第6話 婚約
続きを見ていただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。
「…………は?」
グラッドがぽかんと口を開けている。
「夜会で会ったときに一目で惚れ込んだ。ぜひ我が妻になってもらいたい」
「い、いやいや殿下、アネッサは体が弱く、とても殿下の妻としては……」
「問題ない、俺が支える」
「しかし……」
「体調以外に何か不都合な問題でもあるのか?」
「い……いえ! そのようなことは!」
「ならば問題あるまい。アネッサ嬢、君はどうだろうか?」
「わ……私は……」
「君を支えさせてほしい」
アネッサはレオンハルトを見つめて、この前のあの優しい目を思い出していた、しばしの静寂の後、決意を固めた表情のアネッサは返事を返す。
「よ……よろしくお願いいたします」
「アネッサ!?」
グラッドは驚いた表情でアネッサを見る。
「ア、アネッサ、本当にいいのかい?」
「はい、お父様」
アネッサははっきりと父に告げる。しかし彼は引き下がらず、
「お前は体が弱いんだ。無理をしたら体に良くないだろう」
グラッドは目でアネッサを威圧する。余計なことを言うなと。アネッサはその目を見て、萎縮してしまった。
「あ…………あ……の、わ……私は……」
「ローゼンハイム卿、俺は問題ないと言っている」
レオンハルトの言葉と同時に全身から溢れ出した漆黒のオーラが周囲を吞み込んでいく。グラッドを睨みつけるその姿は、まさに全てを平伏させる闇の魔王そのものだった。
「ひ!? い……いえ……私はその……つ……つまり……」
グラッドは彼の姿に恐怖し、言葉がうまく出せなくなった。そして、
「わ……わかりました……アネッサをお願いいたします……」
「わかった、では後日迎えに参る」
「しょ……承知いたしました。では、それまでに我々もアネッサに王家にふさわしい振舞いを教育いたしますので……」
「その必要はない」
「え?」
「迎えは3日後だ。それまでに準備を願いたい」
「3日ですか!? それはあまりにも急では……体調もおもわしくありませんし、せめて王家にふさわしい振舞いができるまで、1年ほどは待っていただかないと……」
ここでレオンハルトの後ろに控えていたアルヴァインが前に出る。
「アネッサ様のお体の件は我々も承知しております。殿下もいたく心配されており、今すぐにでも王宮に迎え入れたいお考えです。ご心配いただかなくても王宮には我が国一番の医療機関がありますし、教育機関もございます。アネッサ様にとっても、より良い環境でご養生なさった方がよろしいのでは?」
「た……確かにそうではございますが……」
「ローゼンハイム卿も大切な娘様をよそへ送り出すことへのご不安があるかもしれませんが、アネッサ様のことは我々が必ずお守りするとお約束いたします」
「……」
グラッドはアルヴァインの言葉に何も言い返せなかった。ふとレオンハルトを見ると、レオンハルトは鋭い眼光でずっとグラッドを睨みつけている。
「…………わかりました」
「ご理解いただき、ありがとうございます」
アルヴァインが後ろに下がる。
「それではローゼンハイム卿、3日後に迎えに来る。その間アネッサのことをくれぐれもよろしく頼む」
レオンハルトは威圧するようにグラッドに語りかけた。
「はっ……お待ちしております」
グラッドは恐る恐るレオンハルトに頭を下げる。
「アネッサ、また3日後に会おう」
「は……はい、お待ちしております」
アネッサの答えにレオンハルトは優しいほほえみを浮かべ、ローゼンハイム家を後にした。
帰りの道中、アルヴァインがレオンハルトに小言を言っていた。
「殿下、私は穏便にと言いましたよね。何ですかあの黒いオーラは」
「仕方ないだろう。アネッサがあの男に怯えていたんだぞ。我慢などできるものか」
「まあ、私も憤りを隠せませんでしたが……とにかく、話がうまくいって良かったですね」
「ああ、そうだな」
(ローゼンハイム、あの男のアネッサを見るあの目……よほどのことをしてきたのだろう。最後に含みを入れておいたが、追いつめられた者は何をするかわからん。念のため保険をかけておいた方が良いか……)
「アル」
「影をつけますか?」
「……お前、俺の考えが全て見えているのか?」
「殿下の顔はわかりやすいので」
「……まあいい、ルナをつけろ」
「はっ」
[グラッド視点]
どうしてこうなった!? まさかアネッサがあの男と接点があったとは。夜会の後アネッサの目の色が変わっていたが、その時はどうでもよかったので気にしてなかった。まさか、その時にレオンハルトと会ったときに何かあったのか!?
レオンハルト……あいつは厄介だ。あの男は不正や悪行を決して許さない。私の知り合いも何人あいつに消されていったか。冷酷非道とはよく言ったものだ。
あとはあの男の後ろにいたアルヴァインも厄介だ。子爵家の分際のくせして異常に頭が切れ、正義感がレオンハルトと同様に強すぎる。ああいう輩は金でなびかない。面倒なことになった……
勘のいい奴らのことだ、我が家のことなど全て調べ上げているはず。現状は何も言ってこない。しかし、アネッサがあいつらの元に行くとなったら話が変わってくる。あいつの体には多少なりとも傷がある、顔は万が一を考え避けているが、それ以外は火傷、擦り傷の跡が残っているはずだ。くそ! こんなことなら、苛立ちに任せて痛めつけるんじゃなかった!
いや、落ち着け。傷はそこまでは多くないはずだ……アネッサに言い聞かせて、自分でつけてしまったことにすれば、疑惑はあっても証拠にはなるまい。こうしてはおけん、すぐにアネッサの元に行かねば!
私はすぐにアネッサの小屋に向かった。辺りはすでに暗くなっているが問題はない。
「アネッサ、開けろ」
私はノックをしてアネッサを呼んだ。戸がゆっくりと開かれた。
「お……お父様……このような時間にどうされたのですか……?」
「お前にひとつ念を押しておく。体の傷のことを聞かれた場合は自分でつけたことにしろ。決して傷つけられたなどとは口にしないように」
「…………はい…………承知しました」
「よろしい、もし口外した場合は、この私がどのような手を使ってでもお前を家に戻して死よりもつらい苦痛を味あわせてやる。覚えておけ」
「そ……そんな……」
「当然だろう! お前をここまで育ててやったというのに、親を裏切る子など生きている価値などない!」
「…………お父様は、本当に私を必要とされていないのですね…………」
「貴様!! 誰に向かって口をきいている!」
私は感情的になり手を振り上げる。その瞬間、私の首元に鋭い刃が当たるのを感じた。
「ローゼンハイム卿、そこまでにしていただきたい」
「だ……誰だ!?」
「私はレオンハルト殿下にお仕えしている影でございます。殿下よりアネッサ様をお守りするよう仰せつかっております」
「な……なんだと!?」
「また、アネッサ様に危害を加えようとした者がいた場合、王家に対する敵対行為として処分するよう仰せつかってもおります」
「ひ!?」
「レオンハルト殿下は、アネッサ様さえ迎えることができれば、これ以上はあなた方への干渉は行わないと仰せです。しかし、先ほどの脅迫は敵対行為と認定せざるを得ないと判断しますが……」
「て……撤回する!! 決してアネッサには手を出さないと誓う! だから先ほどのことは水に流してくれ! 頼む!!」
「…………いいでしょう。ですがここまでです。これ以上何かされた場合はお覚悟を」
「わ……わかった! わかったから放してくれ!」
ようやく私の首から刃が離れてくれた。そして、影と名乗る女は私にこう告げた。
「なお、先ほどの行動を鑑みるに、殿下がアネッサ様を迎えに来られるまでの間、アネッサ様との接触を禁止いたします。他のご家族も同様とします。これを破った場合は……お分かりですね?」
「わ……分かった…………」
「私は常に監視しております。くれぐれも軽はずみな行動は慎むようお願いいたします」
……私はこれ以上、何もできない…………私は全てを諦めて、うなだれるように自室に戻った。
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