29 死者の軍6
ハーティに見繕ってもらった剣と防具
ハーティは剣豪なだけあってその装備はしっくりとなじんでいた
対する相手のラフィナのその表情は怒りそのものだった
目からはとめどなく涙が流れ落ち、手足の甲殻はビキビキと音を立てて変化している
甲殻が広がり始め、ラフィナのその小さな体を覆う
ラフィナ「ラフィナの!邪魔、スルナァ!」
アルマにその甲殻で固く重くなった拳を振り上げでたらめに攻撃を仕掛けてくる
アルマは軌道を読み、軽々と躱した
アルマはハーティ、ティティとの修行を思い出していた
ティティ「アルマちゃんは腕力がないから」
「スピードと技術で翻弄するといいよ」
「幸い天才的に覚えがいいから技術あるし」
「スピードはあのスキル使えばとんでもなく速いし」
「まぁ周りの時間が遅くなるスキルなんて聞いたことないけどね~」
アルマは今まさにその時間の流れを感じていた
すべての時間がゆっくり流れる
その中をアルマだけが通常のスピードで動く
ラフィナの拳を避け、剣のみねで脇腹の甲殻を打ち砕く
パキィッと甲殻が砕け散った
時間の流れが戻り、吹き飛ぶラフィナ
ラフィナ「ググ、許さ、ナイ」
「あgaaarrrrrrrrrrrrrrrrr」
野獣の唸り声のように叫ぶラフィナ
拳、足、繰り出す攻撃、その姿はまるで獣のようだった
だが、当たらない
何発も、何十発も、打ち込み蹴り込むがすべてが空振る
地面にはすでにクレーターのような穴がいくつもできていた
アルマ「ラフィナ!」
「あなたは、こんなことしたくないんでしょう?!」
「その涙が、その心が訴えてる!」
「助けてって、苦しいって」
「お願い、正気に戻って!」
アルマは拳を避けつつラフィナに剣のみねを打ち付けた
地面に激しく叩きつけられたラフィナ
甲殻は砕け散り、もはやその体を守る鎧はなくなっていた
それでも立ち上がり、甲殻のなくなったマーマンの少女らしい華奢な腕を
アルマへむけてふるう
アルマは避けなかった
その必要がないほどにラフィナはボロボロだった
ペシッペチッという力ない音が響き、ラフィナは倒れた
その首元から黒い水晶のようなものが抜け出て砕ける
ラフィナ「あり...がとう」
「ラフィナを...止めて..くれて」
アルマ「よかった、戻ってくれた」
「ずっと聞こえてた、あなたの本当の声」
ラフィナ「ラフィナ、こんなこと、やりたくなかった」
「お父さんとお母さんと、一緒に、暮らしたかった、だけなのに」
そこに、イアがやってくる
アルマ「お姉ちゃん」
イア「ねぇ、ラフィナ、どうしてこんなことになったか、覚えてる?」
ラフィナ「うん」
「あの日、ラフィナはげんきになった姿を見せようと思って」
「家に帰ったの」
「お父さんもお母さんも喜んでくれると思った」
「ラフィナにお帰りって言って抱きしめてくれると思ってた」
「でも、二人はラフィナを、化け物って、言って」
「村の人達と一緒に、ラフィナを殺そうとして...」
「その時、首に痛みが走って」
「気づいたら、みんな死んでて、アンデッドになってた」
「意識はずっとあったの、でも、体が勝手に動いて」
「ラフィナと関係なく、勝手に...」
「ラフィナは...ラフィナは..愛してほしかったの」
顔をぐずぐずにして泣き始めるラフィナ
アルマ(同じだ、両親に化け物として見られる痛み)
(私は、ラフィナと同じなんだ...)
(ただ一つ違うのは、私には、愛してくれる人がいた)
そう思っていると、イアはラフィナをそっと抱きしめた
イア「怖かったよね、つらかったよね」
「もう、大丈夫、大丈夫だから」
優しいイアの言葉に、ラフィナは安堵した
その時、白皮が勝手に動き始めるとラフィナの体を包み込んだ
イア「え?これは、いったい...」
白皮が解かれると、魔人の姿はなく
ただのマーマンの少女としての姿があった
ラフィナ「ラフィナの、体が...なおってる?」
イア「なんだか、わからないけど、これであなたは魔人じゃなくなったのかな?」
イアが治療したティーシャとマーサ、そしてシムカ、クパルが駆け付けた
ティーシャ「早く、魔人にとどめを」
武器を構えるティーシャをイアは制止する
イア「待ってください!この子はもう、魔人ではありません」
ティーシャが見ると、そこには確かにただのマーマンの少女がいるだけだった
ティーシャ「どういうことだ?」
「魔人、ではなくなっている?」
イア「この子は、操られていたようなんです」
「以前、トラムレビアに現れた魔人のように」
ティーシャ「ふむ、報告書には目を通してある」
「教皇様の親友だった魔人はほかの魔人に操られ、教皇様を殺そうとした」
「そうだったな?マーサ」
マーサ「はい」
イア「どうやら医師の強い人は魔人になってもその力に振り回されることはない」
「と思うんです」
「でも、その意思を奪い、卑劣な行動をさせるほかの魔人が、いるみたいです」
ティーシャ「とりあえず、その子は私が預かろう」
「何、悪いようにはしない」
「マーサと同じように、私の子として育てるさ」
「なんせ私の腹に穴を開けたんだからな、いい戦士に育つかもしれんぞ」
ラフィナ「ラフィナ、悪いことしたのに、殺さないの?」
ティーシャ「お前の意志ではないのだろう?」
「ならばその道理がない」
「お前は私の子として私が連れて帰る」
「それだけだ」
ティーシャは優しくラフィナの頭を撫でる
一行と兵たちは、勝戦の帰路へとついた
悪意はすぐそばに




