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先に入浴を済ませた桃は、あの後俊がどうしているのか確かめる気持ちには
なれず、そのまま直接寝室へ入り、すぐにベッドへと潜り込んだ。
しばらくすると物音が聞こえてきたので俊もお風呂に入るのだなと
うつらうつらした状態でそう思い……そのまま寝入ってしまった。
気がつくと朝だった。
横を向くと俊の顔が見えた。
骨格とすっと整った高い鼻は男性らしい造形をしているのに、キレイな肌の
せいなのか、全体に甘めに見える容姿のせいなのか、目を閉じている寝顔は
美しかった。
この顔で号泣していたなんて……。
見たかったような……とも思うが、きっと見なくてよかったのだ、と桃は
思った。
こんな造形の美しい顔を苦しませ歪ませているのが自分だなんて
思いたくはなかったから。
もしも、見てしまったら自分の中で何かが別の形で崩壊してしまいそうだ。
あまりに自分の心の奥深く、そう、魂が揺さぶられ更に苦しみを背負わされ
そうで怖かったのだと思う。
持て余す感情なんていらない。
夫の俊の号泣するところに遭遇してしまった桃の精神状態は少し不安定に
なっていた。
対して俊はというと、号泣した翌日からこれまでと変わりなく通常運転に
見えた。少なくとも桃からはそのように見えたのだ。
妻の桃からそんな風に見られていた当の本人はというと、結構大泣きして
自分の気持ちを吐き出したことで多少すっきりしていた。
……とは言え内々では、どうしても桃に裸婦モデルを辞めてもらいたくて、
どうにかならないものだろうかということを模索し悶々としていたのだった。