第91話:わたくしはきっと忘れないわよ、ふふ(2)
(水も滴る良い女とは、正に俺に相応しい描写だな)
ニヤリ、どや顔で、ローズが綺麗に髪を洗い終えた自分の姿を鏡越しに見て、そうほざく。
アリアは、「終わったぜ、お嬢!」とローズが合図をしたと同時に、目を開けて、鏡に映る胸から上の姿を見て、開眼一発目にそう内心で得意にほざいた後、改めて美少女過ぎる自身に自画自賛の念を募らせていった。
有頂天真っ只中、これ程の美女(アリアの個人的感想です)に敵う者なしと、自分に酔いしれていくアリアは、傍から見れば正に、見た目相応の少女のはしゃぎ様であった。
ローズは無意識に髪を手で掬い、はしゃぐアリアの姿に、美容師冥利を越えた、もう母性とでも言うのか、堪らない愛おしさが胸に溢れかえってくるのを感じていた。
だからか、狙いを定める様にアリアを背後から見つめ、次の瞬間には、がっちりと背後からハグを決めていた。
「ああ、お嬢。もうあたいの娘になるか!!」
辛抱堪らんと言葉を口から衝くと、「あああああっ!!」との背後の怨嗟の叫びじみた声をまるまる無視し、頬擦りをしていく。
背中を引っ張られる感じがするものの、そんなものは一切無視し、更に抱き締めていく、ローズ。
(シオンの奴の気持ちもわかるぜ。こんなに可愛い姿を見せてくれるんだもんな。一生離れたくないよな。ああ、もう、ここに転職でもしちまうか)
背中で何かが弛む感触でアリアが目を白黒させている中、魅了された様に胸に抱いたアリアを愛で続けていく。
そのまましばらく、背中側の引っ張られる感覚を誰だ、畜生が、と煩わしく思いながら、目一杯、娘へのハグを堪能していくのであった。
突然の嬉し、危機のローズ抱擁から解放されたアリアは、フウとセツから「ヒメちゃん(ヒメ)、本当に綺麗になったね」と妹を褒める様に言われた言葉に、それはもう鼻高々に内心ではふんぞり返り、うわべでは、はにかみながら「ありがとうございます」と答えて、シオンの腕の中にいた。
ローズから解放された直後に、掻っ攫う様にシオンからの必死の抱擁を受けたのであった。
それはもう「お嬢様、よよよよよ~」と、大変に引っ付いてくる、シオンである。
その様子に若干心が痛んだが、しかし、それとは別に、段々と自分への依存度が増してきていないかと、これも若干危惧する念を抱いたりしたアリアであった。
そんなシオンにとっては永遠の別れからの再会に等しい、アリアの胸元への帰還に非常に感極まり、ぎゅーと抱き締める中、シオンの柔らかなものに包まれることにとても安心する自分がいることにアリアは危機感を感じていた。
(段々ここが安心できる場所になってきちゃってるんですけど・・・)
人肌恋しとのホームシックの状態に陥ってしまったのか、はたまた、ママ恋しいの幼子に成りかけているのかと、怖れを抱く。
(マザコン、バンザーーイ!!なんて、なってたまるものか!!!)
懸念を振り払う様に、アリアはその腕から抜けようと藻掻いていった。
けれども、藻掻けば藻掻くほど、放したくないとばかりに、ひしと胸に抱き寄せてくるシオン。更にその上、悲しみの籠った声で「お嬢様はシオンと一緒にいるのが嫌なのですか?」と、言葉を掛けられる。
そう言われては、もうシオンの胸の中で抗うことなどできなくなってしまう。
(ま、まあ、これはいつもこのアリアをお世話してくれてる労いってことで。落ち着くのはきっと、お礼が出来てる心境から来るもんだよな)
そう納得させる言葉を自身に掛けた後、マザコン疑惑を一切合切脳裏から消し去ったのであった。
そうして心をすっきりさせると、その後はいつも以上に密着感が増したシオンに、丁重に、丁寧に、御手によって、柔肌に傷が付くといけないとのシオンの言葉(方便?)と共に、全身を洗われていくアリアである。
若干、怪しく、乱れ聞こえる吐息はきっと、一生懸命に身体を洗ってくれているからだろうと、強く信じて、正面のみを見据えていくのであった。
決して、背後が見えないように・・・・・。
髪も身体も洗い終わったアリアは、思えば遠く長かった湯船に心身ともに浸かっていた。
毎回思うが絶妙なお湯加減で、心身に深く沁み、馴染むこのお風呂。いや最早、温泉。
はぁ~と、思わず極楽の吐息も零れてしまう。
湯船に浸かりながら見える景色は、フウとセツは非常に丁寧に髪を流していくローズの職人としての姿。その他一同の扱いをされる女性使用人達の、ぞんざいと迄は行かずとも、流れ作業に見える多少丁寧なローズ美容師による、洗髪。それに、女性使用人達が差別だと抗議するが、子供は特別だと突っぱねる、ローズ姐さん。
その対比に、まあこれだけ人数がいるのだから致し方ないかと思うと同時に、その中でも綺麗に髪を洗ってくれたローズに心からの感謝を送るのであった。
その後、髪と身体を洗い終えたフウとセツが傍で湯船に浸かっているのを横目にちらり見た後、手足を伸ばそうにも伸ばせない今の状態に、ため息と同時にモヤっとした気持ちを顔に浮かべていった。
アリアは静かに窺う様に後ろへと視線を向ける。すると、ここ数日の間で一番の笑顔を咲かせているシオンが、肩越しに見えた。
アリアはそっと顔を正面に戻すと、続いて視線を下に向けていった。
そこに見えたのは、まだ希望の芽が潰えてはいない、きっと成長著しいお胸様越しに自身のお腹に回された腕である。がっちりとホールドされた腕によって身体を引き寄せられている為、自然背中にはそれはもう立派に実る極上の果実が柔らかく当たっている。
身動きするたびに一点物の最高級クッションの様に動きに合わせて、形を変えてアリアをフワフワに受け止めてくれる。
そんな感触にいつもなら、たとえ慣れようとも心は沸き立つものである。けれども、今日の健診での悲しき身体の成長度合いのせいで、虚しさが先に来てしまうのであった。
愁い籠る嘆息をすると、視線が下がり、健気にも懸命に芽吹き始めたお胸様がアリアの目に入った。
毎度ながら、ついつい悲愴的な思考がアリアの脳裏に浮かんでしまう。
(このまま・・・、なのか・・・)
努力が実らなかった前の男の時の記憶も相俟って、弱気が内で零れ落ちる。
発芽してもそのまま枯れてしまう場合がある自然界の厳しさ。その厳しさに立ち向かえずに、このまま極貧で終えるしかないのかと、悲嘆に暮れかけようとした時、ふとどこからか声が聞こえた気がしたのだ。
アリアは誘われるように、縋りたくなるようにも、視線をゆっくりと胸元へと向けていった。すると、着くと同時に、そこから声を聞いた気がした。
『悲観するのはまだ早い。俺達を信じてくれ。希望は俺達とお前で本物にすればいいんだ』
そう鼓舞された気がした。
一時、悲観し悲嘆に暮れかけようとしていたアリアにその声は心強かった。懸命に足掻くのは、自分一人ではないと、気付かされたのであった。胸もまた、厳しい自然界に足掻いているんだと分かった、アリア。
それで、瞳が生き返った。力強く、抗おうとする堅牢な意志がその瞳の奥に浮かび上がってくる。
(最初から諦めてたんじゃ、なるようになるものも、ならずに終わっちまうよな)
今まで弱々しく結ばれていた口元に、ようやく不敵な笑みが出来上がった。
(よし!明日からは、胸の成長によさそうなミルクをジョッキで飲み干してやるからな!!)
腹を壊しそうな迷決意を堅固にすると、大浴場内を見渡して、絶対実現できる希望を確と目に焼き付けていった。
(美少女転生したんなら、巨乳美少女を目指さんでどうするよ、俺!!)
Victory目指して、猪突猛進することを心に誓う、アリアであった。
だが一方、周りはそんなアリアの様子に、微笑ましさと同時に抗い難い母性を刺激されていたのであった。フウとセツは妹を想う姉妹愛を更に募らせていた。
皆、心を同じにして1つの信念を心に堅く結んだ。
(お嬢様、ヒメちゃん、ヒメ、何があっても最後まで、知らないふりで、手伝うからね)
と、心の中で気遣い満載の宣言をするのであった。
ただここには1つ、残念なことがあったりしたのだった。それは、アリアを抱き締めているシオンには、そんな悶絶必須のいじらしい決意姿のアリアを見ることが出来なかったことだ。故に、自分以外の皆が一体感を強めていることに、気付けず周りのおかしな空気にただ首を傾げるのみであった。
なおローズは、そんなシオンにいつもながら残念そうな視線を向けていくだけであった。
ザバァ~。
お湯を鳴らし湯船から上がる、アリア。
ぴちゃっと床に足をつくと、身体の表面を雫が流れ落ちていく。
お湯と一緒に湯船でかいた汗も皮膚の上を伝い、腕、脚と流れていき、足元に滑り落ちていった。
「ふぅ~」
上気した頬のアリアは額の汗を拭い、着替えの為に脱衣所に向けて歩き出す。と、そんなアリアをシオンが丁寧に捕まえ、行き先を洗い場へと変更する。
そして洗い場で、お風呂で掻いた汗を軽く流すと、ようやく大浴場の出入り口へと向かい、脱衣所へと上がっていった。
いつも通りシオンの案内で湯上りの着替えがある棚に着くと、アリアが自身でバスタオルを使い身体を拭く前に、丁寧に折り畳まれて用意されていたふわり心地のタオルをすっとシオンが早業で取り、アリアの身体から雫を拭っていった。
妙に嬉しそうに微笑むシオンに身体を拭かれていくアリアは、その様子にはてと小首を傾げる。
けれども、訝しげはするものの全身を拭かれ終わったアリアは、次は着替えだと、用意されている肌着に手を伸ばしていく。
だがしかし、ここでもまたシオンがすっと先に着替えを手に取り、恭しく足元でショーツを開き、アリアを待つ。
俺、そこまで子供じゃないんだけどと、内心でぼやきつつも傅き待つシオンを余り待たせるのも悪いと思い、片足ずつシオンが持つショーツに足を通していった。
ショーツを上げ終わり、続いて、アリアになってからお世話になっているキャミソールを着ようとアリアがした所、またも、アリアが取るよりも先にシオンがすっと静かに手に取った。
そして、今度も子供の着替えの様に、バンザイからシオンに着させてもらった後、ふと違和感を覚えた。
そこで、ここまでの不思議な程、恭しく尽くしてくれるシオンの思惑にアリアはやっと感づいたのであった。またこの時、お風呂の時にシオンが言っていたプレゼントの正体にもはっきりと気付いたのだった。
胸の所が妙にかさばる感じがする。
見ると、いつものキャミソールよりも厚みがあるのが見て取れた。
恐る恐る手で触れてみる。と、ふわりと内側を優しく包み込んでいる感触が返ってきた。
アリアは不安げにシオンを見上げる。
それと同時に、いつもとは違うものについても、訊ねていく。
しかし、内心では、本心では、これが何なのかには感づいている。
でもやっぱり、心の準備も無しに着るものが変わるのは、何かと不安を覚えるアリアなのである。
だからこそ、まだ、ブラジャーではないが、ここから女性としての成長が始まることを示唆する、このキャミソールに抵抗感を覚えるし、俺という人格が成長により次第に薄まってしまう可能性に些かながらも恐怖を感じでしまうのであった。
シオンはその見上げてくる視線と無自覚なのだろう、キャミソールの裾を握り締めているアリアの姿に、微笑ましさを覚えると同時に大切な義務をその胸に抱いたのである。
女性用被服店で購入時に店員さんから聞いたもしも不安を抱いた時の説明とあの時お店にやって来た女の子の様子を思い返すと、柔らかに微笑みながら、しっかりとした口調で、目の前にいる自分達がご当主から任せられている、小さな主に声を掛けていった。
「・・アリアお嬢様」
神妙な顔つきで諭すようにそう呼び掛ける、シオン。
ぴくりっと、その声に反応したアリアと視線がしっかりと合わさる。
そこで一旦、シオンは間を置く。
そして、数秒経過した後に、アリアの落ち着きを待ってから、続く言葉を躊躇いなく口にしていった。
「慣れちゃいましょう!!」
場違いな程明るく、爽やかに言ってのけたのだった。
「はっ?」
素っ頓狂な声が、間を置かずに良い笑顔でサムズアップを決めるシオンに向けられた。
「違和感の解消は慣れですよ、慣れ、アリアお嬢様。シオンもこうして今では何も違和感なく、ブラジャーだって付けていますからね」
そう言うなり、身体に巻いたバスタオルの上から実に重量感たっぷりな双丘を両手で持ち上げてみせる、シオン。
瞬間、アリアは無機質な表情でそれを見るなり、ちらりとシオンの替えの下着を見やる。
カップ数などブラジャーのサイズに関する知識は皆無なアリアだが、見るだけで分かる大きな得物が堂々と畳まれ、メイド服の上に鎮座していた。
「だから、大切なのは普通に感じられるまでの気持ちです」
と諭し、根性論を堂々と説く脳筋メイドのシオンの説得の結びであった。
しかし、そう得意気に語り終わるなり、どこからか、「おほんっ!!」と妙に響きの良い咳払いが聞こえた気がした。
それは脳筋メイドこと、シオンにも聞こえたようなので気のせいではなかったようだ。しかし、びくりっと全身を瞬時に震わせ硬直させると、驚愕に染まった表情のまま、どこかへと青い顔を向けた、シオン。そして、1秒ほど何かを凝視し固まると、急に取り繕った様に表情を改めたシオンが、結び改め前置きの次を語り出しだのであった。
「アリアお嬢様、そのキャミソールはお嬢様がお姉さんになった証です。何も怖がることはございませんよ、自身が変わってしまうではなく、自らが変わろうと努力した末に得た立派なお姉さんへの成長の証なのです。シオン、それにここにいる皆だって、だれもが経験してきた階段なのです。私達は何も変わってなどいません。ですから、不安よりも喜んで上げで下さい、アリアお嬢様」
そう今度こそ話を結ぶと、シオンは柔らかな笑みと共にアリアを包み込んだ。
実にいい雰囲気になったとシオンは内心で安堵した。これで、身の安全は保障されたと。
けれども、包まれているアリアの顔には確かに客観的には微笑みが浮かんでいる。だが、それは文章で言う無味乾燥で、凍えるような微笑みであった。
「うん、ありがとうシオン」
だからか、返された言葉にも潤いは皆無であった。
「!!お嬢様~」
感激の表情で更にアリアを胸に包み込んだ、シオン。
雲上の果てにある極上の胸に抱かれた小さきアリアの心中にはもう、今までの自分と変わってしまう恐れや不安は微塵もなく、ただ名状しがたい、なんと表現したら良いか一切不明な、感情のみが湧き残っていたのであった。
(わたくしはきっと忘れないわよ、ふふ)
上記で述べた説明と内心の呟きから推察し導き出すと、屈辱と言える感情がアリアの心を支配していた。
(早くダイナマイト級のブラが付けられるまで成長しないさい!わたくしのお胸ちゃん。ふふふ)
薄ら暗い笑みを零し終えると、眼前を覆う超えるべき巨壁のシオン‘sバストを見据え、チラリと横目でおっきなカップのブラを見て、アリアは闘志を静かに燃やしていくのだった。
こうして、雪辱を誓い胸元が柔らかなキャミソールを受け入れたアリアであったが、ここまでの不安から嫉妬までの見事なアリアの感情の遷移を成し遂げたシオンの行動は、煽りから恐怖の咳払いまでを入れた深い計略によるものか、あるいはシオンの能天気そのものなのか。
それは、またも鬱陶しそうにローズから細々と手順を口出しされている、アリアの髪のドライヤー掛け中のシオンのみぞ知ることであるのだった。




