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突っ込みどころの有無

王子と言えば、国王の息子と相場が決まっているだろう。

そして目の前の男こそが国王だ。

その国王が、王子を自分の血を引いていないと断言する。

その事態のおかしさくらいなら、馬鹿な俺でもわかるのさ。

何をおっしゃっているのか、と思いたい。

しかし国王は大真面目その者の面をしている。


「……この国の王子の定義が違うのですか」


「とは?」


「王子とは……国王の息子、という意味ではないのですか。それとも陛下は養子をとっていたのでしょうか」


俺の真剣な言葉に、国王は数秒黙った後笑い出した。

ここ笑うところなのか? 笑うところじゃないだろ!?

俺そんなにも変な事言っていないだろう?

だって街でだって、王子が養子だなんて話聞かなかったんだぞ。

笑い続ける国王に、ぶぜんとした顔をしていれば、彼が言う。


「そうかそうか。確かにな。この事を言うのはお前が初めてかもしれない」


国家の最重要機密の一つを、喋ってんのかこの国王陛下。

俺の命を危なくするためなのか。

逃げ出せないように、こんな事言ってんのか。


「余の子供ならば……あれだけ脆弱な体には生まれつかないはずだからな」


「そんな適当な理由で?」


「適当だと思うか?」


国王が俺をその、よく煌く青い目で見つめ返してくる。


「刃物はあるか?」


「え、はい」


俺は腰のバッグから、折り畳みナイフを取り出して差し出した。


「……見た事も聞いた事もない形式の刃物だな?」


「故郷の刃物ですから」


渡してから、渡さない方がよかったかもしれない、と思ってしまったが、覆水盆に返らず。

国王は俺の相方を見て、小さいブレードを出して、それを手首にあてがった。

なにすんの、と思った矢先、手が一閃して血が噴き出した。

と、思ったら。

じゅうじゅうと、傷は音を立ててふさがりやがった。

何なのこれ。

俺の知っている人間の再生力じゃないぞ……?


「このように、まあ、余は生半な怪我はすぐに治る。余の血を引いていれば、それに準ずるものを受け継いでいなければならない。だが王子たちはそれなど受け継いでいないし、余と比べれば異常な程病弱だ」


俺は言葉の端々に、それ以上の根拠がある事を感じ取っていたけれども、何も言わなかった。

おそらく国王には、何かもっと決定的な根拠があるのだろう。

それを俺には言えないだけで。


「ほかにもまあ、色々と理由はあるのだがな。どの子供も余の血はひいておらぬのだ」


くつりと怖い声で笑う国王だった。

その声の中に、俺の知らない何かが確かに、あった。

そしてその声は、奇妙にぞくぞくとする物があった。

俺の趣味が悪いのは今更、だが。

この場で本当に、ちょっと惹かれているような気分になるあたり、救えない。

俺はもしかしたら、惹かれてはいけないタイプの男が好みなのだろうか……

とうっすら考えつつ、俺は黙っていた。

その沈黙をどうとらえたのか、国王が俺を見やる。

その、底なしの碧で。


「そんな微妙な顔をするな」


その目が不意に俺の顔をまじまじと見て、そんな事を言った。

俺はそんなにも微妙な顔をしていたのか。

内心で複雑になれば、彼は言う。


「王室の内情などそんな物だ。まあ、少年のように、市井から引き抜かれた人間には、理解できないやも知れないがな」


あんたの言っている事はたぶん、王室どころか貴族社会を揺るがしかねませんよ、俺は突っ込みたくて突っ込めなかった。

だって、さ。

国王に子供が一人もいないなんて、結構問題だろ、たぶん、よくわかんないけど。

だから俺は黙っていた。

うかつに言えば何が飛び出すのか、分かった物じゃなかったから。


「……して、少年」


国王が俺を見やって呼びかけてくる。その声が存外深みのある物だと気付いたのは今更だ。


「名前を聞いた事がなかったな」


「……いったい何週間目でそれだと思っているんですか。私は、私の名前なんて陛下は興味がないのだと思っていましたよ」


もしくは少年ですべてを済ませるつもりだったのか、と思うのは仕方がない。

俺は名前を気にされるほどのものではないという、認識だったのだろう、なんて思った。


「少年は一人だからな、少年と呼べば大概通じる」


だから聞く事もなかったのかい、と突っ込みつつ、俺は答えた。


「久保田燐」


「……クボタ、という名前なのか?」


「いいえ、リンですね、故郷だと姓が先で……ちなみに、姓がないのが皇室で、一般市民には姓があります」


「変わった風習の国だな……そうか、リン」


国王は俺の名前を口の中で転がして、そして俺を見やった。


「あまり見た目に似合わない名前だな」


「だったら陛下は、お好きなようにお呼びすればいいと思いますね」


結構暴投だが、国王はふむと頷いた。


「ならば……スズ、か」


俺はうっかり鏡を確認しそうになった。ディ・ケーニさんも、俺をそう呼ぶと言ったからだ。

俺はそんなにも、スズという名前が似合うのだろうか。

自分じゃわからないんだが……


「妙に気配が涼しいからな。お前の周りは冷気のような物が漂っている気がする」


国王はそんな事を言った後に問いかけてきた。


「そうだ、スズは余の名を知っているか?」


「いいえ。遠い所から来たので」


知らない時はきちんと、知らないと答えた方がいい。

だから俺がそう言うと、国王は言った。


「ドゥーガル・ディ・セレウコニィ。お前の主人の名前だ、覚えておけ」


意外と短い名前だ。もっと長ったらしい名前だったらどうしようと思ってた。

いや、だってイギリスとかロシアとか、アラブ系とか、なんかえらく長々しているらしいじゃないか。

そん位長かったらどうしようと、割と本気で思ったのに、覚えやすい名前だった事にほっとした。


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