稀有なる壁越えの映像記録 Ⅳ
「そういえば、彼の対戦相手の、あんな長い名前、一発で憶えられますねぇ。わたしはてんでダメです。こういう魔法に頼っているツケですかね。はは」
と、止まっている画面を指差し、
「説明の再開お願いします」
と言う。
まだ途中であったことを汲んでくれたのだと分かり、嬉しくもあるが、少し嫌な思いもあった。相手が望んでいるのが、純度の高い意見であると分かってるが故に、いつもみたいに呑み込まず、
「クェイ・ク・ァンタさんです。あの女の人。多分、あなたが引き込んだんですよね。この催し自体貴方の主催。だから、ちゃんと。名前くらい、憶えてください」
抗議を態度に、口に、した。
白塗りの男は、圧に押される。全く想定していなかった、怒りのツボであったから。他にも怒るべきところは多々あるだろうに、全く関係ない、赤の他人への、自分の関わらない行為に対して、怒りを見せるなんてことは。
気分を害されては困る理由が、白塗りの男にはちゃんとある。だからこそ、
「はは……。その通りですね。必ず憶えますよ。ですが、できないことはできないので、……。今は取り敢えず、これで容赦ください。後日必ず、憶えたことを証明しますから」
と、逡巡を挟み、足元の床に、黒焦げるような文字が、迸って引かれた。
クェイ・ク・ァンタ
誠意を見せたのだ。したくないことを、白塗りの男はせざるを得なかった。疼くような痛みが刻まれたのが、顔に出しようがない、作り物の自身の顔面故に、免れた。
表情を作って、見せることはできたのだ。それでもしないのは、変な遠慮といった不純物が混ざるのを嫌って。
「お願いします」
映像が、再開される。
それで、クェイ・ク・ァンタさんですが、拳に魔法を纏おうとしていますね。すごく分かり易いです。真っ直ぐです。とても。とても。羨ましい……」
と、熱い視線を、画面に大きく映る、クェイ・ク・ァンタの躍動感ある力強い全身へ。
「微塵も恐れおののかない君がわたしは少しばかり怖いよ」
映像越しに漏れている闘気。魔力の混ざったそれだからこそ、魔力の痕を再現できるこの映像には、圧がある。
並の強者ならただただ抗えないくらいに本能でも理性でも恐れ、強者の上澄みでも正しく恐れ、強者の上澄みなら面倒に思うだとか食指が動くだとか。
ブラウン少年の反応は、最後に挙げたところに位置する訳で。だが、今の強さはそこには遥か遠く下に位置する。つまり、資質は間違いなく――
「なら、どうしてそんなに嬉しそうなんですか? それと、次からは、止めるタイミング、僕に決めさせてください。多分、この映像、貴方も、僕と同じく、見るの、実は初めてだとは思いますが、お願いします」
ブラウン少年の制止が入らないから、会話は続きつづ、映像は進み続ける。
少年と、女傑との拳打の応報。徐々に押されてゆく少年。理合に沿った動きで、身体を駆動させ、折り重なる打痕の衝撃を腕、肩、首、と、緩衝していって、抑える。
「凄いんですよね。でも、それだけなんです。魔法を使ってもいいなら、他にもできる人はいます。それどころか、魔法ありなら、上回ることだって、きっと、そう大変じゃあないんです。魔法なしでこれだけやれるような人が、一万人に一人だとしたら、魔法ありでなら、百人に一人くらいになるんでしょう」
意見をもう一方的に言うだけではななくなっていた。白塗りの男が、ブラウン少年の持つ、間、に慣れてきたから。
「流石に暴論ではないでしょうか?」
上手く、挟み込むのである。
「ここ基準でって話です。僕たちはみんな、違うところから来ている。魔法使いが当たり前の世界から、魔法使いが神のような世界まで」
「ライト君は一万人に一人じゃあなくて、多分、今までに一人とか、歴代に一人とかの域ですし、今も本気なんて出して無い訳ですけど。何か鈍ってるそうです。本気を出す機会すらないって嘆いてました。でも、ライト君が本気出したなら、ここの命のセーフティー貫いて、殺しちゃうと思うんですよね……。多分、ライト君に言っても通じないでしょうけど。だってライト君、自分がおかしなくらい凄い奴だって、どうあったって思えないみたいですから。あんなに凄いのに、自分に自信が持てないなんて、強い人にも強い人なりの悩みがあるんだなって思います」
丁度、一旦、少年と女傑が距離をとって、展開に動きが出たところ。少年がギアを入れようとした際の、意識の間隙をつくように、女傑が至近距離、上から打ち下ろすようにねじり入れるような振り下ろしにすることで、破壊力を出すための距離を稼いだ右拳を渾身の一撃が――不発。少年の指折りがあっけないほどに、きれいに決まる。
「多分強さは関係ないですねぇ。分からないままのものは、分からないままでよいのですよ。決めつけて、本質からずれるのこそ不味いのです。君のようなタイプは。彼は強者なのに、強者だって自覚できない。おかしいのです。歪なのです。その理由には、ちゃんと、君の納得できるものを、充てるべきです。本当に彼と、仲良くなりたいと思っているのなら」




