第54話「暗殺③」
マクシミリアン暗殺未遂から数時間後、王女マリー=テレーズの部屋。
「……と言うような経緯で襲撃は失敗し、賊は全員を捕らえ、現在地下牢に閉じ込めてあります」
事後処理を終えたレオニーがマリーに報告を行なっていた。
「そんなことはどうでもいいのよ!お義兄様は無事だったのね!?」
内容を聞いたマリーは珍しく動揺しながらレオニーに詰め寄る。
「はい、マリー様」
レオニーはそれに淡々と答えた。
「そう、それならいいわ……」
レオニーに掴み掛からんばかりだったマリーはそれを聞いて安心し、椅子に座り直した。
流石のマリーも大事なマクシミリアンの安否が絡み、我を忘れてしまっていた。
普段の彼女なら、気付いたはずなのだ。
リアンに何か有れば真っ先に生死や怪我の度合いが報告される筈だと言うことに。
更に言えばレオニーがそれをしないと言うことは大事ない、と言うことに。
まだまだマリーも可愛いものである。
閑話休題。
「あと、お義兄様を襲った連中と雇主には地獄を見てもらわなければいけないわね」
「はい、それはもう」
しかし、マリーは襲撃者への報復を忘れてはいなかったし、レオニーに至っては殺る気満々だ。
「で、賊の情報は?」
「それが……半年ほど前に姿を消した元暗部の者達でした」
「そう……」
何と実行犯は元身内。
半年ほど前に暗部を脱走し、行方を追っていた連中だったのだ。
彼女達もこのような事態を覚悟していたとは言え、実際に起こると頭が痛い。
現実問題として、今の暗部の状態では、劣悪な環境での任務に嫌気がさし、金で他に靡くのは不思議ではないのだ。
いや、むしろ当然とさえ言えてしまう。
「ですので、尋問をするにしても恐らく雇主を吐かせるのは時間が掛かるかと……」
「いいわ、じっくりやりましょう。まあ、雇主なんて十中八九『あの男』か今回処分される貴族の誰か、でしょうけどね」
「はい、私もそう思います。あとは証拠か証言があれば良いのですが」
「そうね、さっさと喋ってくれるといいのだけど。で、報告はこれで全部?」
と、そこでマリーが確認すると、
「あ……それが、最後にもう一つ……」
レオニーにしては珍しく、言いにくそうにしている。
「何よ?貴方にしては珍しく歯切れが悪いじゃないの」
「先程、マクシミリアン様はご無事であると、ご報告したのですが……実は、少しだけお顔に擦り傷が……」
クールなレオニーにしては珍しく、気まずそうに報告した。
「は?」
絶句するマリー。
「も、申し訳ありませんでしたぁ!マリー様ぁ!」
そこでリゼットがいきなり、ガバッと土下座した。
実は今までずっとレオニーの横にいたのだが、真っ青な顔で無言のままずっと固まっていたのだ。
「……どう言うことかしら?レオニー?」
一瞬で激おこのマリーが問いただした。
「はい、実は……」
非常に気まずそうにレオニーが経緯を説明した。
「と言うことがありまして……」
「……」
それをマリーは無表情で黙って聞いていたが、沈黙に耐えかねたリゼットが再び謝罪の言葉を口にした。
その時、
「申し訳ありま「死刑」
再び謝罪と土下座をするリゼットに向かってマリーは、無情にも死刑と一言。
「ひぃ〜、どうかお許しをぉ〜。私には年老いた両親と育ち盛りの兄弟達、それにネコが一匹……」
それを聞いたリゼットは必死に命乞いするが、
「安心なさい、家族とはすぐにあの世で会えますし、ネコちゃんは私が責任を持って可愛がってあげますから」
マリーにはとりつく島もない。
「そんなぁ〜!マリー様ぁ〜!」
「連れて行きなさい」
リゼットの言葉の一切を無視し、マリーは冷たくそう言い放った。
そしてクイっと顎をしゃくると、二人の屈強な衛兵がリゼットの両脇を抱え引きずっていった。
「ひぃ〜!お〜た〜す〜け〜……」
パタン、と無情にもそこでドアが閉まり、部屋には静寂が戻った。
「ああいう台詞、一度言ってみたかったのよね」
さっきとは打って変わって、可笑しそうに笑うマリー。
「マリー様、お戯れが過ぎます」
それに付き合わされたレオニーは不満げにジトーっとマリーの方を見るが、彼女は気にもしない。
「ふふ、いいじゃない。減るもんじゃないし」
寧ろ、無邪気に笑い始めた。
「……」
「それよりもどうだった?私もだいぶ悪の親玉っぽくなってきたと思わない?」
今度はニヤリと笑いながらマリーが問うが、
「はい、それはもう見事なブラックさ、でございました」
澄ました顔でレオニーが平然と答えた。
「……貴方ねえ、嘘でもいいからそこは、清く美しいマリー様に悪の親玉など似合いません!って言っておきなさいよ」
「モウシワケアリマセンデシターマリーサマー」
諸々の抗議のつもりか、レオニーはこれでもか、というぐらいに棒読みで答えた。
しかし、やはりマリーが、と言うか雇用主が強い。
「……お給料減らされたいの?」
「申し訳ありませんでした!」
マリーの決定的な一言でレオニーはあっさり降伏し、態度を一変させた。
「まあいいわ。あ、そうだ、リゼットには後で何か奢ってあげなさいな」
流石に小悪魔なマリーもほんの少しだけ、ミジンコぐらいの罪悪感があったのか、リゼットのケアをレオニーに命じた、だが……。
「……」
じー。
レオニーは何か言いたげな目で主人を見つめる。
「……分かったわよ。経費で落としていいから」
呆れ顔のマリーに対して、
「ありがとうございます、マリー様。では、失礼致します」
レオニーはニッコリと、とても良い笑みを浮かべると恭しく退出した。
そして、それを見送ったマリーは、直後にあることを思い出し、
「あ、そう言えば捕虜を尋問しないといけませんわね。一体、どんな拷問がいいかしら……」
可愛く小首を傾げてとんでもないことを言ったのだった。
と、そこでマリーは良いアイデアを思い付いた。
「そうだわ!ちょうど報告があった『あの女』を使いましょう!お仕置きと見せしめで一石二鳥だわ!」
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