馬車
お客さんが帰ってから一週間ほど後、言ってた通りに迎えが来た。
馬を二頭繋いだ馬車は、初めて見たのもあってテンションが上がる。
ガラガラと音が聞こえたときは何かと思ったけれど。
「お待たせいたしました。こちらにお乗りください」
馬車から出てきたお姉さんは優しそうだったけれど、隣にいる剣をさげた男の人の威圧感がすごく、ついジイの後ろに隠れてしまう。
腕の中のコロもぐるる、と喉を鳴らす。
「彼は護衛じゃよ。怖いことはない」
「老師の言うとおりですわ。この者が貴女を傷つけることはあり得ません」
お姉さんが手を振ると護衛の人は御者台に乗る。
「さぁ、お乗りください」
お姉さんが扉を開けたので、ジイとコロと一緒に乗り込む。
中は見た目より広く、圧迫感や閉塞感は一切感じない。席も柔らかい布が敷いてあり、座り心地も良かった。
最後にお姉さんが入ると扉を閉める。
お姉さんは私たちの向かい側に座ると、御者台の方にある窓を開ける。
「出発なさい」
ガラガラと車輪の回る音とともにゆっくりと馬車は進み始めた。
私がジイとコロと一緒に住んでいる小屋はエルカディアの森の中にある。
エルカディアの森はそこまで大きくなく、端から端まで徒歩でも3日かからないくらいの大きさらしい。
森を抜けて西に草原を越えると、ラウの森という大森林がある。エルフたちはその森の中の大樹の近くに住んでいる。
基本的に人間とは付き合いがないけれど、ジイは恩人であり、交流があるとのこと。
お姉さんは話上手で私にも分かりやすく説明してくれた。
ジイは成人の儀に毎年賓客として呼ばれているのだが、去年は私がいたので来れなかった。
申し訳ない気持ちになったけれど、二人とも大丈夫と言ってくれた。
「そろそろ森を抜けますね」
その声に窓の外を見やる。
私はまだ森から出たことがなく、外は全く知らない世界。
期待と不安、心臓はずっと大きな音をたてている。
それでも外から目を離せず、じっと待つ。
始めに感じたのは解放感。
周りに生い茂っていた木々がなくなり、背の低い草が見渡す限りに生えている。
枝葉に見え隠れしていた太陽や雲がすっきりと見え、遠くには山や森があるのが分かる。
言葉も出せず、しばらく呆然と眺めていた。
「綺麗じゃろ?
世界は広い。自分が知らない物など数えきれないほどある。
それを知るために冒険する人を冒険者というのだよ」
ジイが冒険者だった理由が私にも少し分かった気がした。