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魔法の家の落ちこぼれが、聖騎士叙勲を蹴ってまで、奇蹟を以て破滅の運命から誰かを救える魔法使いになろうとする話  作者: 鯣 肴
第二章 第三節 異質な世界の普通の日常

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稀有なる壁越えの映像記録 Ⅴ

 映像は、進み続けている。


 苦も無く折れた指を曲げ戻して、拳を作る女傑と、女傑の意識して使っている方の遅い魔法の存在に、少年が気づき始めた辺り。


 拳同士をぶつけた訳でなく、身体にちゃんと殴り当てた筈の自身の前腕の骨、ふとましい二本にひびがいくというありえなさまで重なり、焦りが生まれ始めるが、


「不味いと思ってるようでいて、全然そんなことないんです……。どんどん反応が早く鋭くなっていって、感覚が鋭敏になっていっています。魔法の強化とか無しに、素でそれなんです。鈍ったと言ってるのは多分その辺りなんだと思います。ライト君にとっての平常運転は、こんな程度じゃあないってことです。すごい、努力したんだろうなって思います。どれだけ鍛えたら、僕と同じくらいの年なのに、あんなになってしまうんでしょう……。ライト君の強さって、実際と内心がズレていることもその一つなんだと思います」


 女傑の心身共に異様な耐久力と、上がり続ける物理的な硬さ。もう、腫れが引いて、ほぼ元通りであることがうかがえる、右拳の小指の根元。飛んでくる、右拳を、しっかり捉えるだけの余裕が少年にはまだある。


「クェイ・ク・ァンタさんも十分強いんです。それこそ異常なくらいに。間に動きを滑り込ませて、ライト君を何度も慌てさせています。でも、相性が悪いんだと思います。ライト君にとって、クェイ・ク・ァンタさんは相手しやすい類なんだと思います。慣れてるんでしょう。肉弾戦や近接戦主体の相手に」


「クェイ・ク・ァンタさんは多分そうじゃないです。今のスタイルを身に着けたのは、ここに来てからではないでしょうか? それに、学園には非魔法使いなんていませんし、外縁の人たちに強者はいないですよね。強者でなれないように。いられないように。……怖いです……」


「変則的な牢獄ですからねぇ。わたしが思っていた以上に君は色々と勉強熱心なようですねぇ。まあ、秘匿情報でもありませんし。大図書館に外縁の成り立ちの本ありますしねぇ。それにしても、よくあの厚さのに目を通そうと思ったものです。しかも君はちゃんと読み込んだようですね。そうでなければ、あの底知れない怖さには気づけない」


 映像は、止まっている。白塗りの男が止めたのだ。


 この様子では中断せざるを得ないと思って。再び、身構えてもらわないといけない。そうしないと、この深度での観戦なんてできはしない。


「実のところ、あの本、著者、わたしなのですよ。ここの学生であった頃に上梓じょうしして、出来を認めて貰え、大図書館にも置いて貰えたのまではよかったのですが、……誰も……読んでくれないんですよ……。魔法使いが、魔法に一見関係無さそうで、魔法使いもいないところになんて、興味を向ける筈がない。分かってはいたのですが、がっくりきましたよ。ですが、誰かに分かって欲しかったんです。わたしは気づいてしまったから。あれは魔法使いによるものです」


「……。強者。魔法使い……。芽を摘む。翼をもぐ。自信を、奪い続ける……」


「正解……です……。一応尋ねておきましょう。どうして、ですか? どうして、気付けたのですか……?」


「僕が、弱いからです。()()()()()()()()()()()()()()()()()……。魔法を手にしてからも、僕には、弱さが、こびりついているから」


「君は、どうして、この学園に来ることにしたのですか?」


「本物を――()()()()()()()()()()






 映像が、再生されている。


 暫くの沈黙が続いた後、ブラウン少年が真っすぐ画面の方を見据えたところで、白塗りの男は、映像を再開したのだ。


 少年は魔法の防具を喚んだ。純白の全身鎧。覗き孔などなく、継ぎ目が無い、異質な鎧。


 少年は魔法の武器を喚んだ。何の変哲も無い、()()()()()()()


「止めてください」


 ブラウン少年がそう言うと、その画面で映像が止まる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 ブラウン少年のその問いに、白塗りの男の口元が綻んだ。


「確かに似ていますよねぇ。でも、わざわざ分類が違う訳は? 尋ねるなら、本来そこまで言わないと伝わらないことを憶えておきましょう」


 こくんとブラウン少年が頷く。


「単純明快です。()()()()()()()()()


「では、死んだり、生まれたり……? でも、死んだなんて話、聞いたことが……。そもそも、どうやって作られるのか、どこからくるのか、そもそも生まれるって……?」


「落ち着きましょう。ほら。息をゆっくりと。そう。ゆっくり。少しずつでいいのです。速度を落として、いいですね。では、大きく、吸い続けてください。いいですね。ゆっくり、吐いていきましょう。ゆっくりと吸い切って、吐き切って、を、繰り返して。自分の中の魔力の流れを、感じてください。それも、抑えましょう。ゆっくり流れるのです。慌てる理由は無いのです。危険は程遠い。よく、できました。大概の魔法使いには必要ありませんが、君のようなタイプにはこの手のメゾットは必須です。できたら何種類か身につけておきたいですね。これは中でも簡単な類のものですし、邪魔が入ったら使えない類ですので、切羽詰まったときの実用性としてはあんまりですが」


「さて。落ち着きましたね? 言い方を変えましょうか。あれは、武器や防具の形をとることができる、知恵があり、意思がある、誇り高い生き物です。わたしたちと何だ違いない。ただ見掛けの姿が違う程度の。ある意味、獣人とわたしたちの違い程度の差異しかありません。精霊やわたしたち、幻想種やわたしたちとの差異よりもずっと小さい。ただ、稀有で、知られておらず、本質について秘匿されている。名は知られているのに。正騎士の魔法の装備、という名で。どうです? 違うでしょう? 明らかに」


「……。呪物や、生きている武器との違いは何です?」


「呪物には生が無い。生きて居るといえる状態ではないのですから。魂だけで、血肉が無い。大概の場合、精神から生前持ち合わせた意思が欠けている。つまるところ、死に損ないとか、残り滓といったところです。尋ねるということは、君は見たことが無いのでしょう。見たのなら、その本質を掴んでいない筈が無いかと」


「生きている武器との違いは、呪物との違いよりは小さいですね。それでも、わたしたちの近縁種との差異よりは大きいです。そもそも、生きている武器と、それ以外の武器の違いって何だと思います? そこから考えると話は早く済みます」


「……。…………」


「どうします? じっくり考えたいというのなら、一旦お開きにしましょうか?」


 白塗りの男がそう言うと、ブラウン少年は、画面を眺め、


「いいえ」


 とだけ短く答えた。


 この光景を、日を開けて、また見ることになる覚悟はできそうになかったから。これまでの短い付き合いであってすら分かる。分かりきっている。後に進むにつれて、映る光景は酷くなるし、見るに堪えがたいものになっていく、と。

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他にも色々描いてます。
長編から連載中のものを1つ、
完結済のものを2つピックアップしましたので、
作風合いそうならどうぞ。

【連載中】綺眼少女コレクトル ~左目を潰され、魔物の眼を嵌められて魔法が使えるようになったエルフの少女が成り上がる話~

【完結済】"せいすい"って、なあに?

【完結済】てさぐりあるき
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