「男のかたは次の間で待機してくださいませ。ここからは我らにお任せを。」

蒼はまた座った。それなら駈け込んで来てまで知らせなくてもさあ…。

それでも、何か落ち着かなくて、蒼はうろうろと歩きまわった。維心様は母さんの横にべったりくっついて出産まで離れないって聞いたのに、オレは中にも入れてもらえないんだ…。

「生まれるんですって?」

有が仕事から帰って来て、コートを脱ぎながら蒼に言った。蒼は天の助けだと思った。

「そうなんだけど、もう半日は経つのに、侍女達は何にも言って来ないんだよ。」

蒼は待ちくたびれたのと心配なのとで有に必死に言った。有は呆れたように言った。

「そりゃ、初めてだしそれぐらいかかるわよ。ちょっと見て来るわ。」

有は医者の免許を持っている医者の卵なので、蒼は少し安心した。

「頼むよ。」

有の後ろ姿を見ながら、こういう時の男の無力さを感じていた。


有が戻って来た。

「ちょっと難産みたいだけど、今龍の宮から他のお産担当の龍が着いたし、もう少しだと言ってくれって。」

難産なのか。でも難産の定義ってなんだろう。蒼はお産についての知識が全くないことを後悔した。何しろ母さんがあんなに軽々ぽんぽん生むから、そんなものかと思っていたのに。

向こうの方から、小さく声が聞こえて来た。

「あと半刻でございます!」

侍女が叫んでいるようだ。蒼は慌てて産所の隣の部屋へ駆け込んだ。

そこには、母も座っていた。

「母さん!来てたんだ!」

「今さっき龍達とね。」

蒼はハタと思い当たって聞いた。

「…維心様には言って来た?」

維月は首を傾げた。

「龍達が行くって言うから、急に思い立ってね。洪に、維心様に伝えておいてって言って来たけど。」

嫌な予感はしたが、今は瑤姫だ。蒼はその瞬間を待った。

「お生まれになります!」

侍女の声が叫ぶ。するとすぐ、子の泣く声が響き渡った。維月はホッとしたような顔になった。

「ああ、よかったこと。お子は元気なようね。」

しばらくすると、子が布にくるまれて侍女に抱かれて来た。蒼に恭しく手渡される。

「女のお子でございまする。」

やはり、事前に気を読んでいた通り、女の子だった。蒼は瑤姫と決めた名前にしようと、言った。

「この子の名は、瑞姫みずきだ。」

侍女が頭を下げる。維月は微笑んで瑞姫を蒼から受け取った。

「おばあちゃんですよ~瑞姫。まあなんてかわいいのかしら。瑤姫によく似ていること。維心様も次は女が欲しいと言っていらしたけれど。」

蒼は目を丸くした。

「まだ生むの、母さん!」

維月は横を向いた。

「出来たら生むわよ、命だもの。でも、さすがに少し休みたいわね。二年連続で生んだんだもの。」

びりびりと屋敷が震えた。何か強い風が外から思い切り吹き付けているようだ。侍女達が怯えている。蒼はその感じに覚えがあった。

「ああ、母さん!維心様が来たじゃないか!」

「あら」維月は瑞姫を抱いたまま動じない。「大丈夫よ、ちゃんと言ってから来たんだし。」

風がやんだかと思うと、維心が部屋へいきなり入って来た。

「維月!」と、腕の子を見、「…なんだ、これは誰の子だ?」

蒼が横から言った。

「オレの子です!オレと、瑤姫の。」

維月はにっこり笑った。

「瑞姫というの。とてもかわいいでしょう?」

維心は素直にその子を抱き、じっと顔を見た。

「ほう、瑤姫に似ておるが、蒼にも似ておるな。女であったのか。」

蒼は頷いた。

「はい。維心様も次は女をとおっしゃっていらっしゃるそうで。」

維心は頷いた。

「二人続けて男であったのでな。臣下達は喜んでおるが、我は娘も欲しい。」

そして、ハッとしたように、瑞姫を蒼に渡した。ごまかしきれなかったか…と蒼は思った。

「そんなことを話しに来たのではない。維月!出掛ける時は我に一言申せと言ったではないか!」

母は顔をしかめて言った。

「洪に言づけて来たわ。だから私がここに居るとわかったのでしょう?」

維心は眉を寄せている。

「それはそうだが…我が良いと言ってから出るのだ。さすればこのようにばらばらにここへ来なくともよかったではないか。」

「そんなことをしていたら、間に合わなかったのですもの」維月は言った。「子はもう生まれると言ってたのだもの。維心様、接見してらしたし。」

維心は黙った。そうか、維心様がお仕事中に、勝手に出て来たのか。そりゃ怒るよ母さん。と蒼は思った。しかし、維心はため息をついて維月の手を取った。

「では、帰ろうぞ。もう気が済んだであろうが。」

維月はぷうと膨れた。

「もう、維心様は、私の外出は本当にさせて下さらないのだから。」

維心は抱き上げて言った。

「我と共に出掛ければよい。」と蒼を見た。「では蒼よ、また。祝いは改めて言いに参るゆえに。」

蒼は瑞姫を抱いたまま頷いた。最近の維心様は、特に母さんを離さない気がするんだけど…。

そんな蒼を後目に、維心は空へ飛び立って行った。


瑤姫も子も健やかだった。

蒼は穏やかな幸せに酔い、これがずっと続けばいいと思った。

たまに十六夜が帰って来て、母や維心様がバタバタとやって来て、そんなことも笑っていられるこの余裕が、蒼には心地よかったのだ。


自分の使命のため、蒼は人外になった。

その使命がいつ来るのかわからない。でも、最後まで自分は愛おしい者達を守って生きて行こうと心に決めた。


そして、今日も里の穏やかな日は暮れて行き、月が上るのだった。





落とし所が見つからないまま、ここで終わらせました。このお話では、皆の立ち位置や心情を知って頂こうと、それに注視して書きましたので、事件という事件は起こりませんでした…。ここでは書けなかったR- 18のエピソードはムーンライトの方に22日深夜0時から短編三本、一時間毎にアップされます。次回から、この立ち位置を理解してもらった上での、新しい戦いが始まります。12月24日昼12時より全36部で、「続々・迷ったら月に聞け~叛乱」http://ncode.syosetu.com/n6160bk/が、1月1日昼12時からは「迷ったら月に聞け~外伝・龍の恋」http://ncode.syosetu.com/n9553bk/がそれぞれ始まります。外伝は11部なので恋愛だけですぐ終わります。しばらくは同時連載です。こちらもまたよろしくお願い致します。ここまで長々とありがとうございました!2012/11/9

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