後編
俺たちが召喚されてから半年が経った。
王都の皆はいろいろ忙しかったみたいだが、俺はのんびりしていた。
魔族もじわじわ押し返されているようだ。
噂を聞く度に俺は胸を撫で下ろしている。
やっぱ、誰かが怪我したとかそんな話は聞きたくないし。
そんな頃、村に来たのは小幡と女騎士。くっ、これもリア充の恩恵ってやつか。爆発しやがれ。
「サッサ」
小幡まで俺のことをサッサと呼びやがる。
小幡だけじゃなく、皆だけどな。何で俺だけ現地人的横文字…
「久しぶりだな」
「元気そうで安心した」
「? 普通に元気だぞ?」
何か、心配される要素ってあったか?
「前に近くの村に魔族が出たって聞いたからな。サタ村ではそんな話も全く出ないから、皆ほっとしてるぞ」
「あー、そういや、タタルが言ってたわ。この辺りじゃ何も出ないから、すっかり忘れてた」
そうか、魔族は十分に懸案事項だった。
あれから出たやつ、全部埋めたけどな。
山の洞穴の隠れ家も、纏めて埋めてやったし。
洞穴の周辺の地盤を崩すの大変だったなあ。
地味に亀裂入れてさ。岩ってさ、結晶的な向きに合わせて楔を入れると、ビキッて行くんだよなあ。
その『目』を見つけるのに苦労したんだよ。俺、透視能力ないからさ。
「向こうの山の洞穴が崩落したんだけど、魔族の死体が出て来たっていうしな」
「ああ、夜明け頃の地響きだろ? 地震かと思ったよ。ま、震度二くらいだったから、寝てたけど」
村の人たちは慌ててたけど、俺は寝てた。今住んでる家の強度なら、震度三過ぎたら注意って感じだから。
「そこで寝てられるのが、サッサらしいよ」
小幡は苦笑した。
別に寝るだろ。万が一生き埋めになっても、俺の力なら瓦礫ははね除けられるし。
アリバイ工作は完璧だぜ。
「まあ、サッサが無事ならいいさ。本題に入るか」
「本題?」
「情報の共有ってやつ」
「今さら、小幡が出向いてまで共有する情報があるのか?」
みんなのこと、王都のことは、ここに来る度にいろいろ聞いてるけど。
他にもあるのか。
そんな重要なことが。
そういや付いて来た女騎士は、村に入るなり村長のとこに行ったな。
人払いしたってことか。
「そんなにヤバいことなのか?」
「ヤバい、かもしれない。高梁なんだけどさ」
「文字チートで古文書系の解読やってんだろ」
聞いた、聞いた。
古い文献は、今は使われてない文字とか綴りとか言い回しがあって、完璧に読み解くことができる人がいないんだって。
そう言ったものでも高梁は読めるから、王立図書館詰めにされたとか。書記な可愛い女の子が三人も着いたって聞いた時、俺の腹に憤怒と言う名のマグマが沸き上がったのはよい思い出だ。
「そう。読みたくもない古い本を泣きながら読んでる」
「おう…」
本、ほとんど読んだことないとか言ってたっけ。
今、ちょっと同情した。
そうか、高梁、頑張れ。
「異世界召還に関係しそうなものは、読みづらいとか何とか言って、後回しにしろって言ってある。それを後から俺が確認している」
「小幡…読めるんだ…」
「なんとが最近読めるようになった」
「うわ、マジか」
スゲーな。さすがに頭の出来が違うな。現代文字じゃないんだろ?
日本で言うなら、古文とか漢文読んじゃうんだろ。
俺、未だに古典と漢文平均点以下なのに…
「俺のことはどうでもいいんだよ」
小幡は咳払いをした。
どうでもいいとか言いきれるとか…ホントに一辺爆発したらいい。
「それで判ったことなんだが…召還関係だ。五百年前の召還は武士だったらしい。しかも、勇者とか人物指定じゃなく、範囲指定の召還。時間は夜の八時くらい」
「え、意外と細かいこと判ったんだな。あれ? 俺ら朝に召還食らったよな?」
朝の八時過ぎだぞ。
言うと、小幡はため息をついた。
「今回、ずれたんだよ約十二時時間。だから、今回成功したとも言える」
「あー、そうなるか。今まで成功しなかったのは、夜の八時の教室だからか」
夜の八時に学校には誰もいない。警備員が見回る程度だが、多分警備員は教室にまでは入らない。
だから、召還魔法が発動しても、誰も引っ掛からない。
「だから、現地時間は伏せるようにした。あと、魔方陣の時間指定も夜に戻しておいた。これで当分、召還に巻き込まれることはないはずだ」
「巻き込まれ…俺たちの後の話か…」
「二度あることは三度あるっていうからな…」
「あるだろうな。今回成功しちまったんだからな」
うっかり成功して、クラス召還。でもって、それがそこそこ使えたんだから、これからも何かあったら召還に頼るだろうな。
関係者全員の記憶を消さない限り、召還は行われる。俺でも予測できる。
なら、今後召還が成功しないようにするしかない。
魔方陣を小さく改変するのが精一杯だろう。
「とりあえず、落ち着いたら召還の魔方陣の解析をしようと思ってる。高梁には引き続き、召還系の古文書は探してもらってるけどな」
「そっか…」
元の世界に帰る可能性はまだ残されてるのか。
「期待は、しないでくれ」
小幡は渋い顔で呟いた。
「ん、わかった。お前も無理すんなよ」
「ああ」
可能性はゼロではない。それだけを思っておこう。
俺は、小幡たちが思っている以上に、上手くやってるんだから。
「俺のこと、そんなに気にしなくていいからな」
「気にしないわけにもいかないだろ。それにここは、平和でほっとする」
「そっか、それならそれでいいけどな」
平和。
そう思ってんなら、それでいいし。
他のやつらが、骨休めにここまで来てるって言うなら、止める筋合いもないしな。
とりあえず、今俺がやることはサタ村を守ることか。
はあ…
魔王領とのいざこざ、さっさと終わらないかな。
翌日、小幡たちを見送りながら、俺はしみじみため息をついた。
さて、とりあえず今日は、落とし穴でも掘って、猪あたり落とし込むかな。
サタ村での俺の日常は、そんなに変わらない。
あ、生き残りの魔族発見。
折角掘った落とし穴に、魔族を埋めることとなった。
仕方ないので、もう一回落とし穴を掘って、出現した猪は叩き込んでおく。
じゃあ、村の人、読んでくるかなー。
歩きながら俺は、平和を噛みしめていた。
最前線に出る人も大変だけど、人知れず山に魔族を埋めるのも、大変だと言う気がしなくもない…ww