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3/15大幅に修正しました。すみません
膝立ちになり携帯を取り返そうと、伸ばした私の手を捕まえた佐野さんは、不機嫌そうな顔をなり携帯を顎で挟んだ。
そして、長い両腕を私の腰に回し佐野さんの胡座の上に横向きに座らせ身体を引き寄せ、私から遠い方の手で携帯を持ち変える。
「俺?夜桜の時に会って話しただろ?智恵の隣にいた俺だよ。お前…今更、電話なんかしてくるなよ。二股かけて智恵と別れたのは、お前だろ?あの彼女が智恵に言ったからバレてるぞ。」
佐野さんは、呆気に取られる私を抱きしめて、友達と話すかのように元彼に言葉をかけている。
「ん?智恵から聞いたんだよ。俺に言い訳は必要ない。
俺達が付き合ってるから、智恵の部屋に俺がいるんだ。だから、もったいないって言ったろ?あの彼女より智恵が良いに決まってるのに。」
相槌を打ちながら話しを聞く佐野さんに、元彼が何を言っているのか気になってしまう。
佐野さんを見上げると携帯を耳にあてたまま、口づけてきて私の中に舌を入り込ませてくる。
不意を突かれた口づけに顔が赤くなり、佐野さんの胸を軽く押すと、舌を私の舌に巻き付け撫で回して唇を離す。
「お前、邪魔してるの分かってる?
今まで智恵に断られてきたんだろ?俺は、夜桜からも智恵と連絡を取り合ってたし、定期的にも会えてた。それで、最近付き合い始めた。それが、智恵の答えだ。もう、諦めろ。」
元彼と話す毎に声が低くなり、少し嫌そうな顔をして携帯を持ち替える佐野さん。
電話が続きそうだったので、膝から下りようとすると、佐野さんが伸ばした足の間に座り、背中を預ける様になってしまう。お腹あたりに腕が回りこんできた。
「電話したいなら、すれば良いさ。けど、俺の可愛い智恵がお前を好きになる事はない。これから智恵の隣には俺がいるから、お前の隣に智恵は行く事は二度とない。
あと、こんな時間に電話をかけたり、智恵に迷惑かける事はやめろよ。」
腕を外してもらおうと佐野さんを見て目が合うと、ニヤリと笑い口づけられ舌を入り込ませてくる。
電話中なので、私が声も出せずにいるのに、何をしてくるんだ。
やっと、肩を押す抵抗をしている私。
「お前の事情もあるけど、智恵の事情もあるだろ?しかも、智恵は一人暮らしの新人の社会人だぞ。仕事があるんだ。お前もバイトしてるなら、少しは分かるだろ?
お前は、何もかも甘えすぎて智恵を困らせてたんだよ。」
私の言いたかった事だったから、言ってくれて嬉しいけどこの状況も困る。
元彼の長くなってきた話を、佐野さんはため息をつきながらも聞いている。
私が悪い訳でもないけれど、電話の相手が元彼だし居心地悪くまた逃げようとするけど、佐野さんに軽く睨まれ腕に力を込められるだけ。
「分かってるなら良い。勝手にそう思っとけ。智恵に謝っとけよ。けど、智恵はもう俺のだから渡さないけど。じゃあな。もういいだろう。切るぞ。」
佐野さんが電話を切る隙に、私は佐野さんから離れた。
「さて…。智恵は逃がさないよ。俺がどれだけ智恵を好きな気持ちをこれまで押さえて、智恵に触れる事も我慢してきたか教えてあげるよ。」
「いや、もう時間も遅いし。付き合うのに時間かけたのなら、そこも時間かけようよ。」
佐野さんの目が鋭く獲物を狙うような目になっている。
私は、自分で自分を抱きしめ、慌てて説得力のない事を言う。元彼からの電話の流れの今、関係をもとうとしなくても良いと思ったからだ。
「そ、それに、さっき付き合う事になったばかりじゃん。」
佐野さんが訪ねてきて付き合う事になったり、私に口づけながら元彼と電話で話したり、思いもかけない事ばかりの中で関係を持つ気分になれなかった。
「ふ〜ん。いいよ。分かった。だから、もう一杯カフェオレいい?
何もしないから、良かったら泊めて。泊まるだけ。
今日も一日仕事頑張ってきたんだ。もう少し、智恵と話したい。明日は午後からだけど、この時間に帰るのは、きつい。」
私を見て、急に困り顔で弱々しくなった佐野さんに言われる。
私も佐野さんと一緒にいたかったので、それならと泊める事にした。
「言ってくれたら、いつでもチケット用意したのになぁ。」
「え?」
「ほら、ライブの話。今度、チケット渡すから智恵一人で来て。そうしたら、俺は張り切っちゃうよ。それで、後で癒してよ。」
「一人は寂しいですよ。そこまでファンじゃないから。」
「なら、三枚用意する。だから友達と一緒においで。けど、智恵は帰らずに残って。俺と二人で食事しよう。」
またカフェオレを入れて、そんな風に和やかに話をしてたのに、佐野さんはどこで何を考えたのか、スイッチが入ったのは突然だった。
「智恵ってさ、別れてから今まで俺と会ってて、寂しくなったりしなかった?」
「ん~。佐野さんがマメに連絡くれたから、寂しくはなかっですね。
会ってもいろいろ仕事の事も話してくれたり、夜桜の時に庇ってくれるくらい、佐野さんが優しかったですし。」
「俺は、ずっと開いた距離が寂しかったよ。智恵に連絡する事さえ嫌われないかと、躊躇うくらいだった。
これでも、智恵に会う度に緊張して格好良く見せるように頑張ってた。なのに智恵は、俺の気持ちに気が付きもしないし。俺、諦めようかと考えもしたよ。無理だったけど…。」
不機嫌そうに話してたのに、甘える様に私の膝に倒れこんできて膝枕の体制になる佐野さん。
「今日は、智恵を送った男も電話してきた奴も我慢した。
ねぇ。智恵。俺の事好き?好きならご褒美ちょうだい。俺、もう智恵が足りなくて明日から頑張れそうにないんだ。」
私が知らなかった佐野さんの思いに胸の奥が暖かくなり、ゆっくりと顔や頭を撫でていた。
ご褒美と言われても何が良いかと考えてたら、佐野さんと視線が重なった。
「ごめん。やっぱり約束守れない。俺に智恵をちょうだい…。」
なのに、それはいつか男女のそれに変わってしまい、クリスマスのより激しく最後には意識まで失い目が覚めたら昼前になってしまっていた。
「何もしない言ったのに…。泊まるだけって…。」
つい、裸を布団で隠して起き上がりながら、恨みがましく言ってしまう。
佐野さんに布団をかけられ、厚めのラグの上で寝てたらしいけれど、グッタリとした身体が余計に軋む。
「俺、これでも我慢したんだよ?
縁が復活した好きな彼女の部屋に、二人きりで泊まった男の気持ちも分かってよ。
ちゃんとカフェオレ飲んで智恵と話しして、電話の事も落ち着いた頃に、時間をかけて丹念に思い切りしたし。」
にやにや笑って言うのに佐野さんは、また私より前に起きていたのか爽やかに元気だった。
「私の言葉との意味が違うんです…。」
「けど、俺が智恵を好きなんだから仕方ないだろ?また、今夜くる。ちゃんと俺の事を待ってて。そのままの姿でも良いから。
サンドイッチと飲み物、買ってきたから、食べれそうなら食べてよ。」
そうして佐野さんは軽い足どりで仕事に行った。
そして、本当に夜に来て、今度は佐野さんのマンションに連れて行かれた。
佐野さんと次に会えたのは2月のバレンタインデー。
その数日前に、佐野さんが、たまにはお洒落して食事に行こうと、高級レストランに誘ってきのだ。
当日は平日だったけれども代休も残っていたので、泊まる事にした。
慣れない路線の電車に乗ると、遅刻しそうに思えたから休みを申請した。
仕事が終わり泊まりの用意をした私が、佐野さんのマンションの部屋で待つ事になっていた。残業も無かったので、予定より早く佐野さんのマンションに入り、リビングに荷物を置いた所で玄関が開いた。
「あ。智恵。ただいま…。」
佐野さんはなんだか慌てたように言って、すぐにシャワーを浴びて着替え始めた。
連れて行ってくれた店は、私の服装が浮いていないか気になるような高級レストランだ。
慣れないマナーに緊張しながら食べる料理の美味しさに、すぐに夢中になる。店まで、タクシーで来たのでワインも少しだけ頼み、佐野さんと一緒に美味しく飲んで話しも弾んだと思う。
「幸せそうに食べるね。連れてきたかいがあったよ。いいバレンタインデートになって良かったよ。」
そう言う佐野さんも嬉しそうにクスクスと笑っていた。
食事を終えて大きな通りでタクシーを捕まえてマンションに帰ると、佐野さんはキッチンでコーヒーをセットしはじめた。
「智恵もカフェオレ飲むの付き合って?」
リビングのソファーに座るそう言って、佐野さんも隣に座る。
これからDVDでも見る?
カフェオレはアイスにする?
智恵は、いつならライブ来れそう?
今日の佐野さんはワインで酔ったのか、いつもより質問が多い。私は質問に答えるだけだった。
そうしながらも出来たカフェオレを、佐野さんはローテーブルに二つ置いて啜った。
「智恵。俺、車に忘れ物したから取ってくる。すぐに帰ってくるから、ここにいて。」
なのに、しばらくすると私を軽く抱きしめ出て行く佐野さん。今日の佐野さんは、どこか変だ。
何かあったのかと首を傾げながら、バレンタインのチョコレートとプレゼントを戻ってきたら渡そうと、ソファーの隅に隠して置いた。
次にリビングのドアが開いた時には、佐野さんが大きく華やかな花束を持っていて、ソファーに近づくとラグの上にひざまづいた。
「智恵。俺と結婚してほしい。これから二人で一緒に同じ家で生きて行こう。」
花束を私に差し出しながら言われても、佐野さんが何を言っているのか理解出来なかった。
差し出された花束と佐野さんを交互に見てしまう。
「レストランより、やっぱりこの部屋のソファーで申し込みたくてさ。
格好良くは言えないけれど、これからも智恵と一緒にいたいんだ。俺達は例え離れても、また一緒になる巡り会わせなのかもしれない。
だから、変な意地を張らずに素直な返事を聞かせて欲しい。」
そう言い、私の動きを待ちながら花束を渡してくれる佐野さん。花達の重みと芳香が私に届き、少し現実を受け止められる。
「でも…。」
「すぐに結婚しようと言うんじゃない。今は、俺の気持ちを受け止めてくれるだけでもいい。」
私を見つめて、不安そうに揺れる佐野さんの目に、やっと言葉の意味が理解できて、これは佐野さんの本心なんだとわかり私の返事が出来た。
「…はい。よろしくお願いします。」
そうして、佐野さんとの関係がかわっても引っ越しをしても、私達はあのソファーで暖かいカフェオレを飲みながら一緒に生きていくのでした。