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軽くキス、少しずつ深まるキス、しびれるようなキスへと続き、
先に冷静になったのは植木のほうだった。
いや、そう思ったのは植木だけで桃のほうはもしかすると
最初から冷静だったのかもしれない。
深く甘い、お互いに下半身が痺れるようなキスだった。
桃は内心で誘惑のし甲斐があるっていうもんだわ、などと思った。
「どういうつもりだ、俺を誘惑して……」
今まで植木は桃に対して俺という言葉を使ったことはなく……キスひとつで
距離が縮まったということだろうか。
「ふふっ、分かった? でも手相を見るっていうのも本当なんだけどな」
そう言いながら桃は艶めかしい雰囲気を醸し出しつつ平然と、手相という
少しは興味を引くワードであるとはいえ、在り来たりな話題を取り入れながら
植木を挑発する。
「桃ちゃんの言動って試し入ってるだろ?
駄目だよ、ここまでだ桃ちゃん。
俺はこれ以上先へは行かないよ。
そんなヤってくれといわんばかりの着崩した姿は目の毒だ。
ほらっ、さっさとボタン嵌めて衣服整えて帰りなさい」
「植木さん私、まだ下着付けてないしぃ……。
ヤっていいわよ、やればいいじゃない」
「わぁ~、やめろ。俺はここまでが限界だ。
俺の本心言おうか。
本心は俺だって桃ちゃんとやりたいさ。
だがね、妻や子のためにそれをするわけにはいかないんだよ。
桃ちゃんとヤっちまったら俺は今まで大切にしてきた家族を失うことに
なるからね」
「ふーん、で……植木さん、踏ん張れるの?」
「踏ん張るさ。だけどこの次はどうかな?
自信ないよ。
桃ちゃんが魅力的だからね。
俺ね、奥さんと出会う前に桃ちゃんと出会っていたら付き合ってたと思う。
桃ちゃん、ここを辞めてくれないか……申し訳ないけど」
「植木さん、ハグしてくれたら私……辞めたげる」
「残念だけど、さよならだ」
そう言うと、植木は桃をそっとやさしく抱きしめた。
「植木さんってやさしい人なのね。
植木さんの奥さんは幸せ者だね。
いいなぁ~、しようがないけど植木さんをこれ以上誘惑するのは止めるわ。
今までありがと」
そう言い残して桃は教室を出ようとした。