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第53話:暇(いとま)

 前方で馬車の行く手を阻むように並び立つ野盗の前にシオンが立った。

 ヴァダンの報告通りの15人が一斉にシオンの方を向く。


 「あぁん!メイド1人をやるからお目こぼしくださいってか!随分けちな貴族様だな、オイ!!」


 シオンを怯ませようと、野盗の1人が大声でがなり立てる。


 「・・・」


 しかし、それにシオンは何の反応も示さず、落ち着いた様子で野盗達を観察する。

 そのシオンの反応を怯えて声も出せないと取った野盗の1人が、シオンを見下して調子に乗った雰囲気で声を掛けた。


 「おい、哀れなメイドさんよ。お前の乗ってきた馬車には、後何人ぐらい乗ってんだ?」


 「見習いメイドの3人と御者が1名ですかね」


 シオンが普通に答える。

 そして、先程から1人でうるさく話す男に不思議そうに首を傾げて訊ねる。


 「どうして人数を尋ねたのですか?」


 「あ゛あ゛!んなもん決まってるだろ!今夜のお楽しみの為に女の数を聞いとくんだよ!喧嘩しねぇようにな!げっひゃひゃひゃ!!」


  下品で醜い笑いを零して、シオンを見つめる。


  「ああ、なるほど、バカなりに考えがあったんですね。素晴らしいです!お利口さんですね!」


 心底感心した様子で、シオンが微笑んで何度も頷く。

 それに野盗が激怒する。


 「てめぇ!バカにしてんのか!!」


 「今は、バカにはしていませんよ。お利口なお猿さんだなと感心しているだけです。ほんとに賢くなりましたね、最近のお猿さんは!!ぷふふ」


 言っていて可笑しくなったシオンが堪らず笑いを零した。


 「ふざけんなよ!!お前、ここでヤってやろうか!!」


 顔を真っ赤にして怒鳴る野盗が、怒りのままシオンに向かおうとした。

 しかし、それをすぐに咎める声がその野盗に掛けられた。


 「待て!あのバカメイドを今ヤっちまったら、壊れて聞くことが出来なくなっちまう。お前は一旦頭を冷やせ」


 貧相な装備を付けた先程の男とは違う、ある程度ましな装備を身に着けたそれなりの体格の男が憤る仲間を宥めてから、野盗達の前に出てきた。


 「あなたがこの野盗のリーダーですか?」


 シオンが一応、そのましな格好の男に訊ねた。


 「そうだ。俺がリーダーだ」


 シオンにそう答えた。


 「分かりました。では、気を付けますね」


 シオンがにっこりと笑い、野盗のリーダーをしっかりと見据えた。

 先程の野盗と同じく沸点が低いのか、シオンが笑った事に野盗のリーダーが腹を立てた。そして、怒れるままに、シオンに怒鳴り声を浴びせた。


 「あ゛ぁ゛!何が気を付けるだ、女!!」


 「うん?とにかく気を付けるだけですよ。意味なんてあなたにはないですよ」


 シオンがそう返し、不思議そうに首を傾げた。

 野盗のリーダーは、シオンの答えを聞くと、諦めたように呟いた。


 「ああ、もういい!話が通じん奴に訊くだけ無駄だ!」


 憤るのが馬鹿らしくなり、話の通じないシオンに、はぁ~とため息を吐いた。

 それで頭が冷えると、野盗のリーダーがシオンを見つめて口を開いた。


 「お前の主はどんな奴だ?」


 先程聞きそびれた、本来の質問を口にした。


 「私の主ですか?う~ん、そうですね・・・」


 野盗のリーダーの問い掛けにシオンがどう答えようか悩んだ。


 (チェイサー家に仕えているので、本来であればご当主様の名を告げることが正しいのでしょうが、私はお嬢様付の従者なのでここはお嬢様の名を告げるのが正解ですかね)


 頭の中で考えて答えを出すと、野盗のリーダーに顔を向け、シオンが誇らしそうに胸を反らしてはっきりと答えた。


 「私の主は、アリアお嬢様です!!ふんっ!!」


 言い終わると、どうだと言わんばかりに鼻を鳴らした。


 「・・・、そうか」


 シオンの仕草にいちいち反応するのが馬鹿らしくなり、一切無視して野盗のリーダーが短く答えた。

 それから、野盗のリーダーがまたシオンに訊ねた。


 「お前の屋敷での肩書は何だ?」


 「お嬢様付の従者を任せて頂いております。それとついでに、一応はメイド長もしていますよ」


 「お嬢様はどんな感じだ?」


 「アリアお嬢様ですか?うふふ。聞きたいのですか!?良いですよ!たっぷり聞かせてあげますよ!」


 そう答えると、シオンが嬉々とした表情で、アクセルをベタ踏みしていった。


 「アリアお嬢様、それはそれは大層可愛らしい御方!もう目に入れても痛くないとは、アリアお嬢様を指すにふさわしいお言葉です!ちょっと前までは、暗く沈んだ雰囲気でしたが、今のお嬢様はもう大変にいたいたしいくらいの笑みを浮かべ明るくなりました!私達全ての者を慈しむ心御優しいお嬢様ですよ!今も、そして昔も。それとですね!やっと年相応に可愛くなられたのも私は大好きなところですね!あとは、お嬢様のお声もそれはもう、堪りません!鈴を転がしたような澄んだ声音で、名前を呼ばれるだけで、背筋がゾクゾクとしてしまいます!ふふふ、こうして話している内に、段々と寂しさが募って来てしまいました。ああ、早く帰りますからね、お嬢様。もうしばらく、シオンの留守に耐えていてくださいね、アリアお嬢様!」


 うっとり陶酔したような表情で笑みを浮かべ、シオンがアリアを心の内に浮かべる。

 狂気にも感じられたシオンのアリア語りを聞き終えた野盗のリーダーは、内心でヤバいメイドが来たなと、シオンに恐怖を感じた。

 しかし、すぐにその気持ちを切り替えると、最終確認の為の言葉をシオンに紡いだ。


 「お前のお嬢様への愛がとんでもなく重いものだと分かった。だから聞きたい。お前とあの馬車に乗ってるメイド見習い3人を捕らえれば、お嬢様が助けにくるか?」


 「ええ、きっと来てくれますよ。なんて言っても、私の愛おしいお嬢様ですからね。うふふ」


 シオンが間を置かずにすぐに答えた。

 そして、シオンがきっと慌てて駆けつけてくれるであろうアリアの姿を脳裏に浮かべ、思わずその時の健気な様に堪らず笑いを零す。


 (お嬢様。ああ、お嬢様。ううう、くふ)


 身悶えし身体を不気味に捩るシオンに、野盗のリーダーが引き気味の呆れ果てたような顔を浮かべた。その内心では、段々とこいつを狙うんじゃなかったと後悔の念が強まっていった。

 変なメイドを捕まえたかと後悔が募り始めていたが、今は仕事だと再び気持ちを切り替えた。

 そして、変なメイドにめげずに、聞き忘れてしまっていた質問を野盗のリーダーが口にした。


 「年齢はどのくらいだ?」


 「12歳のあどけなさがやっと出てきた可愛らしいお嬢様です!!」


 「そうか」


 胸を張り堂々とずれた答えを返すシオンに、野盗のリーダーはもうシオンの反応を一切意識から除外することに決めた。


 「もういい」


 シオンを見据え、何かを悟り諦めた表情で野盗のリーダーが短く呟いた。

 そして、シオンに侮蔑の眼差しを向けて続きを語った。


 「どうせお前らみたいな田舎貴族なぞ、まともな戦力もないだろう。俺らが、お前を人質に心優しいアリアちゃんを屋敷からおびき出して捕まえてやる。ついでに、他にも良い女がいれば全て捕えて連れて帰る。アリアちゃん含め、お前達全員はこれからは俺達を主と慕い、心からご奉仕に専念するんだな。男共は全員あの世で、お前らのご奉仕に指でもくわえて見守ってることになるだろさ。ああそうだ、初めてだからって心配することはないぜ。アリアちゃんと一緒に、丁寧に一つ一つ手解きして良いことを教え込んでやるからよ!」


 饒舌に言い終えると、野盗のリーダーは背後を振り返り、部下に向かい声を張り上げた。


 「お前ら聞いていたか!今日の獲物は、あのバカメイドとお屋敷にいるらしいアリアちゃんと他の良い女だ!一番の功績を上げた者に、一番槍を務めさせてやる。おら行くぞ、おめぇら!滾らせていけや!!」


 『うおおおおお!!』


 野盗達の野太い声が響き渡る。

 それに、折角のアリアの妄想を邪魔されたシオンが、不機嫌な雰囲気を纏う。

 イラつきが少々溜まったシオンが野盗共を睨んだ。

 先程のよく舌が回る野党の男がそんな不機嫌な様子に気付けぬまま、調子に乗ってシオンに勢いよく油を注いだ。


 「お前みたいにアリアちゃんもバカなんだろうなぁ!まぁ、安心しろよ。俺がたっぷりと良いことを教え込んで利口なアリアちゃんにしてやるからよ!男の扱いに長けた立派なご令嬢様の出来上がりだ!お前はアリアちゃんの傍で純潔が散らされる所でもしっかり目に焼き付けているんだな!!げ、げ、げ!!」


 アリアを嘲笑し、シオンには舐め付ける様な視線をねっとりと送った。

 ニヤニヤと無遠慮な視線で、シオンの足元から頭の頂上まで、途中胸元で視線を一時的に止めたが、全身を視線でねっとりと舐め尽くした。

 その最期の景色を笑んで、野盗のその男はこの世から崩れ去った。

 男だったものが、地面に粉々で山を作った。

 一瞬だった。野盗の誰もが、気付かぬうちに男が粉々に崩れ去っていた。

 呆然と、仲間の死を唯、一様に野盗達が言葉なく見つめる。

 それを見終わった後、野盗達は顔を上げ、呆然とシオンを見つめる。

 距離にして、3mは離れた所に立っているシオンを凝視する。

 一切の動きはなかった。だが、仲間が粉々に崩れ去った。

 魔法であることは、想像できた。

 だが、こんな魔法は知らないと野盗のリーダーは困惑した視線で、シオンを見つめ続ける。

 シオンが不機嫌な様子で口を開く。


 「不快な物言いですね。お嬢様がいらしたら、教育上宜しくありませんので、少々黙ってもらいました」


 そう言うと一旦言葉を止めて、野盗達に申し訳なさそうな表情を見せた。それと少し、落胆した雰囲気も交えて。


 「はぁ~。久しぶりでしたのでつい加減を間違えてしまいました。申し訳ございません。1人減らしてしまいました。残り14人にしてしまい本当に申し訳ございません」


 野盗達はそれを聞いて、やはり魔法を使ったのがシオンだと分かった。

 本能的な恐怖が、全員を襲った。震える身体で、腕で、得物をそれぞれが手にした。この時を生き延びるためにと。

 野盗のリーダーが、握りしめた剣の切っ先を向けながら震える声でシオンに訊ねた。


 「お前がやったのか?」


 にこりと笑みを浮かべ、落ち着いた様子でシオンが答えた。


 「そうですよ。先程申した通りに、あまりに口汚い物言いでしたので、眠ってもらいました」


 そう答え、シオンが首を傾げて野盗のリーダーに問い返す。


 「これを問うということは、私の魔法が見えていなかったのですか。若しくは、こんな魔法しか使えないのかと、がっかりさせてしまいましたか。後者であったなら、心配はご無用と申し上げておきます。ですが、前者であったなら、私ががっかりしてしまいます。この程度なのかと。・・・それで、どちらですか?」


 歓喜と落胆の気持ちが半々に混じり合った視線で野盗のリーダーを見据える。


 「!?」


 見据えられただけで、野盗のリーダーは身体の芯から竦み上がった。


 「――――――!!」


 全身を襲う今までに感じた事のない恐怖で口すらも満足に動かせず、半開きの口で必死に言葉を発しようとしたが、無駄に終わった。


 「どちらですか?」


 何も言葉を発しようとしない相手に再び問い掛け、シオンが一歩踏み出した。

 その瞬間、野盗のリーダーとその部下達は、嘘の様に竦み上がった身体に力が戻った。身体の生存本能が働き、恐怖を一時的に消したのであった。

 そうとは考え付かない野盗達は、シオンからの恐怖に己が打ち勝ったと思い上がり、得物を手に握りしめた。

 リーダーが不敵に笑みを浮かべて言った。


 「魔法がどうたらとかはもういい。要は俺らがお前に勝てばいいだけだ!お前を捕まえて、お前を人質に、心優しい愚かなアリアちゃんを屋敷から誘い出し捕まえて、主従共々俺らの慰み者となればいいだけだ。その時にたっぷりと俺らに歯向かった事を後悔させてやる!喚こうが泣き叫ぼうが関係ない、ぶっ壊れるまで玩具にしてやるよ!楽しみにしとけや!!」


 最後に語尾を荒げ、脅す様にシオンに言い切った。

 そして、その後背後を振り返り、部下達を炊き付けた。


 「行くぞ!おめぇら!あのメイドを最初に倒した奴が今日の宴会の主役だ!捕らえた女共の全員の味見を一番にさせてやるぞ!おら、遅れた奴は、権利放棄と見做すぜ!いけやーー!!」


 炊き付けられた部下達は、我先にとシオンに向かおうとした。

 しかし、その瞬間、シオンが野盗達に声を掛けた。


 「ちょっと、待ってください!」


 「あ~、んだ!ビビッて降参てか!」


 「いやいや、違いますよ。そういえば、今日は半日の暇をお嬢様に貰っていたことを思い出しましてね。私も、仕事と関係なく遊べることを今思い出しました。ですので、ここからは、お嬢様付の従者のシオンではなく」


 そこで一旦言葉を切ると、一度顔を伏せた。

 そして、再び顔を上げると、加虐的に染まる笑みを浮かべた。

 容貌を一変させたシオンが底冷えを催させる声で口を開いた。


 「シオン=ぺルベルとしての俺を出して楽しむ時間だ!!さぁ!!始めようか殺し合いという名の戯れを!!」


 口端を吊り上げ高らかに宣言した。

 獲物を前にした野獣の如き鋭い視線で、野盗達を舌なめずりしながら見据える。

 そして、邪魔だと言わんばかりに髪を縛るリボンを豪快に解き切った。

 解放された髪が荒々しく身体に落ちていく。

 髪により、シオンの纏う影が更に濃くなった様に感じられた。

 猟奇的な笑みに様変わりしたシオンが、可笑しそうに野盗達を見た。


 「どうした?いつになったら来るんだ?」


 どこまでも傲岸で不遜に、野盗達を煽る。

 しかし、野盗達には、最早その言葉は届いていなかった。

 シオンの突然の変貌、そして、先程とは比べようがない程の凌駕した威圧。

 自分が今呼吸をしているのかすら分からなくなる程の圧を受け、野盗達は呆然と視線をシオンに固定していた。

 そして、この時やっと野盗達は、先程の突然身体が動くようになった理由を明確に理解した。あれは、身体が逃げる為に無理に動くようにしたのだと。

 だが、もう遅い。もうその逃げる機会は既に逸してしまっていた。残るは、地獄への片道切符。

 自分を見つめ固まる野盗達にシオンが、不安な表情を浮かべて訊ねてきた。


 「もしかして、俺の力が予想よりも弱すぎて、呆れちまったのか?」


 野盗達が全力で首を振る。

 違う、違うと文字通りの必死に否定する。

 シオンはそれをちがう意味に解釈した。


 「そうか!俺らは避けないから、お前の力を見せてみろってか!殺(や)り合うのはそれからだか!!ははは、悪いなつい傲りが出ちまってたか!どれ、試しにそよ風ぐらいを吹かせるから、俺と殺(や)り合うに値するか確かめてくれ」


 野盗達は、全力で首を振り違うと訴えた。

 シオンはニヤリと笑みを浮かべると、右手で空気を一つまみするような動作をした。そして、つまんだ形のまま右手をツーっと顔の前で静かに横に動かした。

 野盗のリーダーは、突如背後が異様に涼しくなったことを感じた。シオンから目を離さないように視界に入れながら、背後を確認した。

 そこには、あれ程いた部下達が2人を残すのみとなっていた。

 顔を真っ青に染めて、恐怖に支配された瞳でシオンを、半ば意識を手放した状態で見ている、部下2人が見えた。

 それを見た瞬間、野盗のリーダーの腰から力が抜けた。ベタンと地面に尻もちを付き、その周りに温かい湖を広げながら座り込んでしまった。けれど、決して視線は地面に落とさずにシオンを捉えたままであった。

 戦意を喪失してしまった自分らのリーダーを見た途端、1人は同じように呆けたように地面に崩れ落ち、もう1人は背中を弾かれた様に走り出した。必死に生き残る為に別の場所で捕えていた女性達の下に駆けていった。女性達を人質にして、逃げるための行動であった。


 (クソッ!!俺は生き残ってやる!!)


 憐れな野盗が、捕えた女性達に向かって走っていった。

 女性達が恐怖に悲鳴を上げ、震える瞳で迫る野盗を見る。

 しかし、その足が捕らえられた女性達の下に着くことはなかった。

 シオンの呟きが女性達に向かい駆ける男の耳に、異様に、はっきりと、聞こえた。


 「それは、つまらんからなしだ。余計な雑音は折角の場の空気を濁す」


 その言葉を最後に、また1人野盗が地面に粉々に崩れ落ちていった。

 その場を満たす空気は、深淵から噴き上がる極寒の冷気の様に無慈悲に冷たかった。






 呆気なく終わってしまった折角の暇の戯れにシオンは、愕然としていた。


 (もう終わりなのか。たかがそよ風にそよいだ、だけで、折れたのか?もっと骨のある奴はいないのか)


 落胆した様子で、残しておいた野盗の2人を眺める。

 違いがあり過ぎて、牙の抜け落ちた野良犬が何の気力の伴わない空虚な瞳でシオンを見上げていた。


 (俺は別に強さを求めているわけでは無い。困難、苦境、先の見通せない絶望に直面してもなお、挫けぬ気骨ある者と挑み合いたいんだ)


 ふぅ~。空を仰ぎ、晴れやらぬモヤモヤしたやりきれなさに息を吐いた。


 (やはり、俺の選択は間違っていなかったな。こんな腑抜けた連中が束になっても敵わない、アリアに付いて正解だった。どんなに絶望的な力量差でも、喰らい付いてきたあの時のアリアに俺は惚れ込んだんだ。近頃の牙が折れたアリアに絶望して、もう最高の殺(や)り取りができないかと、諦めなくて正解だった。やっと、面白くなってくれたからな。くふふ)


 シオンが嬉しそうに内心で笑う。


 (俺は弱くてもいいから、ただ一途に諦めずに抗い続けるアリアにこれからも付いていきたいんだ。頼んだぜ、アリアお嬢様よ!)


 ふふっ、と面白くなったアリアに笑いを零すと、シオンは物足りなさを感じながらも本日の暇を終えるために、髪を再び結び、服装を整えた。

 地面に座り込んでいる野盗2人の襟首を乱暴に掴むと、捕えられていた女性達に一言掛け、付いてくるように促すと、雑に野盗の残りを引きずりながら、どちらに怯えているのか不明な女性達と一緒に馬車に戻っていった。

 そして、ナルとメルとグリムに女性達の介抱を頼み、シオンはヴァダンと共に野盗の残りを見張りながら、スイの到着を待った。






 明らかに帰りの時間が大幅に遅れた事に、シオンは今日一番の嘆きを零した。


 「お嬢様のお風呂が!!お着替えが!!そして、就寝前の準備が!!全部、出来ません!!アリアお嬢様、ううううう!」


 いつものように、アリア一番のシオンが天を仰いだ。

 そんな嘆きを零すシオンの下に、スイが到着していた。

 スイはシオンを見て、ダメだこれはと早々に諦めると、ヴァダンに声を掛けた。


 「先程連絡を受けた時に言っていた、巷で流行りの誘拐事件の有力な情報源はこれで良いのかしら?」


 スイが、まだアリアの事で嘆き続けているシオンの横で、ヴァダンにそう問い掛け、視線で捕縛してある男達を示した。


 「はい、こいつらで間違いありません」


 「お嬢様、シオンは早くお嬢様のその温もりを会えなかった時間分、たっぷりと味わいたいです」


 と、まだまだ嘆き続けるシオンの横でヴァダンがスイに答えた。


 「分かったわ。じゃあヴァダン、こいつらを私の乗ってきた馬車に詰め込んでおいてくれるかしら」


 「畏まりました、スイ様」


 慇懃に礼をすると、ヴァダンが2人を乱暴に担ぎ上げてスイの乗ってきた馬車の中に放り込んだ。

 それを横目に確認し終えたスイは、見習いメイドの3人に声を掛けた。


 「彼女達を一時的にうちで保護します。ですので、貴方達は彼女達を無事にうちまで送り届けなさい。それと、あそこで騒いでいるメイド長と共に、しっかりと護衛をしてちょうだい」


 「はい、了解しました。それとあの、メイド長と共にとは、メイド長の事も護衛をするのですか?」


 「ああ、言い方が悪かったわね。説明下手でごめんなさいね。それでは改めて。捕らわれていた彼女達は護衛、メイド長には、おもりをしつつお屋敷まで運んでちょうだい。頼りにしているわよ」


 「はい!!精一杯そのお勤めを務めさせて頂きます!!」


 ビシっと姿勢を正しスイに礼をした。

 そうして、3人は捕らわれていた女性達を自分達の乗る馬車に案内し、スイがシオンを引っ張ってきて馬車に強引に乗せると、最後にナルとメルとグリムが馬車に乗り込み扉を閉めた。

 馬車の中は荷物で多少狭くなっていたが、何とか全員乗り込むことが出来た。一番の場所取りのクマ五郎とシオンを端に寄せて、全員が椅子に座ると、シオンの代わりにナルがヴァダンに声を掛けて屋敷に向かい馬車を走らせた。

 そのシオン達の乗る馬車の後をスイが乗る馬車が付いていった。御者は、突然駆り出されたタスキが訳も分からぬまま、務めていた。

 スイは、馬車内で微笑みを湛えながら静かに、床に転がる男達に訊ねた。


 「温かい寝床と、冷たい寝床。どちらを選ぶ?」


 意味深長な言葉に、男達は困惑した。


 「ふふふ。まぁ、まだまだ時間はあるからゆっくりと考えてね。ふふふ」


 スイは、冷たく目を細め対象を見下ろして言った。

 静かに2台の馬車は、夜の更けた時間をお屋敷に向かい駆けていった。




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