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第48話:シオンのお買い物とアリアへのお土産探し

 シオンは、先程語った通りにランジェリーショップに来ていた。

 ショップで、店員さんにサイズを測ってもらい、その最中にアリアの初めてのブラジャーの相談などをしていった。程よい相槌と共に、参考になる意見を聞くことが出来た。

 有意義な時間を過ごせたと、シオンは満足な表情を浮かべ、計ってもらったサイズを参考に、今までよりもワンランク上の品を適当に見繕っていった。

 シオンが値段と懐具合から品物を吟味していると、お店に母親らしき女性と、不機嫌な様子で頬を膨らませた女の子がお店に入ってきた。


 女の子は、お店に入った途端、

 「やっぱり、いい!!」

 と言って母親らしき女性の手を振り切って、外へと飛び出そうとした。


 「ちょっと、待ちなさい!」


 母親らしき女性が振り解こうとした手を握った。


 「まだ、大丈夫だから!友達は、まだなんだよ!!」


 大声を出して、母親に反抗する女の子。


 「こら!静かにしなさい!」

 「やだやだ!」


 母親らしき女性が叱り、女の子が駄々を捏ねる。

 シオンは手を止め、そっと物陰から親子らしい2人の様子を窺う。

 シオンの見つめる先で、10歳位の女の子が必死に母親らしき女性の手を振り解こうとしていた。

 暫く窺っていると、先程お世話になった店員さんが女の子の下にやって来た。

 店員さんが柔らかな笑みを浮かべて、女の子の前に屈んだ。


 「どうしたの?」


 安心感を与える優しい口調で話し掛けた。

 女の子は敵対心を露わに、店員さんを睨みながら口を開いた。


 「お母さんが付けろって言うの!!」


 そう言うと、女の子が母親を見上げて、敵愾心を露わにした。

 睨み上げて自分の気持ちを訴えると、母親から視線を外し、再び店員さんに顔を向けて口を開いた。


 「まだ、付けたくないのに!友達は皆まだなのに!」


 荒げた口調で同じような言葉を店員さんに繰り返した。女の子の声は震えていた。

 店員さんは静かに女の子の言葉に耳を傾ける。


 「私は付けたくない、いやなの!誰かが付けるまで、絶対に付けたくない!!」


 自分一人だけ皆と違くなる、そのことが嫌だと必死に訴えかける。

 店員さんは、静かに何も言わずに穏やかな笑みを浮かべて、女の子の話に相槌を打ちつつ聞き入っていった。

 そして、暫くの間続いた女の子の今までと変わってしまう事への恐怖と、それへの拒絶が落ち着いてきた時、微笑みを浮かべて店員さんがようやく口を開いた。


 「うん、そうなんだ。だから、嫌なんだね」


 そう女の子に柔らかい口調で語りかけた。


 「うん。そうなの。だから、まだやだ」


 女の子が店員さんの顔を見つめて、そう口を開いた。

 店員さんは女の子の言葉を聞いた後、ちらりと女の子の胸元に視線を落とした。

 自己主張をし始めたばかりの胸が店員さんの視界に入った。

 店員さんは穏やかな微笑みを崩さずに、少しだけ心を開きかけている女の子に語りかける。


 「分かったよ。まだ、要らないんだね」

 「うん。まだ要らない」


 女の子は真剣な眼差しで、店員さんを見つめて答えた。そして、小さく口元を綻ばせた。

 店員さんは、それに応えるようにしっかりと女の子の瞳を見つめて語りかける。


 「そうか、そうか。うんうん。でもね、お姉ちゃんはもう付けても良いと思うよ。まだ、友達は皆付けてないんだよね」


 女の子に肯定するばかりの内容から、一歩踏み込んだ内容を口にした。


 「うん。まだ付けてない」


 素直に女の子が頷く。

 気持ちが自分に委ねられたと感じた店員さんは、更に女の子へと踏み込んでいった。


 「じゃあ、君が一番なんだ。一番のお姉さんになれたんだね」

 「一番?お姉さん?」


 「そうだよ。君が一番のお姉さん。一番最初にブラジャーを付けたお姉さんだよ。明日から、皆よりも一歩成長した大人になるんだよ。お姉ちゃんと同じ大人だ!」


 店員さんがニコッと笑みを見せた。


 「私が大人なの??」


 「そう大人だよ。大人は、ブラジャーを付けることは普通の事だし、全く恥ずかしい事でもないよ。でもね、今のままじゃまだ、子供なんだな~。大人は大切な胸を守るために、ブラジャーを付けるんだよ。どうする?子供のままでいいの?それともお姉ちゃん、そして、お母さんみたいに大人になる?」


 微笑みを浮かべた店員さんに訊ねられた女の子は、数秒逡巡し母親の顔を見た。


 「お母さんも大人だから付けてるの?」

 「ムミちゃん、お母さんも大人になったから付けてるんだよ」


 このお店に入って初めて、母親が表情を綻ばせて答えた。

 女の子は母親の答えを聞いて、悩んだ表情を見せた。しかし、それは一瞬の事で、女の子は元気に顔を上げると、母親と店員さんを見つめてはっきりとした声で気持ちを伝えた。


 「うん、分かった!お母さん!私、大人になるために、ブラジャーを付けるね!お姉ちゃん!私に、・・・可愛いのを下さい!」


 「分かった。お姉ちゃんと一緒に、可愛いのを探そうね。じゃあ、サイズを測ろう」


 「うん!お願いします」


 そう答えて、女の子は自分からお母さんの手を握り、店員さんと一緒に初めての買い物に歩んでいった。

 ずっとその様子を見守っていたシオンと、いつの間にか傍にやって来ていた見習いメイドの3人は、素直な尊敬と感心を店員さんに抱いた。

 シオンは女の子の様子を見守り終えると、先程の女の子をアリアに見立てて、見習いメイド達に問いかけるように口を開いた。


 「アリアお嬢様もあのように最初は嫌がってしまいますかね。今朝、少しだけブラジャーのお話をした際には、困惑しているご様子でした。今のうちに、それとなく慣れさせてしまうのはどうですかね。一応、今朝はお嬢様のお気持ちを尊重し、成長をなされたら付けることにしましたが、やはり慣れておいた方が良さそうな気がしてきました。ナル、メル、グリム、貴女達はどう思いますか?」


 シオンに真剣に問いかけられた3人はそれぞれ、自身の考えを述べていった。


 「私は良いと思います。今のうちに、慣れてしまわれた方が後に付けるときに違和感なく付けることが出来ると思います」


 「私はまだ今のままで良いと思います。余り無理に進めてしまうと、お嬢様がより強い拒絶感を示してしまう恐れがあると思います」


 「えっと、私はメイド長に賛成です。私は初めての時ずっと違和感を覚えていましたから。ですが、いきなりではお嬢様が驚きになってしまうと思いますので、キャミソール型の胸元にパットが付いたもので様子を見ていくことが宜しいかと思います」


 ナル、メル、グリムの三者三葉の見解を聞き、シオンはアリアの姿を脳裏に描き悩んだ末に、グリムを見た。


 「そうですね。お嬢様との約束を違える訳にはいきませんし、グリムの言うとおりにお嬢様が突然の事で驚きになってしまわれないように、グリムの案でいきましょう。それでは、お嬢様にお似合いの品を何着か買って帰りましょうか」


 『はい、メイド長』


 見習いメイド達の返事を聞いたシオンは、早速3人と共にアリアへの新しい肌着を選び始めた。






 自分の新しいブラジャーとアリアの慣れの為の肌着を買い終えたシオンは、見習いメイド達とランジェリーショップから満足感が覗く表情で出てきた。

 シオンは見習いメイドの3人を見回して声を掛けた。


 「良い品物を見繕えましたね」


 『そうですね、メイド長』


 「それでは、私は無事に予定の品を買い終えましたので、次はお嬢様のお召し物を買いに行こうと考えています。貴方達は、この後の予定はどうするのですか?」


 シオンが見習いメイド達を見つめて訊ねた。


 「私はエステ?なるものを試そうと考えています。お屋敷で、休日の日にエステ?に行った者が、なにやら極楽浄土の安らぎを得られたと話していましたので、私もそれを聞き興味が湧いてしまいました。なので、怖さ見たさで行って参りたいと考えてします。メイド長も、ご一緒にどうですか?」


 ナルがそう語り、誘うような視線でシオンを見つめた。

 シオンもナルの話でエステに感興を催し、わずかに行ってみたいとの思いが脳裏を過った。しかし、すぐに今自分がすべき大切なアリアの洋服探しを思い出し、後ろ髪を引かれる思い中、辛うじて断りの言葉を口にした。


 「・・・そうですね。行きたいのは山々ですが、私はどうしてもお嬢様のお召し物を買いに行きたいので、今回はご遠慮させて頂きます。ナル、また街に来たら、その時はご一緒しましょう」


 「はい!今度はメイド長も一緒に行きましょう。その時には、今日得られた感想を基にして、私がメイド長をご案内します!」


 「それは楽しみですね。今日はぜひ楽しんできてくださいね、ナル」


 「はい!心行くまで楽しんできます!」


 シオンが微笑んでナルにそう返すと、ナルも明るくそれに答えた。

 そうして2人の会話が終わると、メルが待っていましたとばかりに、シオンに快活に声を掛けた。


 「メイド長、私は自分の限界に挑戦してきます。ここに来る途中に、タイムアタック制の大食いチャレンジを見かけました。私はそこで新記録を打ち立ててきます。そして、それが終わったら、スウィーツ巡りを堪能してきます!!」


 三人の中で一番小柄なメルが子供の様に瞳を輝かせて、もう待てないと言わんばかりにソワソワしつつ語った。

 シオンはそんなメルに苦笑しつつ、やんわりと釘を刺した。


 「やり過ぎない範囲で、頑張ってきなさい。他の人達のやる気を削ぐような、記録は極力出さないようにしなさいね」


 メルはシオンの注意に、ニヤリと笑みを浮かべた。


 「分かってますよ、メイド長。程々に新記録を作って、終わったらお腹いっぱいになるまで、新作スウィーツ巡りをしてきます」


 その話を聞きシオンは何処にそんなに入るのだろうかと、今から食べに行く料理たちに満面の笑みで思いを馳せる、小柄なメルを見つめ疑問を浮かべた。

 そうして2人の予定を聞き終えたシオンは、今まで待たせてしまったグリムを見て声を掛けた。


 「グリムはどうするのですか?」


 シオンの問いかけに、グリムは一瞬考える素振りを見せてから慎重に口を開いた。


 「私はちょっと、“本屋”に行ってきます」


 それだけを簡潔に述べた。

 シオンは何も不審に思わずグリムに頷いてから、見習いメイド3人を見据えて口を開いた。


 「貴女達、18時前にはヴィマの店に集まる事。そして、全員が揃い次第、馬車に戻りお屋敷に帰ります。それまでの約2時間、存分に今日の仕事のご褒美として満喫してきなさい。それでは、集合時間に注意して、良い時間を過ごしましょう!」


 『了解しました!』


 威勢よくシオンの注意事項に返事を返し、見習いメイド達が急ぎ足で街中に散らばっていった。皆、自身の目的とするものに一直線に向かって行った。

 シオンはそんな見習いメイド達を見送った後、自身もアリアへのお土産を探しに、賑わう街中へと歩いていった。






 何件かファッションショップを巡ったシオンだったが、自分の理想とするアリアに似合う衣装を未だ見つけられずにいた。


 (どうも、しっくりこないんですよね。お嬢様の魅力を引き出せるお召し物が見つかりません)


 はぁ~、と、ついため息が零れてしまった。


 (どこかにないですかね。今までのお嬢様のワンピースとは違う、可愛らしい品は)


 と、シオンが愚痴をこぼし、ぼんやりと街並みを眺めていると、一軒のファッションショップが遠くに映った。

 何の気なしに、引き寄せられる様にシオンはその店に向かい、期待半分で店内を覗いてみた。

 そこで、遂にアリアのイメージにぴったりと合う服を見つけた。

 巡り合えたとシオンは、喜びに耐えられずにその品を手に取った。

 今のアリアの服装は、全てが質素な単色のワンピース。

 シオンの抱いていた憂いが、ようやく晴れていきそうであった。


 (お嬢様には、お洒落をして頂きたいです。無個性なお姿より、華やいだ本当に可憐なお嬢様ご自身のお姿を私達は見てみたいのです。ですから、これで普段のお召し物に彩を添えられることをシオンは嬉しく思います。これはシオンからの贈り物です、アリアお嬢様)


 そう心の中で、にこやかに述べると、見つけられたアリアへのプレゼントを目の前に掲げ、しみじみと見つめた。

 純真さを表すような真白なワンピース。スカート部分に折り目が付いたプリーツタイプのモノで、青色のリボンがワンポイントでアクセントを添える、黒色の襟が首周りを囲う今までにアリアが着たことがない最高のプレゼントであった。

 シオンはこの衣装を身に纏うアリアの姿を脳裏に浮かべる。

 銀色の髪に、黒色の襟、胸元を飾る青いリボン、そして、真白なワンピースが全体的に清楚な印象を与えたアリアが左右で色の異なる赤と青の瞳でにこやかに微笑んでいた。

 自然に微笑みが浮かぶ、シオン。


 (今、お届けします、お嬢様)


 その襟付きワンピースを大切に手に持つと、他にも数着今までになかったタイプのワンピースを手にお会計に向かった。そこで、お会計の最中に、店員さんに買ったワンピースとの組み合わせを訊ね、組み合わせを学んだシオンは他にも何着か服を買い足して、そのファッションショップから出た。

 手に感じる紙袋の心地よい重さに、アリアの華やぐ笑顔を感じた。

 シオンは空いた手で紙袋を愛おしそうに一撫でしてから、他にも何かいいお土産はないかと、街の散策を再開した。






 街中を散策していると、異様な程の特徴を持つお店がシオンの目に入った。そのお店は本日閉店、無くなり次第終了と書かれた旗をいくつも店先に立てたある意味で賑やかなお店であった。

 店先で、男性の店員が声を張って宣伝していた。


 「只今閉店セール開催中~。“ここに並んだ物は”どれでも1000ベル~。早い者勝ちだよ~」


 その声に誘われ、シオンはその異様に本日閉店を強調するお店に寄って行った。

 店先に並ぶベルトや懐中時計などの品々を見ていくと、1つだけポツンと置かれていたモノに目を奪われた。商品名にはポロライドカメラと書かれていた。

 カメラというものの存在は知っていたが、初めて目にするそれに興味を引かれ、シオンは手を伸ばし、そのポロライドカメラを手に取った。

 正面、側面、裏面、下側などを矯めつ眇めつ眺め、何処も壊れていない事を確認すると、店員に声を掛けた。


 「これも1000ベルで宜しいのでしょうか?」


 興奮が微かに現れた声であった。

 問いかけられた店員はシオンの持つカメラを一瞥すると、口元をニヤリと持ち上げた。


 「そうだよ。これは良い掘り出し物だよ。お姉さん、良く見つけたね」


 妙に粘つく声であった。

 シオンはそれに気付かず、物珍しさに興奮した様子で答えた。


 「そうなのですか!では、これを下さい!」

 「はい、まいどあり」


 代金を手渡した。

 そして、ニヤリと怪しく笑う店員からカメラを受け取ると、シオンはその店員に撮影に必要な物があるかを訊ねた。


 「フィルムは置いてありますかね?」


 辛うじて撮影にはフィルムが必要ということを思い出したシオンは、カメラを開けてフィルムが入っていない事を確認し、そう訊ねていた。

 ニヤリと、またも気味の悪い粘着質な笑みで、店員がすぐに答えた。


 「もちろんあるよ、お姉さん」


 店員はゆっくりと店の奥に向かい、そこに積んである箱の山からフィルムを1つ取り出し、シオンに訊ねた。


 「これで良いかい。お姉さん」


 ゆっくりとフィルムを両手で捧げるように見せた。


 「そうです!これも1000ベルで?」


 少々高いなと思いつつ、シオンは早速お金を取り出そうとした。が、店員がそれに待ったを掛けた。


 「待った。これは、1つ20ベルだ」


 その店員の返答を聞いたシオンは、予想よりもはるかに安い値段に、驚きつつも喜んで再びお金を取り出そうとした。

 しかし、またも店員からの待ったが掛かる。


 「待ってくれ、お姉さん。そのカメラはもう世には出回らない品でね。このフィルムも同じ、もう世には出回っていない品だ。1つだけ買われたんじゃ、うちの店も在庫が残るだけで商売上がったりだ。安くするから、フィルムを全部買ってくれねぇかな。それに、商品名の下に書いてあるだろ。フィルムもセットでお買い上げくださいってな」


 ニヤリと笑みを浮かべて店員がそう述べた。

 シオンは、なるほど中々にあこぎな商売だなと、商品名の下に小さく薄っすらと黄ばんだ紙と同じ色の文字が書かれていることに、初めて気づいた。

 シオンは口の端を吊り上げ、面白そうにニヤリと笑みを浮かべた。

 店員の顔を見据えて、楽しげに声を掛けた。


 「いいですよ。どれくらいのお値段になりますかね?」


 「200万ベルでどうかな、お姉さん?」


 店員が更に笑みを深めてシオンに問いかけた。


 「200万ベルですか。今は生憎、そこまでの持ち合わせはありませんね。それで、払えない場合はどうなるんですか」


 シオンはそう問い返した。シオンも一層楽しげに笑みを深めて。


 「そりゃあね、体で払ってもらうしかないかな。お姉さんのその立派なものでね。ククク」


 ニヤ付く笑みを浮かべて、粘着質の下品な視線でシオンの胸元を舌なめずりしつつ眺めた。

 それに、シオンが楽しげに微笑んで答えた。


 「分かりました。では、店の奥で話し合いですかね?」


 「良く分かってるじゃねぇか、姉ちゃんよ!ククク!そんじゃ!おい、お前ら!今回は女性客だ!丁重に奥まで案内してやんな!」


 先程までの笑みを消して、鋭い視線でシオンを射抜き、いつの間にかシオンの背後に立っていた二人組の男達に店員が語気を強めて声を掛けた。


 「あいよ。ボス」

 「ボス任せな」


 答えて、2人はシオンの大きく膨らむ胸元を、遠慮のない視線でまじまじと見つめた。


 「逃げれんからな!抵抗せずについてこい!奥で、きっちりと身体を使って代金の交渉といこうか」


 「ふふふ。いいですよ。さぁ、楽しく交渉の時間といきましょう。ふふふ」


 耐えられない様子で可笑しげに笑いを零し、シオンは店の奥へと向かった。

 しばらくの間、その店には静寂が満ちた。しかし突然、何度か打撃音が聞こえると、それに続いて2度の何かが倒れる音が聞こえた。

 それから、またしばらくの間、静寂が店を支配すると、その数秒後、爽やかな笑みのシオンと顔を何倍にも腫らせた店員とシオンに乱暴に引きずられた男達が、店の奥から出てきた。

 シオンが引きずっていた男達を雑に地面に放ると、顔を何倍にも腫れ上がらせた店員に、冷たく訊ねた。


 「1つ20ベルでしたっけ?」

 「へ、へい、そうでございます。姐さん」


 「この店にあるフィルムを全て買い上げてあげます。チェイサー家の馬車に運んでおきなさい」


 「へ、へい。喜んで致します。姐さん」


 怯えた様子で深々と頭を下げて、パンパンに顔を腫らした店員が答えた。


 「・・・・・」


 静かに視線をゴミに落としてから、代金を手渡した。

 恭しく畏まりながら両手で代金を受け取る顔パンパンの店員を、シオンが最後に冷酷に一瞥した。

 そして、すぐに視線を外すとその店に背を向けて歩き出した。

 シオンはすっきり爽やかな表情で、軽やかな足取りで次のお土産探しへと向かっていった。


 (いいお買い物が出来ました。楽しみに待っていてくださいね、アリアお嬢様!)






 その後、このお店は本当に閉店をしてしまった。

 その跡地には、ヴィマの夢にまで見た支店第一号が堂々開店した。

 店員にはどこかで見覚えのある3人の男達が世にも奇抜な衣装を身に纏い、せっせと真面目に汗を流しつつ仕事に励んでいた。




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