第19話:全てシオンのせいです!!
少しの間、感傷に浸っていたアリアであったが、残る問題を思い出して頭を悩ませた。
(魔法は、どうすればいい!・・・と、その前に魔力か!)
闇の魔力2、光の魔力8の悲惨な現実が脳裏に浮かんだ。
(どうすれば増える?この身体に、チートは期待できないか!?・・・・・いや、悪役令嬢には無理か)
はぁ~~~と大きなため息が漏れた。
(悪役令嬢は恵まれてないな。主人公だったら・・・な。)
思わず弱音を吐いてしまった。だが、すぐにそんな自分に叱責を入れた。
(落ち込むことなんていつでもできる!時間は待ってくれないぞ!なんとか、どんな小さくてもパッピーなエンドに向かってやる!)
再び悩み始めたアリアだったが、気持ちを切り替えて何か良い方法がないか魔法の授業を思い出してみた。
(何かなかったか!シオンは、特になしだな。えーと、ソウシ先生は、・・・あ!あった!言ってた!使えば増えるんだったな!陸上の長距離と一緒だな。走り込みが大事!!)
ぱっと明るい表情を浮かべた。
「今日は、一度倒れているから体調を気づかって止めて置くとして、明日から頑張るか!」
得心がいき、うんと一度アリアは明るく頷いた。
「よし、当分は学園入学後に使うことになる語学と魔法に重点を置くか。お屋敷の皆との関係は今日でほぼ修復を終えたはずだから、後は深めていくだけだ。こちらにはそれほど力を入れる必要はないな」
当分の予定が決まったアリアは、自身に起こった疑問を思い浮かべた。
(死ぬ前に見た少女はアリアだろうな。それと俺をこっちに呼んだのもアリアか。一体何をさせたいんだろうな)
はぁ、と息を吐きだした。
それから、頭の上に飾られた少女の肖像画を見上げた。
(昼間は思い付かなかったけど、これはアリアか)
アリアは、月明かりに照らされた少女をじっと見た。
(髪と瞳の色が今と違うな)
そう思い、じっと見つめ続けた。
しばらく見つめた後、アリアは再び自身に起こった疑問を思い浮かべた。
(身体が勝手に動いたり、感情が揺れたりするのは何なんだ。これも謎だな。後は)
アリアは、サイドテーブルの上に乗った赤紫色の魔石が付いた首飾りを見た。
「シオンに頼んで貰った物か。これは、前のアリアが使うためか、それとも魔力が無い俺のための物かどっちだろうか?分からん。シオン達の首飾りも何なんだ。あれも何か意味があって全員に渡しているのか?これも分からん」
はぁ~~、再度今度は長く深いため息を吐く。
「アリアお嬢様よ!どこかにいるなら答えてくれよ!」
しかし、待ったが、その問いかけの答えはどこからも聞こえなかった。
アリアは、予想通りの結果に意味もなく笑いが零れた。
「アハハ!もういいや。なるようになるしかないか!」
不満を吐き出した後、真剣な表情になって思案を深めた。
(謎は、今は放っておく。今大切なのは、バッドエンドの回避だ。語学と魔法は、さっき決めた通りでいいとして、後は学園入学後の人間関係か)
脳裏にゲームのヒロインたちの顔を思い浮かべていく。更に、本当に嫌だが死ぬよりはましだと、一応主人公も思い浮かべた。
(彼女達と仲良くなって、主人公は・・・うん、まあ表面上の付き合いだけにしておくか。で、上手く親友ポジションに納まって、サブキャラとして学園生活を送るのが一番だな。よし、そうと決まれば、彼女達と仲良くなって、ハーレムを作るぞ!!百合百合パラダイスの開園だ!)
アリアは、サブに納まる気はゼロであった。
満足のいく予定を立て終えたアリアは、気分良くベッドに潜り込んだ。そして、寝ようとした時、忘れていたことが思い起こされた。
(ああ!?アリアの取り巻きはどうする!?)
アリアは悩んだが、すぐに方針を決めた。
(無視一択だな。絶対に関わらないようにしよう!関わったらバッドエンドで死ぬと思え、俺!)
取り巻き問題も解決したアリアは、就寝しようと目を閉じた。しかし、また違うことが浮かんできた。
「そういえば、たまに精神年齢が下がっている気がする。この身体に引っ張られているのか?」
涙もろくなった自分を思い浮かべそう口にした。
「そうだとして、もうこの身体で生きていくしかないから、甘受するしかないか」
仕方がないとアリアは、受け入れることにした。
そして、アリアは再び目を閉じた。
「もう、寝よう」
しかし、眠気がいつになっても来てくれなかった。それどころか、また脳裏に思い浮かぶものが出てきた。それは、嬉々としてタスキを踏んでいた己の姿であった。
「俺か!俺の性癖なのか!いや、俺じゃないはず!俺に女王様気質はない。ないよね。・・・・・。ちくしょーーう、タスキーーー!!」
益々アリアの精神が高揚してきた。そして、目も冴えてきた。
それでも、アリアは寝ようと目を固く閉じた。
「何も考えるな。ただ寝ることだけを考えろ。無だ。無を感じろ」
心は無の境地に至る思いであった。しばらく、何も考えずにただ目を閉じていた。
そのおかげか、アリアにやっと眠気が襲ってきた。
(やっと眠れる)
アリアは、いつの間にか夢の世界に旅立っていった。それは、穏やかで静かな眠りであった。
しかし、それを打ち破るように夢にシオンが現れた。アリアの平穏な睡眠が崩れ去ろうとしていた。
アリアは、ベッドで寝ていた。
「お嬢様」
シオンの名前を呼ぶ声がアリアに聞こえた。
「うん?どうしたの、シオン」
目を開けてシオンを見ようとした。
それよりも早く、シオンの手がアリアの身体に伸びてきた。
視界の端に見えたシオンの手に、アリアは嫌な予感を覚えた。
それを避けようと、ベッドから転がり落ちた。
すぐに立ち上がり前を向いた。そこには、シオンがぼんやりと立っていた。
表情を非常に楽しそうに歪めたシオンであった。唇が綺麗な弧を描いていた。
ゾッと背筋が凍り付いた。
アリアの中に、なぜか分からないがシオンから逃げなくてはという焦りが生まれた。
アリアは、すぐに逃げようとした。後ろに下がろうと足を出そうとした。だが、足が動かない。
「うそ!!」
驚愕してアリアが声を零した。
アリアの身体にシオンの魔手が迫ろうとした。
後ろに下がるのを止めアリアは、全力で逃げようと駆け出した。
シオンの脇を転がるように抜けた。
シオンがギロリと目を動かしてアリアの動きを追っていることが分かった。
それでも、後ろを振り返ることなく部屋のドアまで駆け、それを開けて廊下に出た。
いつもと違う薄暗く気味が悪いほど静まり返った廊下が広がっていた。
不気味な雰囲気の廊下に、一瞬走り出すことに躊躇いを見せた。だが、部屋の中からアリアの名前を楽しそうに呼ぶシオンの声が聞こえると、アリアは覚悟を決め不気味な廊下を走り出した。
廊下をシオンから逃げるために走っていると、後ろから声が聞こえた。
「お嬢様!アリアお嬢様!」
弾んだ明るい声であった。アリアにはそれが恐ろしく聞こえた。
後ろからアリアの名前を呼び、ゆらゆらと幽鬼の如く身体を揺らしながらシオンが迫ってくる。
懸命に逃げようと足を動かしたが、思う様に動いてくれない。
「どうして!なんで!」
焦りがアリアを襲う。
(足が重い!)
なぜか、足が重いアリアであった。
息が上がって来た。
けれど、足を止めるわけにはいかなかった。止めたら最後、それがアリアの脳裏を占めた。
逃げる。必死に逃げる。だが、後ろから近づく気配が強まってくる。
「もっと!もっと早く逃げなくちゃ!!」
アリアは、足に力を入れて今より早く動かそうとした。逃げる速度が速まった気がした。
「やった!!」
喜びが顔に浮かんだ。これで逃げられるとアリアは一瞬考えてしまった。
それがいけなかったのか、次の瞬間足が絡まった。
「え!」
短い声がアリアの口から洩れた。
アリアは、廊下に倒れてしまった。しかし、なぜか痛みを感じなかった。
アリアは、すぐに後ろを振り返った。
そこには、暗く永遠に続く廊下が続くだけであった。
(よかった。まだ追いつかれていない!)
シオンの姿は廊下には無く、声だけが響いてアリアに届いていた。
アリアは、なぜか逃げることを止め、隠れることに決めた。
全くの無意識の決定であった。
アリアは、近くの部屋に隠れようとドアノブを捻りドアを開けた。
その時、蝶番がさび付いていたのか、思いがけず大きな音が響いてしまった。
ギイイイイイイイ。
心臓が口から飛び出すくらい、アリアの心臓が高鳴った。
ドアが開くとアリアはすぐに部屋に飛び込んだ。そして、急いでドアを閉めて鍵を掛けた。
その直後、部屋の前をシオンが通りかかった。
「お嬢様~~~!どこですか~~~!私です、シオンですよ~~~!」
悲し気な声を出して、アリアを呼んでいた。
アリアは、口を手で押えて息を殺した。
(・・・・・)
「おかしいですね。このあたりにいると思ったのですが、私の勘違いですかね。もっと先まで調べてみますか」
丁度ドアの前立ち止まり、シオンが声を出していた。
「アリアお嬢様!どこですか!隠れているのですか!」
アリアには、シオンの言葉がわざとらしく聞こえた。
アリアの身体が恐怖で震える。
(もう、バレてるの)
視界が涙で滲んだ。
それでも、竦む身体を懸命に動かして窓から外に逃げよと、アリアが立ち上がろうとした時、足がもつれた。
「あ!」
小さく声が漏れてしまった。
そして、部屋の床の上に倒れた。
バタ、音が立ってしまった。
その瞬間、廊下で聞こえていた声がぴたりと止んだ。
シオンがこちらを見たのが、アリアには感じられた。
そして、こちらに聞こえる様にシオンが口を開いた。
「そこにいらしたのですね、アリアお嬢様!」
喜び弾んだ声音でアリアに語り掛けてきた。
「――――!!」
声にならない悲鳴をアリアは上げていた。
突然、ドアノブがガチャガチャと音を立て始めた。
シオンがドアを開けようとしているのだ。
腰が抜けてしまったアリアは、立ち上がることが出来なかった。
ガチャガチャ、ドンドン、ガチャガチャ・・・。
ドアノブを回そうとする音とドアを叩く音が交互に鳴り響く。
「おかしいですね。ドアが開きません。お嬢様、開けてくれませんか。そこにいるのは分かっています。うふふ!」
シオンの笑いが混じった声が聞こえる。
しかし、しばらく呼びかけたが、アリアの反応が無いことにシオンが首を捻る。
「間違えていましたかね?」
アリアは、心の中で願った。
(お願いです!勘違いと思って通り過ぎて!)
「まあ、いいです。鍵を開けて中を確かめれば良いことですから」
アリアの心を絶望が埋め尽くした。
シオンは懐から徐に鍵束を取り出すと、鍵の確認を始めた。
「さて、この部屋の鍵はどれでしたっけ」
ジャラジャラとわざとらしく、アリアに聞こえる様に鍵束を鳴らして、シオンが探す。
アリアは、両手を合わせて必死に願った。
(お願い、見つからないで!)
それが通じたのか、シオンの困った声が聞こえた。
「おかしいですね、ありませんよ」
アリアの表情に安堵が浮かんだ。
(やった!)
はぁと一つため息をシオンが付いた。
「仕方がありません。一度部屋に戻りますか」
シオンが謝罪を口にする。
「申し訳ございません、お嬢様。少々お待ちください。すぐに戻って参りますね」
シオンの足音がその場から遠ざかっていった。
アリアは、すぐに起き上がるとドアに耳を付けて外の音を探った。
ドアの向こう側はシンと静まり返っていた。
「いないな」
小さく呟いた。
安堵したアリアは、ドアを開けた。
そして、ゆっくりと顔を廊下に出して、周りを窺った。
誰もいない延々に続く廊下が広がっていた。
「よし、いない。今だ!!」
アリアは、そう叫ぶと廊下に出た。
そして、シオンが向かった方向とは逆に行こうと顔を向けた。
そこに、顔に晴れやかな笑みを湛えたシオンが立っていた。
「やはり、こちらにいらっしゃったのですね、アリアお嬢様!」
ニタァと気味の悪い笑みを顔に張り付けたシオンがアリアに嬉しそうに声を掛けた。
「えっ、シオン!部屋に戻ったのではありませんか!」
アリアはそれだけを問うと、腰から力が抜けその場にへたり込んだ。
粘つく笑みでアリアを可笑しそうに、シオンが見つめる。
「ええ、戻りましたよ!うふふ」
寒気がする笑いを零してシオンが二つの鍵束を取り出した。それをアリアがよく見える様に掲げた。
「ほら、これがその証拠ですよ」
うふふと可笑しそうに笑いを零した。
「アリアお嬢様」
耳に粘り付くようにアリアの名前を呼んだ。
シオンがアリアの下にゆっくりとした歩みで迫ってくる。
逃げようとするが、足が動かない。
(何でさっきから、足が思う様に動いてくれないの!!)
手で床を押して後ろへとアリアが下がる。しかし、遅々として進まない。
前からシオンがどんどんアリアに迫ってくる。
(やだやだやだやだやだ!!)
アリアは必死に床を手で押して後ろに下がった。
シオンがそれを楽しそうに見ていた。
どんどんアリアとシオンの距離が縮まっていく。
(やだやだやだやだやだーーーーーー!!)
そして、とうとうシオンに追いつかれてしまった。
「捕まえた!」
なぜかアリアの背後から声が聞こえた。
いつの間になど問う暇もなく襟首を掴まれ、いずこかへと引きずられていく。
(止めて!いやーーーーー!)
アリアの絶望の叫びが空しく廊下に響いた。
次の瞬間、視点がいつの間にかアリアの部屋に代わっていた。
「うふふ、お嬢様。お身体を綺麗にしましょうね」
知らぬ間に、アリアは裸の状態で椅子に座らされていた。
(え、何で!裸に!)
アリアは、呆然と自身の身体を見つめた。
だが、呆然となったのは一瞬ですぐにアリアは正面をキッと睨みつけた。
「シオン、止めなさ・・・!?」
アリアの言葉が途中で止まった。
そこには、タオルを片手にシオンが佇んでいた。
だが、いつの間にかシオンが2人に増えていた。
目の前の信じられない光景にアリアは目を見開いた。
「何で、2人に、なってるの」
震える声で問いかけるだけが精いっぱいだった。アリアの身体から力が抜けた。
ニタっと笑うだけで、シオンは何も答えなかった。
シオンの手がアリアに迫って来た。
「アリアお嬢様、お身体を拭き終わりましたら、私達と楽しく遊びましょうね」
2人のシオンの手がアリアの裸体に触れようとした。
「っ!?」
アリアは、ベッドから飛び起きた。
すぐに衣服を確認した。
「着てる!!」
その後、部屋を見回した。
「いない!!」
薄暗い部屋には誰も見当たらなかった。
一つ息をゆっくり長くと吐きだした。
胸元に手を置いた。心臓が早鐘を打つように鳴り響いていた。
アリアは、窓の外を見た。そこには、先ほどと位置があまり変わっていない月が浮かんでいた。
寝てから、あまり時間が立っていないようであった。
アリアの寝間着用のワンピースは汗で、濡れていた。爽やかさとは程遠い、粘りが強い汗であった。
アリアは、天井を仰ぎ見た。そこに、あるアリア付きの使用人のメイド長の顔を思い浮かべた。
そして、不機嫌を露わにした口調で言葉を吐き出した。
「シオンがあんな話をするからこんな夢を見るんだよ!!」
シオンが語った首飾りを磨くときの生々しい話を思い出して、アリアは不満を爆発させた。
そしてこれにより、アリアの目は完全に覚めてしまった。
アリアは、異様にギラついた目で天井を見上げた。
「ヤバい!眠気が完全にどっかに吹っ飛んで行っちゃった!」
そう零した後、ギンギンに覚めた目で恨めし気にドアを睨みつけた。
「恨みますよ、シオン。ううう」
アリアは、悲しく呻いた。
その後、また寝ようとアリアは布団を掛け直して目を閉じたが、一向に眠気が来る気配は感じられなかった。
アリアはベッドの上で何度も寝返りを打って、身体の向きを右、左、真上に変えたが眠くなることはなかった。
「ああ、もう!!」
そう声を零して、布団を頭いっぱいに被った。そして、身体を丸めて目を閉じた。
しかし、時計の秒針の動く音や窓の外から聞こえる風の音などが異様に聞こえて、アリアの眠りを妨げる。
また何度か布団の中で寝返りを打った。更に、頭の中で羊が柵を飛び越える様子を思い浮かべて、その数を数えていった。
(羊が1匹、羊が2匹、羊が3匹・・・・・)
アリアは、羊を100匹数えた。
眠れなかった。
「俺は今までどうやって眠っていたんだ」
眠れないときに良く言われることをアリアが呟いた。
そして、布団から顔を出して、弱音を吐いた。
「もう、このまま眠れないのかな」
漠然とした不安に襲われて、瞳が涙で滲んだ。
それでも、なんとか寝ようと布団をまた頭まで被った。
しばらく、目を閉じて頑張ったが、眠れなかった。
「もうやだ!」
そう叫び、ベッドから飛び起きた。
そして、上体だけを起こして、何か良い方法は無いかと考えを巡らせた。
「そういえば、前にyoutyubeで軍隊式睡眠導入法とかがあったな。あれを試してみよう」
アリアは、確かと呟き目を閉じて手足の力を抜いていった。
そして、全身から力を抜いた状態で眠気が来るのを待った。
(・・・・・)
しばらく経っても、眠れなかった。
「嘘つき!眠れないじゃんか!」
アリアの精神が興奮するだけであった。
アリアは他にも何か無かったかと記憶を探った。
その時、頭に閃くものがあった。
「運動した後によく眠れるって聞いたことがあったぞ!」
天啓を得たと、アリアはベッドから出ると床に降り立った。
裸足にひんやりとした床の感じが伝わった。
アリアはぺたぺたと歩いて部屋の広い場所に立った。そして、スクワットを20回行った。
アリアは、結構な疲労感を覚えてベッドに潜り込んだ。
「今度こそ」
そう呟き目を閉じた。しかし、眠れなかった。
アリアに薄っすらと来ていた眠気が吹っ飛んだ。更に、無駄に精神の興奮が高まるだけで終わった。
己の失敗にアリアは頭を抱えた。
しかし、いつまでも失敗にめげていたって眠れないとアリアは、月がだいぶ傾き気、薄っすらと明るくなってきたように感じる空を見て思った。
そして、新たに考えを巡らした。
(以前と今の相違点を考えて、眠れない原因を突き詰めるか)
アリアは男だった時と今のアリアを比較した。
(前は髪を縛って無かったな)
そう考えて、髪を纏めていたリボンを解いた。その瞬間、髪が解き放たれた。
(これでよし!)
アリアは、満足そうに頷いた。しかし、これにより明日、シオンに大目玉を食らうことをアリアはまだ知らなかった。
そして、頭を振り髪をバラバラにすると前に掛かる髪を手で纏めて後ろに戻した。
その後、更に違いを比べていった。
(男の時はお酒を飲んでから寝てたけど、流石にこの身体じゃ違法だしな。後は、服装か。パンツ一丁で寝てたな)
アリアは、1日で脱ぎなれたワンピースを素早く脱ぎ捨て、更にキャミソールも脱いでパンツ一丁の姿になった。
(よしよし。いい感じになって来た!)
明日の朝、シオンがベッド脇に散らかったワンピースとキャミソールを見て、アリアに雷を落として、全然いい感じにならないことをアリアはまだ知らなかった。
そして、いつもの感じに近づいたアリアは、さっそくとベッドに潜り込んだ。
それで、衣服越しでは感じられなかったベッドのシーツと布団の柔らかさと滑らかさを直に感じられた。
しかし、今はそんなことに感動しているより眠る方が先決だと考え、アリアは目を閉じた。
それでも、眠れなかった。
アリアは、あと一押し必要だと考え、魔法を使った後の気だるさを思い出した。
(あれが正しい気だるさか)
絶対に間違っている気だるさを得る為に、アリアは火の玉もどきを生み出した。それは、寝るために必死の思いもあり一発で成功した。
アリアは、その瞬間から急速に体中から力が抜けていった。
そして、そのまま意識を失った。
良い子は絶対に真似をしてはいけない究極の睡眠法であった。




