閑話 女神ヴィヴィエルの憂鬱2
不意に声を掛けられた。
声を掛けてきたのはキラキエル先輩と、ヨクエル先輩の業務である異世界に送る転生者を選別する仕事の前任者のラファエルさまが私の方へまっすぐに向かってきています。
キラキエル先輩は私の一つ上の先輩、ヨクエル先輩の同級生です。私と同じ……同じと言うには少し恐れ多いのですが、天界学校を主席で卒業されています。そのことでよくヨクエル先輩が突っかかっています。ヨクエル先輩は次席卒業なので、その辺りを気にしているのだと思います。
まぁ、突っかかられている本人はヨクエル先輩なりのコミュニケーションの一部だと思っていて、寧ろ喜んで受けに行っていますが……。
ヨクエル先輩も本気で妬んでいる訳じゃなく、おそらく、うん、多少はあるかもしれないけどキラキエル先輩が本気で嫌がることはしないので、ヨクエル先輩なりのコミュニケーションなんだと私も思うことにしています。
そしてもう一人、ラファエルさま。
どんな時でも冷静沈着、微笑みを崩さないお姿は天使たちが理想とする女神そのもので、みんなの憧れの対象です。また、統括補佐という偉い立場の方でもあります。
そんなお二人が私の方へ向かってくる……。
!?!!?!??!?!?
ゼレスへの転生候補者選別完了の書類を出したこのタイミングで!?
ま、まさか魔王討伐後のゼレスに転生者を送ってしまったのがバレた!?
いや、あれはヨクエル先輩と私しか知らないはず。
もももしかして、隠そうとしてたことがバレちゃったりとか!?
いやいやいや、そんなはずない!
あの空間にはヨクエル先輩と私の二人しかいなかった。転生者の方はゼレスにお送りしたから確実に二人しかいなかった! まぁ、送ってしまったからこんなにも内心ドキドキなわけでして……はは、はぁ。
きっとたまたま、そう! たまたま偶然お二人でいる時に私が通りかかったから声を掛けられただけ。そうに違いない、そうだと言って!!!
たまたま出会った時の定型分トークでこの場は切り抜けられるはず。
予期せぬことがあるとネガティブな思考になるのは私の悪い癖だ。
ネガティブな想像通りになることなんて、今まで数える程度しか起きていない。
だから今回も大丈夫。最悪な事態にはならないはず。いや、なるな!
私はお二人に焦っていることがバレないように、軽く深呼吸をして心を落ち着ける。
スー、ハー、スー、ハー……。
(ドキドキドキドキ……)
スーッ、ハーッ、スーッ、ハーッ。
(ドキドキドキドキドキドキドキドキッ)
ダメだっ。全然落ち着かないし、落ち着かなきゃって思えば思う程、逆に焦っちゃうっ。
一人で勝手に焦っている間に、お二人は直ぐ側まで近づいていました。
「やほやほぉヴィヴィちゃんー」
「お久しぶりですねヴィヴィエル。ヨクエルの補佐、励んでいると私の耳にも入ってきてますよ。苦労を掛けますがこれからも陰ながら応援しています」
「は、はいっ。ラファエルさま、キラキエル先輩お、お久しぶりです。ラファエルさまから受け継いだ業務、ラファエルさまのようにこなせるよう精進していきますっ」
「ふふ、そんなに肩肘張らなくてもいいのですよ。私と貴方は別人なのですから、貴方は貴方のやり方で業務にあたって下さい。ヴィヴィエル、私は貴方の力量を見込んであの業務を託したのですから」
「そうだよぉヴィヴィちゃん。ヴィヴィちゃんは、あーしと同じで主席合格さんだからぁ、どんな仕事でもよゆーよゆー」
「い、いえ、私なんかが……お、お二人から評価して頂けるなんて、きょ、恐縮です」
急にお二人との出会いに焦ってしまいましたが、なんとか挨拶を返すことができました。
それにお二人が私を、その、ほ、褒めて下さいました。あの多くの天使の方々から尊敬されているお二人に。
それが嬉しくて、頬が緩んでしまいます。
「そうそー。ヴィヴィちゃんは、笑ってるときの方がかわいいんだからぁ、ずっと笑顔でいるべきぃ」
う、つい頬が緩んだのを見られてしまっていたようです。恥ずかしいです。
「そうですね。女神たる物、全ての人々に祝福と導きを与えなければならないのですから、常に慈しむ心を持っていなければなりません。それには笑顔でいることも大事になってきますからね。それに私もヴィヴィエルには、笑顔の方が似合っていると思いますよ」
お二人にかわいいやら似合うやら言われ、普段言われ慣れていないのでこそばゆく感じます。ま、まぁ、悪い気はしないので、もう少しこのままでもいいかもとか考えたり考えなかっ……てはないですね、はい、嘘をつきました、すごく考えました。もう少しこのままでもいいかなと、いや、このままがいいです。偶にはこういうのもいいですね。
その後もお二人から、こそばゆい言葉を言われたり、それぞれの近況や愚痴などを語らい、緊張しつつも楽しい時間を過ごしました。
私なんかよりもお二人の方がたくさんの業務を抱えていらっしゃるので、名残惜しいですがお開きの流れになりました。
お二人と出会った時はどうなるかと思いましたが、いざお話してみるとなんてことなかったですね。
要らぬ心配でビクビクしていたなんて、ヨクエル先輩にビビリエルなんて揶揄されても仕方ありませんね。この性格は治したいのですが、記憶の中の私はずっとこんな感じなので、きっとこれからもこのままなのかもしれません。
ですが、人生何とかなるものです。
窮地に陥った時に考えるとしましょう。
なんて考えているとラファエルさまから解散の言葉がありました。
「ラファエルさま、キラキエル先輩。ありがとうございました。お話出来て嬉しかったです」
「此方こそ、楽しいひとときでした。良いリフレッシュになりました」
「ヴィヴィちゃん呼び止めちゃってごめんねぇ、久しぶりに話せて楽しかったよぉ。じゃあまた今度、いつメンで集まろー」
雑談が終わり、ぺこりと頭を下げてヨクエル先輩のもとに戻ろうとした時、
「あ、ごめぇんヴィヴィちゃん、バイバイの前に一個いいー?」
キラキエル先輩に呼び止められ、
「ヴィヴィちゃん達が担当してる仕事についてなんだけどぉ、魔王討伐後のゼレスに転生者を送ったっていうのは、ほんとぉ?」
緩んでいたはずの頬が引き攣りました。
さて、窮地に陥ってしまったので、これからの私の性格や人生について考えるとしましょうか。
……あばばばババババ━━。




