42 ◇誘惑
42
◇誘惑
いつもなら、植木と一緒にカーテンを開ける吉田が、学生たちと一緒に
教室を出ていった後、自分も下着を付ける為に急いですぐ側にある
トイレへと向かうのだが……。
桃は昨日夫にここでの裸婦モデルの仕事がばれてしまい、別に不都合はないが
精神的に何かくるものがあったのか、いつもの精神状態ではなかったのかも
しれない。
なんとなく、植木に絡んでみたくなったのだ。
ほんとに弾みのようになんとなくで、明確な理由などなかった。
いつも冷静沈着、大学の教授然としているように見えるけれど……
女性に誘惑されたら、どういう反応をするのだろうかと桃は彼を
試してみたくなった。
はっきりとした年齢は知らないけど、確実に自分より一回りは上だろう。
40代であることはどこかで耳が拾って知っている。
今の桃は服を纏ってはいるが胸元を大きくはだけて着ている。
着用する時に意識的に胸元が見えるよう留めるボタンの数を調整していた。
近づいた桃に気付き植木が顔を上げた。
「どうした?」
「私、最近手相に凝っていて、ちょっと詳しくなったんですよ。
ふふっ、植木さん見てあげる、手……見せて」
桃の言葉に戸惑いながらも植木はもっていた右手のボールペンを左手に
持ち替えて右手を差し出した。
手相を見ながら何やら妖しげな雰囲気を醸し出す桃。
「先生、もうちょっと手をこっちに……」
そう言って手相を見るはずの植木の手を心持ち自分のほうへ引っ張る桃。
手は桃の胸元に触れ、互いに見つめ合う……。
そして、ふたりは互いに吸い寄せられるかのようにキスをする。