第36話:シオンとスイの密談
シオンとスイは、2人の足音が完全に消えるまで待ってから会話を始めた。
スイがまず話し出した。
「メイド長、お嬢様の事ですけど、やはり何かのご影響があるのではないですか?」
アリアが出ていった脱衣所の出入り口を真剣な眼差しで見据えた。
シオンもスイに倣い出入り口に視線を向けた。
「スイもそう思いますか?」
シオンは出入り口から視線をスイの顔に向けて、確認を取った。
「勿論です。あそこまで感情を露わにするお嬢様は、初めて目にした気がします。見ているのが辛い程、自身を責められていました。それに、ご自身の味方が誰もいないと仰っておりましたが、これは昨日の私の娘が原因でしょう。メイド長、本当に申し訳ございませんでした」
スイが娘に代わって謝罪をする。そして更に、シオンを見つめて、懇願する
「どうか、罰を与えるのならば、私だけにお願い致します」
「スイ、その話は昨日の時点ですでに終わった話ですよ。お嬢様が全てをお許しになっています。それに、スイに罰を与えて、お屋敷から出ていくことになってしまったら、きっと今のお嬢様が、悲しんでしまいます。今のお嬢様の世界は、恐らく思っているよりも狭いものです。その世界から、自身の味方が消えてしまったら、恐らく今日以上の恐慌を来して、自身を一層傷つけてしまう可能性があります。私達は、お嬢様が孤独を感じることがないように、身近で深く注意していかなければなりません」
「はい、メイド長」
シオンの話に真剣に頷く。
「今のお嬢様の世界の住人は、きっと私達しかいません。それも、お嬢様が会話されたお屋敷の者しかいません。スイ、お嬢様の世界が広がり、住人が増えるように皆に積極的にお嬢様と話すように伝えて、いやお願いしてくれませんか。やっと開かれた世界が閉じてしまわれないように、お願いしますね」
「はい、勿論です、メイド長。お嬢様の表情から笑顔が二度と失われないように、お嬢様が辛い経験を二度となさらないように、私達がお傍で支えていきましょう」
スイの話を今一度、心に刻むようにゆっくりと深くシオンは頷いた。
そして、2人は一旦話を止めると、アリアがいるであろう方向に視線を向けた
暫く見つめてから、シオンがアリアに関する懸念を再び口にした。
「それにしても、なぜお嬢様はあそこまで変わられたのでしょうか。記憶が曖昧な点と魔力が無くなってしまった点と読み書きが出来なくなっている点、それから人が変わったかのようにお優しく、感情を表すようになった点は何か繋がりがあるのでしょうか。偽物が入れ替わっている線は、全くありませんし、悩みどころですね。スイはどう思いますか」
「お嬢様が偽物かという事ですか。それでしたら、絶対にありえません。私はお嬢様が小さい頃からずっと見て来ましたから、私の目を欺くことは不可能です。それに、お嬢様の細部に至るまで全て脳裏に想像できる私の記憶を欺くことも不可能です。お風呂でのお嬢様の姿を娘達と一緒に観察し、最新のお姿に更新していますから、微細な違いも見逃しませんよ」
スイが今日アリアを抱き締めた時の値を加えた最新版のアリアを脳裏に想像して、娘達と一緒にお母さんと慕って来る光景を思い浮かべて、嬉しそうに顔を綻ばした。
シオンもスイに深く同意し、今日お風呂で見たアリアを加えた最新のアリアが、シオンお姉ちゃんと抱き着いてくる光景を浮かべて、愉悦に綻んだ。
そして、共に想像を堪能し終えた2人は、真剣な表情を浮かべて話し合いを再開した。
「スイ、やはりお嬢様のお身体が心配ですので、次回の定期健診の日程を早めて貰えるか主治医に相談できますか」
「畏まりました、メイド長。明日か明後日には来るようにと、あの男に連絡ではなく命じてきます」
嫌悪感を露骨に表して、仕方なしとスイが頷いた
「スイ、一応お嬢様の主治医で腕は確かなのだから、あまりぞんざいに扱わないで下さいね。私も大っ嫌いですが、腕は確かですし。お嬢様を診られるのもあの男しかいないのが癪ですが、腕は確かですし。今はアレですが、昔はまともでしたから。まぁ何はともあれ、早く来いとシオンが呼んでいると伝えて下さい。そして、明後日には来るように強く言いつけておきなさい」
「はい、メイド長!!」
スイは嬉々として頷くと、シオンと一緒に脱衣所を後にした。そして、通信用魔道具で「明後日には来い」と「お嬢様に手を出したら、命はないものと思え」と、スイとシオンが伝え終えると、すっきり爽快感を顔に浮かべて、通信室から出てきた。
その後、スイは仕事へとシオンはアリアの傍へと別れて向かって行くのであった。




