帰還
「おい人間。話がある」
「何だよ」
俺たちは姫の元へ走りながら、言葉を交わした。
「その腕は、まだ生きている。魔物に取りつかれたせいでもあるがな。その腕
に、まだ魂魄が宿っている内に、それが抜けださないように封印できるか?」
「どういう意味だよ」
「お前の使う逃がさぬ力と寄せ付けぬ力、同時に込められるか?」
「そんな事、出来るに決まっているだろ」
「ならば、もしも本体が朽ちても助けられるかもしれない。可能性だがな」
「可能性、十分だろ。何かをする動機としては」
重ねた結界は打ち消し合う。それは実験で、そして実戦の時確認している。
だから可能か聞いてきたのだろう。もちろん、重ねたらダメだ。それは変わら
ない。結界を発生させる中心を腕その物の中心に置けばいい話だ。
言いかえれば、腕の周りに束縛結界を張り、それに触れないように防御結界を
張る。2つの結界の距離だけ変えて同じ中心に張ればいい。
「理屈は簡単なんだがな」
「何を悩んでいるのか分ならないが、逆にすれば良いだけではないか」
「ああ、そういう事か」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「と言う事で、一応じぃさんには保険をかけた」
「このオレンジ色の結界はそういう事ですか」
「ああ、ワニの奴が言うには本体は生きてるらしい」
「お話、理解致しました」
「ところで健治の言うワニって、あいつの事」
真希の指さした方向に人型となったアレが物珍しそうにキョロキョロとテント
の中を行ったり来たりしていた。
「ああ」
「名前ないの?」
「そういや、聞いてなかったな」
「おい、ワニ。お前名前あるのか」
健治の声に反応して動きを止めた彼女がこっちへ来る。
「我か?」
「そうだよ」
「名は飼い主が決めるものだろ。私はまだもらってないぞ」
「そっか。お前、飼い主がいたのか」
「何をボケた事を言っている。飼い主とはお前だぞ」
「土竜は命を助けられたら、これまでの自分は死んだとして、その後はその者
に一生を尽くすと聞きます」
「助けた責任とれってさ」
姫と真希がこちらを見てる横で、ただ視線だけを向けていた美咲の視線が冷た
いものに変わったのは気のせいなのか何故か痛い。
「こいつドラゴンなんだよな。辰の娘で、シンフィってのはどうだ」
「主が良ければ、それで良い」
「じゃあ、お前は今日からシンフィな」
そこで真希が口を挟んできた
「ねねっ健治」
「なんだよ」
「あんたの事だから辰子とか言うかと思った」
「この世界に似合わないだろ」
「へぇ~」
「なんだよ」
「ちゃんと考えてんだ」
「うっせ」
それから、王都へと戻りる最中は俺はシンフィの背に乗っていた。
もともと馬車の中に男一人は気が引けた事も在り、彼女が主は我に乗れという
催促に乗った形であるが、なぜか真希まで乗って来た。
「何で後ろに、いるんだよ」
「良いじゃない。乗ってみたかったんだしさ・・・それに」
「何だよ」
「あれってホント」
「ん?・・・」
「本当じゃ。我は嘘はつかんし、できん」
「あれが必要なほど、なの」
「気づいておったか、主と違って回転が速いの」
「どういう意味だよ」
「やばいって事でしょ」
「しばらく・・・封印は解いてはならんと言う事じゃ」
「うん。ありがとう」
真希は何か唱えると、後方へ飛び馬車の御者へ飛び移ると綱を引く美咲の横に
腰を降ろした。
「お話おわったの?」
「うん。交代しよか」
綱を受け取り、美咲は馬車の中へと移動した。
走る視界に町の外壁が見え始めて来る。帰りは行より早く感じるものだなと
思いながら、その門を潜って、さらに城へと向かっていった。
この時、俺達は町の風景が少し違っている違和感を感じつつも気にとめる事も
なく彼女の宮殿へと急いでいた。