稀有なる壁越えの映像記録 Ⅲ
映像が再開される。
女傑が現れ、名乗りを上げ、少年と少し話をして、少年が相手にの流儀に合わせるかのように剣を仕舞い、構え、向かい合って、拳と拳の激しい応報が始まった最中。
映像が止められる。
「これは、どうかな? 彼。彼女。それぞれ、魔法は使っているだろうか? いないだろうか? もう、はい、いいえ、なんて補助輪は必要ないだろう。先ほどより難易度は上がっているけれど、君は見抜けるかな?」
と、白塗りの男は嬉しそうにブラウン少年に尋ねる。
「ええと。……」
もじもじ。
「ヒントを求めている訳でなく、前提の確認なら、納得のいくまで聞いてくれるといい」
「ライト君の魔法の鎧と魔法の剣は、ライト君が魔法を使った扱いになります?」
「魔道具の使用は魔法の行使とはいわないね。何の変哲も無いロングソードを振るうのと何だ変わらない。他には、ある、かな?」
白塗りの男の目元から、隈は消えていた。笑顔はより自然なものになって、朗らかになっていた。
「だいじょうぶです。ええと。ライト君は魔法を使っていません。そもそも使うつもりが無いみたいです。ライト君は基本、使おうと思わないと魔法を使えないみたいです。そもそも、魔法と比べて、剣の扱いや体術が、練度が高く、使い勝手もよく、長期戦にも向いています。ライト君の魔法は、見せて貰った分も、耳にした噂の分も含めて、回数が限定されていて、ただ使うだけでもリスクが大きくて、でも、短期戦の極地な、一撃必殺のと、燃費悪過ぎて連射できないのに、なまじ威力だけはあるけど、損傷を与える範囲が極小で、結局不意打ち用なのに戦闘用のは二分されてます。後は補助用で、魔道具で十分代わりになるようなのがいくつかちらほら」
「使い勝手が悪すぎるんです。ライト君は、攻撃用の魔法でできる殆どのことを、物理的に、肉体的に、魔道具ですらない唯の剣とかで、やってしまえるんです。それだけの力がある。今でも信じられないですが、ライト君は、正騎士になる寸前だったのでしょう。実質、正騎士の証のようなものである魔法の武器と、魔法の防具。ライト君は何故か、魔法使いであるのに持っています。ありえないことです。そもそも、僕と同じくらいの年で、騎士になることすら有り得ないようなことなのに、正騎士、だなんて……。ライト君の業から、垣間見えたんです。ほんの一端。ライト君自身ですら気づいていないんです。正騎士になるのを蹴っているのに、魔法の武器と魔法の防具に、見放されていないんです」
「……。終わり、です。一旦」
「置いてきぼりに気づいてくれてありがとう。一応、念のためにまず確認だ。正騎士に値する実力と実質的な証を持ちつつ、魔法使いであるのが彼だ、と言っているのか?」
「……。はい……」
「ありがとう。そう言うのは怖かっただろう。常識や当たり前に逆らった結論を口にするのは怖いだろう。それでも、今日、今、それができたじゃないか。こういうのは慣れなんですよ。やり続ければ、君の中に、君の中で通用する常識として、枠ができる。当たり前に逆らうような意見や結論を出し切るための礎になる。早いとこ、慣れてしまいましょう。君の観点には、価値がある」
「続き……。いいですか?」
「お願いします。思いついたことが忘れて欠けてしまわないうちに」
「はい。クェイ・ク・ァンタさんですが、魔法、使ってますね。でも、無意識です。微塵も気づいていない。微妙な魔法です。魔法として形になっているかすら結構際どいです。領域系の魔法。体系立ってないオリジナルのものだと思います。効果さえ決まってません。領域魔法の効果や縛りが書き込まれる前の情態で維持されているような、だけど、ある程度書き込める方向性に縛りがあるような。だから、際どいですが、使ってるといえると思います。あまり自信無いです。ただそれとは別に、おかしいんです。ライト君が、気付いていない……。どうして、です……?」
「ほほぅ。鋭いですねぇ。いいところを突いてくれました。語り甲斐がありますね。ではでは。単純な話ですよ。恐らく、彼が見ているのは、魔法の起こり。魔素は碌に見えていないのでしょう。だからこそ、起こりを見ているのでしょう。著しく短い。一瞬どころか、刹那。しかし、確かに、最も濃厚に、濃度の
差が前後で生じる訳ですから、魔法弱者にはうってつけでしょう」
「おやおや。そんな顔をしないでくだあし。わたし、悪意を持っていっていましたか? 微塵の悪気も無かったでしょう? あくまで、蔑称としてではなく、説明に相応しい言葉として、選んで使ったのですよ?」
「なになに? 分かっているけど、嫌に感じずにはいられないですか。マイナスの言葉であることには違いないから、と。残念ながら、思考を読むのは得意なんですよ。恐らく、君も、そういう意味でわたしの同類。育ってしまえば、理詰めで、相手の心を結果として読んでしまっているのと同じことになってしまうでしょう。詰まるところ、これも、練習しましょう。節制できるように」