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✿ 桜の華 ― *艶やかに舞う* ―   作者: 設楽理沙


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30 ◇社内イベント

 

 芸大のアルバイトを始めた初秋の頃から数えて、10か月目。


 時は七夕直前のこと。



 丸一年経ったわけではないけれど、なんだかんだと人の気持ちなど

お構いなしで、年は新しい年に移っていた。


 七夕と言えば、嘗ては桃も勤務していた夫が勤める会社では、家族も含めての

社内イベントが毎年行われる。



 私も勤務していた頃から結婚一年目までは参加していた。


 その後は、妊娠出産子育てと立て続けに自分の時間など持てないような

環境が続いていたせいで参加していなかったのだが、今回は娘の奈々子が

2才を過ぎたこともあり、参加することにしたのだった。


 あの忌まわしい出来事以来、俊は何事も私に対して遠慮がちな態度で

生活している。


 ただし、離婚には頑として首を縦に振らず、遠慮してほしい夫婦生活にも

遠慮はしない。


 今回そんな俊が遠慮がちに、よかったら久しぶりに七夕の社内イベントに

奈々子も連れて参加しないか、と打診してきた。


 いつも思うけど、遠慮するとこ間違えてる~って。


 まぁでも、居直られてあまりにも過去は過去と開き直られるのも

しゃくにさわるだろうから、こんなものだと納得するしかないかぁ。


 そんなやこんな思いに囚われつつ、

『そうね、久しぶりだし行ってみようかな』


と返事した。




「今年の出し物はなぁに?」

私が夫に聞く出し物とは、食事のメニューのことだ。




「今年は特に気にいると思うよ。


 流しソーメンにケータリングで寿司や鶏のから揚げにサラダと、ほかにも

いろいろ食べやすくて美味しいものを揃えるらしいよ。


 奈々子にも食べられるものが結構あるんじゃないかな。


 お茶やオレンジジュースなんか毎年子供用というわけでもないんだろうけど、

置いてあるから」




「ふ~ん、そーめんか。

いいわね」ソーメンはつゆが命だから……つゆが美味しいといいなぁ~。


 なぜか夫の社内行事の話を聞きながら、ふと夫がどうしてこんなにも頑なに

私との離婚を拒むのか、という命題が浮かび上がる。



 世間体なのか……。

 例えば、離婚して妻と子に去られた自分という立ち位置に我慢できない……

とか? 


 再婚しない限り社内イベントではずっと独りになってしまうだろうし。

 もしそういうことが理由だとしたなら……したなら、どうする? 


 そのうち、なんとかして夫に女を(あて)がう?

 

 恵子と浮気されて怒り狂った人間と思えない逆転の発想に、自分でも

驚いちゃうわぁ~。

あははーっ。




『恵子だけは許さんっ』


 できれば恵子以外で……女性に目を向けさせればすぐに判子を押すわよ、

意思の弱い(ひと)なんだから。



 自分の精神状態がもっと安定したらその時には実行に移そうと私は本気で

考えた。


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