第65話:あら?タスキさん、それは宣戦布告ですか?
謎の昂りからすっかり冷めたアリアは、先程の自身の発言を反省していた。
(折角シオン達が俺の為に作ってくれた衣装を簡単にあげるなんて言って失礼だよな。それにタスキにこれを無理に着せるのなんて、前のアリアと同じ行為だよ。最低だ、俺は。冷静さを欠いてしまった俺の反省すべき点だ)
そう心の中で猛省をしたアリアがシオン達に心から謝罪し慌てさていた時、明らかにやつれた姿のタスキが、シオンの命を受けて飛び出していった侍女達によって連行されてきた。
タスキは虚ろな目でどこか遠くを望みながら、「男2人と寝床を共にするのは堪えるな、ははは」と漏らし、乾いた笑いを零していた。
その異常な姿にアリアはタスキに何があったのか心配になり、隣のシオンを見上げた。
「タスキはどうしたのですか?」
「えっと、ですね・・・」
アリアに訊かれたシオンは一瞬口籠ると、ジェームズ達に聞いた野盗のもしもの暗殺などに警戒しての対処で、一晩中野盗と共に牢に入っていたとは言えず、内容をぼかしながらアリアに答えようと決めた。
(まぁ、ジェームズ達の口振りから本当か疑わしいですが、それでも、野盗の存在をお嬢様が知る必要はありませんから、無難に答えていきましょうか)
「お嬢様、タスキは朝まで当直の任務に就いていました。人気が消える夜はお屋敷の警戒も薄まり、夜盗などがお屋敷に盗みに入る恐れがあります。そのため、シフト制で日替わりに数人が当直に就くようになっているのです。そして、昨夜がタスキの番で、当直の合間の仮眠で、男性用仮眠室で何人かと共に仮眠をしたのが堪えたのでしょうね。朝起きたら、抱き合っていたとかあったんじゃないですかね」
そうシオンが語ってくれた事をアリアは聞き、最後の部分がやけに実感の籠った物言いに感じられた。
けれども、その部分には特に触れずに、アリアは無難にシオンに頷いた。
「そうだったのですね」
アリアはそうシオンに答えた後、そんな恐ろしい目覚めにあったタスキに思わず憐憫の情を催していた。
(大変だったんだな、タスキ)
昨日は突然の駆り出しに、当直での警戒。更に、シオンの言葉を信じれば、信じられない最悪の目覚め。
そんなタスキの余りの酷さに比べ自分は、と視線を脚に落とした。
(こんなブルマぐらいで狼狽えるなんて俺はダメだな)
アリアは脚から、今もあまり生気の感じられないタスキに顔を向けた。
(ここまで頑張ったご褒美に、このブルマの恨みも忘れて、超絶美少女のこのアリアちゃんが慰めてあげるか)
そう決めると、アリアはしょんぼりと項垂れて独り言をつぶやき続けるタスキの下に向かって歩いていった。
タスキの前に着くと、少しでも元気になるようにと、笑顔を湛えて項垂れるタスキの顔を下から覗き込むようにして声を掛けた。
「タスキ、お疲れ様。わたくしが頑張ったタスキを労いに来てあげました。顔を上げて下さい」
頬を流れる白銀の髪と共に明るく元気が出るアリアの声を聞いたタスキが、緩慢な動きで顔を上げていった。
「お嬢様、その様に僕に気を掛けて下さりありがとうござい・・・!?」
ますの言葉が出て来なかった。
項垂れていた顔を地面から上げている最中に見えたアリアの美しい太ももの、上、濃紺に染まる眩いブルマに目を奪われたのだ。
タスキは呆然と目を見張り、そのブルマを凝視した。
暫くタスキは凝視し続け、アリアが途中で動きを止めたタスキに心配して声を掛けようとした瞬間、急に顔を上げてアリアを正面から見つめた。
タスキは感極まったかのように、震える声でアリアの名を声高に呼んだ。
「アリアお嬢様!」
突然動き出し、そして、高い声で名を呼ばれたアリアはビックリし、一拍遅れて恐る恐る応えた。
「・・・はい。タスキどうしました?」
アリアの綺麗なオッドアイが自身に向けられた瞬間、涙が溢れ出した。
(この為の試練だったのですね、女神様)
心の中でそう零すと、昨日からの地獄が脳裏に再生されていった。
屋敷の地下牢に野盗2人と共に閉じ込められた昨夜。そこからずっと、異常なほどに怯える野盗に両側から抱き締められる地獄。それは眠る時も離してもらえず、最悪の両手に汚い花状態で、床に就き、一睡もできずに迎えた朝。更に、タスキを呼びに来た同僚の女性に、ドン引きされて、何故か向けられた冷ややかな眼差し。地獄から抜け出す時にも、野盗が必死の形相でしがみついて来て、「モテモテですね」と身に覚えのない軽蔑の籠った眼差しと同僚の容赦のない言葉を向けられる始末。
この世の責苦を一身受けたような気持ちになり、ほとほと参っていた。
そこにこの天使の光臨である。
感極まらずにはいられなかった。
一気に天国まで駆け上がったタスキは、身体を震わせ感涙にむせび泣いた。
「あり、がとう、ござい、ます、ア、リア、お嬢様」
先程言えなかった感謝を先程以上に心を込めて、声を震わせしゃくり上げながら伝えた。
アリアはギョッとし、本当に大丈夫かとタスキを心の底から心配した。
(オイオイ、大丈夫か、こいつ。俺みたいに仕事に生活を支配されていないだろうな。情緒不安定にも程があるだろ。一度病んだ心はそう簡単に治らないぞ。俺は転職で何とか抜け出せたけど、この世界ではそうはいかないよな)
転職という概念が怪しいこの異世界で、病んだまま廃人になってしまうんじゃないかと、タスキを危惧するアリア。
(・・・仕方ない。さっきも思ったが、ここは俺が、タスキが楽になれるように癒してやるか)
タスキの様子に過去のブラック勤めで、何もかもが嫌になり、仕事を放り出して行った温泉での癒しを思い出した。
そして、あの時に感じた心から洗われる様な癒しをタスキに授けようとアリアは考えた。
タスキにはっきりとした声音で声を掛ける。
「タスキ、辛かったのですか?」
アリアの声が届いたタスキが素直に頷いた。
「はい、あの地獄は堪えました」
その声を聞いたアリアは、一瞬表情を苦しそうに歪ませると、すぐにその表情を慈しみ溢れる天使の笑みに変えて、タスキに囁くような柔和な声で言葉を掛ける。
「頑張ったタスキにわたくしが、ご褒美を上げます。頭を下げてもらえますか」
先程、変態的にブルマを凝視されたことも、ブルマ姿にされた怨も許してあげようと、タスキを優しく微笑んで待った。
アリアの声に反応したタスキが、言われた通りに敬うように首を垂れた。
それを確認したアリアは、にこやかに綻ぶと、「えい!」と快活な掛け声と共に、自身に向かって差し出された頭を胸に抱き寄せた。
タスキの鼻孔に、爽やかな朝日の様な香りが漂ってきた。
アリアは胸に抱くタスキの頭を優しく撫でながら、語り掛ける。
「タスキ、よく頑張りましたね」
「あ、あの、お嬢様」
戸惑い、タスキがアリアに声を返した。
「うふふ。いいのですよ。わたくしが自分で行った事です。タスキは何も気にする必要はありませんよ」
気にする必要はないと声を掛けるアリアであったが、タスキは抱擁に戸惑ったのではなく、その結果の得も言われぬ感触に戸惑ったのである。幾ら著しい成長の遅れが見られるアリアの胸であっても、それ相応の男性とは違う柔らかさが確かに存在した。その柔らかな感触が抱き抱えられた顔に、直接感じられたのだ。
「あ、あの。お嬢様、僕はもう本当に大丈夫ですから、そろそろ離してもらっても大丈夫です」
なので、タスキは早めにアリアに抱擁を止めるように頼んだが・・・。
「もう少しわたくしのふくよかな!!胸で嫌な事は忘れてしまいましょう!」
と、一部を特に強調して聞かせ、離してはくれなかった。
タスキは、このままではある界隈の嗜好を持った紳士へと昇華しかねないと慌て、更に一度発症すると治療が非常に困難な小さき者を慈しみ愛でる特殊な病に罹患する恐れもひしひしと感じ、必死でアリアに抵抗を試みていった。
「お嬢様!僕は十分に癒されました。ですので、もう離してもらっても結構です」
再度、アリアに願い出る、タスキ。が。
「いや、わたくしのマリアナ海溝よりもなお深き慈愛を全てタスキに捧げ切れていません。なので、もうしばらくこのままでいなさい」
アリアが頑なにタスキの懇願を拒否する。
更に、力が加わり、タスキが慌て出す。
あわあわと慌てるタスキにアリアは段々と楽しくなってきた。
そして、当初の目的であった、タスキへの労いはすでに頭にはほぼなかった。
アリアは、今はそれよりもタスキの慌て様に何とも言えない愉悦を感じていた。
(俺がちょっと顔を抱き締めただけでこうも慌てるとは、初心だなタスキちゃん。面白いからもう少し揶揄ってやろうかな)
悪女の如き意地悪い笑みを内心で浮かべながら、困惑顔のタスキを更に抱き締めていった。
アリアは最後までタスキが女性に抱き締められて慌てている初心な青年だと勘違いしたままであった。その為、タスキが慌てる真の理由が無い無いと貶され続けてきた自身の胸の感触である事には一切気づけなかった。
タスキを揶揄う遊びに満足したアリアは、やっとタスキを両腕から解放した。
顔を満ち足りた笑みに変えて、タスキの前に立ち声を掛けた。
「どうですか。随分と嫌な事も忘れられましたか?」
満足したアリアは当初の目的を思い出し、今までの事を誤魔化す様に気遣いの言葉をタスキに掛けた。
しかし、表情にはニヤニヤと楽しげな笑みが残ったままである。
タスキはそんなアリアの様子と失言よりも未だに残るアリアの胸の感触に、危うく禁忌の扉を開きかけていた。
(小さいモノも良いモノだな)
悟りを得た者の様な穏やかな表情で、明鏡止水の如く凪ぐ心境のタスキは、目の前の極楽浄土を余韻の残るまま、瞳に収めた。傍からは、アリアの胸を凝視する変質者である。
(・・・・・!?ぼ、僕は一体何を!)
幸いにも内心だけに零された禁断の果実への迷言であった。
それに気づいたタスキは片足以上、下手すると両足を、ある意味での紳士の沼に嵌まりかけていた自身に愕然とした。
(違う違う、僕は至って普通の熟女が好きなはず。正反対のロリコンに目覚めるはずがない)
懸命に歪みそうになる性癖をまっすぐに正すと、もう大丈夫だと自信を持ってアリアの全身を視界に収めた。
しかし、真っすぐに矯正できたと思っていた自信が呆気なく、禁断の果実に視覚として吸い寄せられていった。
自然に寄せられたアリアの胸への視線に、タスキは直ぐに気付き、慌てて視線をアリアの顔に上げた。
アリアの不思議そうに傾げられた小首姿が目に映った。
そして、ここでようやく、罹患しかかっている少女への愛を説く病に対する自分の認識の甘さを痛感した。
これからは有る無しにかかわらず、最大限の緊張感を持って女性には接しようと心に決めて、禁忌の扉に二重三重に鎖を掛け最後に厳つい南京錠で完全にロックした。
これで本当にもう大丈夫だと安心したタスキであったが、また突如再発するといけないと、自身の夢である濃紺眩しいブルマへと意識を集中していった。
そして、タスキは気を紛らわすために、アリアへと先程の問いかけと今の完璧な姿に対する称賛を語った。
「はい、お嬢様。実に清々しい気分に戻ることが出来ました。これもお嬢様のマリアナ海溝の最深部、チャレンジャー海淵よりも深き慈愛によるものです。それと、その色白の脚に映える尊き紺色のブルマのおかげでもあります。心よりの感謝をここに表したいと思います。アリアお嬢様、僕に御心を注いで下さり誠にありがとうございました」
そうアリアと同じ失言交じりの感謝を語り終えると、自然な流れで上に向かいそうになる視線を濃紺美しいブルマに固定しつつ、深々と頭を下げた。
アリアは若干身体を視線から庇う様に捩りながらも、ブルマぐらいで元気になる単純なタスキに、微苦笑が零れていた。
なので、特に変態に何も気付かず、そして、言わず頷きだけを返した。
そうして、深々と頭を下げていたタスキは、再び頭を上げながら、途中やはり、いつか見てみたいと夢見ていたブルマを一瞬注視してから顔を上げ切った。
しかし、上げ切ったはいいが、視線がアリアの胸元に思わず下がりそうになった。
タスキは未だ甘美な魅力に引かれそうになる弱志に渇を入れて、下がりそうになった視線でアリアの顔を正面に見据えると、ここではっきりと禁断の果実との縁を切ろうと決別の意思をアリアに向けて放った。その余計な一言を。
「お嬢様、僕は大きい方が好みのようです!決して、小さい方に好みは傾きません!!」
堂々と、恥じることなく自身の硬い決別の意思を小さきモノに愛されて止まないアリアにはっきりと表明して退けた、漢、タスキ。
その途端、アリアが最高の笑みを見事に咲かせた。
「あら。あらあら。ふふふ。実に面白い事を面と向かって言いやがるのですね!!」
そう笑顔のままタスキに語ると、今までアリアの背後で静かに見守ってくれていた、シオン始め、侍女一同とローズに振り返った。
「皆様、わたくし、どうも、タスキに愛されて止まないらしいです。そんなタスキが大好きな小さいお胸のわたくしが直々に、変態さんの大好きな夢の逸品を贈ろうと思います。シオン、確か先程お願いしたわたくしの運動着は、手元にありますか?」
アリアのニコニコ笑顔を向けられたシオンは、「はい、こちらに」と恭しく答えた。
そして、慇懃に首を垂れるといつの間にか取りに行っていた、新品の濃紺に染まる至高の逸品を徐に懐から取り出した。
今のアリアの表情を見るのは畏れ多いと顔を下げたまま、シオンがアリアに向けて、濃紺の逸品ことブルマを捧げた。
アリアは恭しくシオンに差し出されたブルマを確認すると、アリアの表情を見るのは畏れ多いとして顔を下げているシオンに粛々と訊ねた。
「シオン、折角わたくしの為に仕立ててくれたこの運動着、えっと名前は確か、そうだ、ブルマでしたね。このブルマを一着、今使用しても宜しいでしょうか?」
「いえ、全く問題ありません。全てはアリアお嬢様の意に沿うのが我ら、従者の務め。些かも気に掛ける必要はございません」
そう答えて、やっとアリアの表情を見るのは畏れ多いと下げていた顔をシオンは上げた。
シオンの顔を正面に見つめると、口が頬まで裂けてしまうのではと思わせる程、深く深く口元を三日月に変えて、お願いを口にした。
「では、あちらの変態さんをわたくしと同じ格好に美しく、まるで可憐な少女の様に慎ましく飾って差し上げてくれませんか」
そうシオンに頼んだアリアは、ニコッと笑みを形作るとタスキに振り返った。
「さぁ、タスキ、大好物のブルマですよ。タスキの大好きな胸の小さいわたくしからのプレゼントです。ぜひ思う存分、ご自身で楽しまれて下さい。それと、拒否は一切受け付けませんので、どうぞ悪しからずに」
最後にタスキに微笑んで背後を振り返った。
そこにいる臨戦態勢の侍女達に声高高に柔らかく、そして、鋭く命じた。
「さぁ、皆さん獲物はあちらですよ。決して!!逃がさぬように捕らえて下さい!」
アリアは再び振り返ると鋭く細められた双眸で、既に逃げだしたタスキの背中を見据え、可笑しそうに笑いながら声を発した。
「ウォーミングアップがまだですよ、タスキ」
アリアの命を受けた侍女達が「はい、アリアお嬢様!」と答え、一斉に猛禽類の如く眼光鋭く獲物を見定め、逃すまいと飛び出していった。
タスキはアリアの笑顔が凄みを増した時点で、自分の失言に気付き危機的状況からの離脱を試みていた。
ハンター達に捕まるまいと逃げるタスキに、容赦なきハンター達が迫り、「てめぇ、さっきからどんな目でお嬢を見てんだ、このロリコン野郎が!」と誰よりも先にタスキに追い付いたローズが罵倒し、そして、飛び掛かった。
その後、ローズはタスキを担いで戻ってくると、シオンから濃紺色のブルマを受け取り、この場にいた侍女たちと共に、お屋敷へと向かって行った。それから五分少々経つと、1人のブルマが良く似合う、短い髪を両サイドで結んだ立派な娘がローズ達と戻ってきた。
派手過ぎないナチュラルな、素材を生かした化粧を施された顔には、ぎこちない笑みが浮かんでいた。




