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「ね、今言ったこと、なに?」
「だ・か・ら、やり直した……が」
「違う、そこじゃないっ。
俊が恵子に嫌々呼び出されたってところ。
何勝手に捏造してんのよ。
それに、独立して奈々子を連れてゆくゆくはこの家を出ていくって言った時に、
当分この家にいればいいって言ったのはお母さんでしょ。
今頃になって追い出しにかかるなんて酷いじゃない。
そんなこと言うならお母さんがヨボヨボになった時、面倒なんてみないからね」
「んまぁ~、なんてことを、この子は……。
分かった分かったから、落ち着きなさい桃。
変ったわね、桃」
「誰でも変わるわよ、自分を守る為ならね。
今後、私に何か言う時はよく考えて言葉にしたほうがいいわよ。
私が鬼にも蛇にでもなれるのを知っているでしょうに。馬鹿なの?」
母親から今回家に帰ったほうがいいのでは? と忠告されるまでは
大人しくしていた桃だが、まるで忠告を装った実家からの追い出しだと
思った桃はこれまで内包していた激しい自分で対抗した。
あの日、どれほどの気持ちであのような行動に出たのかを母親はちっとも
理解してなかったことを再認識し、桃の中で母親に対する愛情のゲージは
ほとんどなくなった。
後少しでゼロになりそうなところまできているのだ。
物言いも激しくなるというもの。
「桃、違うのよ、違うったら。
そんなに感情的にならず話を聞いて」
「今更なにを……」
「ずっとね、話す機会があればって思ってたんだけど。
桃の様子を見てたらなかなか言い出せなくて、だけどこんなに
ボロクソ言われて決心がついた。
だから今話しとく」
「……」
戦闘モードをなかなか解除しない娘を前に、康江は今まで口にしなかった
というより、その機会のなかった真実を語る決心をした。