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リフリード その後②

 一度で良いから、父へジュリェッタのことを伝えるべきだったのだろう。ミハイロビッチ先生のようにジュリェッタが差し出した物を口にすべきではなかったのだろう。


 再三、ミハイロビッチ先生に言われていたのに!


「君は貴族の子息なのだから、姉弟弟子とはいえ、平民のそれも冒険者の娘の差し出す物を口にしてはいけないよ」


 と。


 そう言えば、今思えばジュリェッタはミハイロビッチ先生が居ない時にお菓子や飲み物を勧めていたな。彼女は、始めから僕を嵌めるつもりで近づいたのだろうか?なら、まんまと掌で転がされ、力を奪われた後は、見向きもされなくなる筈だ。


 学園へ入学してからのジュリェッタの態度はそれを物語っていた。彼女の気持ちは僕から、明らかにジョゼフ殿下に向いていた。その前はフリードリッヒ兄さんを追いかけ回していたと聞く。彼女の真の目的は何だったのだろう。フリードリッヒ兄さんやジョゼフ殿下からも何かを奪うつもりだったのだろうか?いや、もう、奪ったのかもしれない。


 ただ、女神の神殿に送られた彼女に尋ねる術はもう無い。かの神殿は入ったら最後、もう、出てくることも、手紙を遣り取りすることも叶わない場所なのだから。


 彼女はその一生をその神殿で祈事に捧げる事になったと聞いた。ベールに包まれた場所だ。祭司や神父すら入ることが許されないと聞く。


 泣き疲れた頃、部屋をノックする音がして、アイラトが温かな紅茶を持って入ってきた。ベルガモットの香りが鼻をくすぐる。


「お茶、飲みませんか?」


 何も聞かずに、温かな紅茶を勧めてくる。僕では無く、他の兄弟の従者となれば、こんな惨めな思いをしなくても済んだものを。アイラトに対して申し訳ない気持ちで一杯になる。


 フリードリッヒ兄さんの従者のフロイトは、今、城で宰相補佐をしているフリードリッヒ兄さんの助手として仕事をしている。ゆくゆくは、宰相補佐としてフリードリッヒ兄さんを助けるのだろう。子爵家の3男としては破格の出世だ。


 紅茶を一口含む、温かな液体が沁みる。また、涙が溢れてきた。


 アイラトは黙ってただ側に立っている。それが、今の僕には凄く有り難かった。


「アイラト、僕はアーシェア国へ行くことになった。母の従者だったルイと共に、お前はどうする?ここへ残りたいなら、シードル兄さんかフリードリッヒ兄さんの従者になれるように頼んでみ…る」


 一緒に着いてきてくれとは言えない、言葉の違う外国だから。本当は、一緒に行って欲しい。気が付いた時には一緒にいた、唯一の心を許せる存在なんだ。


 だが、その言葉は飲み込む。アイラトは幸せになる権利がある。僕のせいで人生を無駄にすることは無い。


「真逆、こんな所で、昔リマンド侯爵家で一緒に勉強した、外国語教育が役に立つなんて、驚きです。あの時は、別の人が付き添った方が良かったのでは?と何度も申し上げましたが、今となっては、リフリード様がずっと僕を指名して下さったことに感謝致します」 


 着いてきてくれるんだ…。全てを捨てて、片道切符のこの同行に。


「ありがとう。アイラト」


「リフリード様には、私が必要ですから」


 そう言って笑ったアイラトの笑顔はとても眩しかった。


 出国まであと1日と迫った昼、母からの手紙が届く。内容はお父様に、リマンド侯爵に取りなすように頼んで欲しいと言う内容だった。

 

 何かしら、困った事態になっていることが窺えるが、僕にはもう関係のない事だ。


 全ての元凶の癖に!


 苛立ちに任せ、手紙を破ると目に入るのも嫌で、丸めて暖炉の火に投げ込む。


 その日の夕方、門の所で母が騒いでいるのが目に入った。美しく手入れされていた赤い髪は痛み、肌艶も良くない。苦労しているのだろう、だが、もう僕には関係ない。無視を決め込み、荷造りを再開する。


 部屋をノックする音がした。


「リフリード、入ってもいいか?」


 え、フリードリッヒ兄さん?何故、兄さんがここへ?散々、兄さんを馬鹿にしてきた僕を嘲笑いに来たのだろうか?


 多分これが最後だと思うと、入室を拒むことも出来ずドアを開け招き入れる。


「どうぞ」


 兄さんは勝手に椅子へどかっと腰を下ろした。


「アーシェア国へ行くんだって?親父から聞いた」


「はい」


 行くのでは無く、正確には行かされるのだけどな。


「これ、マグライアン伯爵への紹介状。アーシェア国の皇女様の嫁ぎ先だ。何か有ったら頼るといい」


 え?聞き間違いだろうか?


 戸惑っていると、手紙を机の上に置き、フリードリッヒ兄さんは軽く溜め息を吐く。


「いろいろ言いたい事はあった。だが、もう、いい。二度と会うことはないだろう」


 それだけ告げ、席を立つ。


 何が、いろいろ言いたい事があるだよ!本来なら、そこは僕がいる場所だったんだぞ!忘れていた怒りが沸々と湧き上がる。自業自得とわかっているのに、とんだ八つ当たりだと。


「言いたきゃ、言えばいいだろ!勝手に被害者面しやがって!僕だって、好きでマリアンヌ様と婚約したんじゃ無いんだ!大切な権利を勝手に母に使われて、やりたくもない侯爵になる為の教育を無理矢理受けさせられたんだ!マリアンヌ様と婚約してなければ、魔力が開花しないことにあそこまで焦ることも、幼い頃、外で遊び回ることを諦めることも無かったんだ!」


 心の底に溜め込んでいた言葉が、口を突いて流れでる。こうなると止まらない。後から後から、蛇口の壊れた水道のように溢れでて止める術が無い。


「狩にだって行きたかったし、剣術だって学びたかった。沢山舞踏会へ行き色んな令嬢達とダンスを踊り、その中で、恋に落ちる可能性もあったかもしれない。所詮三男なんだ。だが、言い換えれば自分の努力次第で、自分の人生を切り拓けるポジションに産まれたんだ。なのに、なのに」


 なんの脈絡もない言葉が、次から次へと溢れ出す。フリードリッヒ兄さんには、何の関係も無いのに。


「どうして、マリアンヌ様と僕より先に婚約をしなかったんですか?兄さんがそうしていれば、僕はこんなにも劣等感に苛まれ苦しむ必要は無かった!最初からマリアンヌ様と雲泥の差がある魔法で、母やお爺様にあれ程のプレッシャーを与えられることも!知ってたんでしょ?僕が父の子ではないと言うことを!マリアンヌ様を愛していたのであれば、皇女様がご結婚された後で、僕とマリアンヌ様の婚約を破棄させ、ご自分と結ぶことくらいできた筈だ!だって、兄さんは皇女様のお相手なのだから!」


 一気に捲し立てたせいで息が切れる。睨みつけると、フリードリッヒ兄さんは呆然とした顔でこちらを見ている。


「ははは、あははは、あはは」


 腹の底から笑いが込み上げて来る。なんだよ、その鳩が豆鉄砲をくらったような顔は!


 何?まさか、そんなことも思い付かなかったのかよ!


 そうなれば、まあ、母は間違い無く離縁だな。だが、ジョゼフ殿下に治癒魔法を譲った権利はある。だから、僕がフリップ家か追放されることは無い。その上で、きっちり役目を果たし、ジョゼフ殿下の側近に納まれれば、権利を行使し子爵くらいにはなれた。まあ、母は可哀想だが自業自得だ。そんなに遠慮する必要も無い。


 現に、今の僕や母が置かれている状況はそれよりも、最悪なんだから!


「いや、すまなかった。うん?この言葉が正しいのか?違うな。逃げずにお前と話す機会を持てば良かった。確かにチャンスはあった。騎士学校を卒業して、魔法学園に入る前、魔法学園での休暇。その全ての時間をマリーとお前が婚約したという現実から逃げて、お前と向き合おうとしなかった、弟なのにな。お前とこうやって腹を割って話す機会があれば、俺は行動を起こせたかもしれないな」


 過ぎたことは仕方ない。僕ももう少し、母に縛られず兄達や父に相談していれば、違った未来があったかも知れない。


「荷造りの確認があるから」


「ああ、そうだな。邪魔をした」


 そう言うと、フリードリッヒ兄さんは部屋から出て行った。


 明日から、アーシェア国への旅が始まる。僕の新たな人生の始まりだ。母にも、お爺様にも、家にも縛られない僕だけの人生が。決して、楽なものではないことはわかっている。だが、僕は、期待に胸を膨らませて眠りについた。

 


「侯爵家の侍女になりました」

https://ncode.syosetu.com/n4203gk/


 ユリの視点での話です。良かったら、こちらもどうぞ。なぜ、ジュリェッタの頑張り?が良くない方向へ向いたのかがわかるかと…。


 マリアンヌその後、そのうち書きます。

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