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○最終章
昼間から白く鈍よりとした雲が街中を覆っていたが、夜が深まるとついに雪が舞い降りた。
そんな中、クリスマスイブなのもあって、玉那ランドは夜間営業をしていた。
地方によくある小さな遊園地だったが、家族連れやカップルでごった返している。
その人ごみをかき分け、花火大会の場所とは逆方向にある観覧車に向けて急ぐ。
ゆっくりと空を漂う雪で視界を奪われたが、シュンはその足を止めなかった。
そして坂道を駆け上がって頂上に辿り着いた時、観覧車乗り場の前にはキャリーケースを引いた瑞穂がいた。
傘を差さずにいたのもあって、黒のコートには既に白い雪が積もり始めている。
舞い落ちる雪の合間から、ゆっくりと動き続ける観覧車が見えた。
瑞穂は立ち止まって、観覧車の一番てっぺんを見上げていた。
この街を見下ろすように観覧車は高台に立っていて、街の至る所からその姿を見ることが出来た。
この観覧車を見る度に瑞穂は思いを寄せていた。
だがこの場所に一人で立つのは気が引けて、ずっと出来ずにいた。
ここに来ると、どうしても思い出してしまう記憶がある。
それはどんなに願っても、もう二度と手に入らない日々だった。
その幸福に手を伸ばせないと考えると、心が締め付けられる思いがする。
もう朧げになってしまった記憶。
けれども、その記憶を消したくはなかった。
だから考えないようにしていた。
──幼かった瑞穂が幸せを感じた、たった一つの思い出。
そして今も、幸せだった日々を再び失おうとしている。
どちらも、もう戻れない日々であるとは分かっていた。
けれど、どうしても待ちたかった。この場所で。
降り続ける雪に歓声をあげながら、瑞穂の横を女の子が通り過ぎる。
三十代後半そうな男女が並び、母らしき人が前を歩く子供に「滑らないようにね」と後ろから言葉をかけていた。
三人は駅の方に向かって歩いていく。
もう閉園時間だった。
──帰る場所なんて、あたしにはもうないんだ。
瑞穂がそう思い、薄く白に染まり始めた地面に視線を移した時だった。




