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傲慢の定義

国王はしばし沈黙した後に、笑いだした。

俺はその笑い声に、不覚にもときめいた。

やべえ、笑い方が好みだわ、このおっさん。

爆ぜるような笑い方なのである。

物凄く楽しい事を聞かされた、という声。

まるで、俺の答えが道化師の仕草のように。

そして悔しい事に、この笑い方は俺の好みにクリーンヒットしてしまう。

ああ、俺はこういう笑い方をする男が好みだったのか……

今まで、どんな美形やイケメンを見ても、全く興味を抱かなかった理由はここか。

こんなにも腹の突き出たおっさんが好みなのか俺は……

俺は地球にいるであろう友人たちが、一斉にずるっとずっこけるさまを連想した。

そして一様に、あんたの趣味はおかしいのよ! なんて叫ばれるのも想定した。

俺は隣で呆気にとられているフォーマルハウトを、横目で観察しつつ、国王を見ていた。

彼の笑いは、宰相にとっても呆気にとられる物だったらしい。

散々笑って、周りを驚かせた後に国王が言った。


「なるほど。確かにそう言う事も言えるだろうな」


怒っていない事に、俺はほっとした。

言ったものはしょうがないが、怒られたら親方たちに被害が及ぶ。

キャシーは神だから気にしなくてもいいけれどな。

キャシーは並の男より絶対に強い。

上位の神っていうのはそう言う事なのだから。

それはさておき、国王は少しばかり身を乗り出して、俺を手招きした。


「……?」


逆らう理由もないので、俺は慎重に国王のすぐ前まで近付いた。

周りがまた言葉をなくしている。

何にそんなに驚いてんだよ。

近付きすぎたか?

しかし俺は、どこまで近付いていいのか全く知らないんだよ。

だから許してくれ。

俺は近付いたまま、玉座に座る国王を見下ろして、そんな事をちらりと思った。

思ってから、俺は国王の瞳が、肥った肉体にそぐわない、ぎらぎらと瞬く狼の瞳をしている事に気付いた。

どきん、とした。

おっと、ギャップに不覚にもときめいたのか、俺の心臓よ。

口元が少し緩む。やばい、この人いいわ。

性格はそこそこの傲慢さ。これは王になるものにつきものの病気のようなものだ。

国王っていう権力は、どれだけ弱々しい人間でも、傲慢な物を持たせる職業なので。

はっきり言おう、これくらい傲慢な奴は嫌いじゃない。

驕り高ぶる、人を見下した態度のやつっていうのは、俺からすれば付き合いやすい。

どんだけ最低野郎でもな。

だって、そこには何かしらの強さを持っているのだから。

謙虚な方が大事だとか、好感度が高いとか言うだろう普通。

所が、どっこい。

謙虚も過ぎれば、すごい嫌な奴に変貌するのだ。

才能があるのに卑屈に謙虚になっているというのは、表立って人を見下さない分性格が悪いと俺は思う。

自分ごときが、という言葉は、逆を返せば、自分程でも程度が低い、つまりそれ以下は話にもならない、と見下すのと同じ部分があるのだ。

ならば表立って、自分の力や権力を誇っている奴らの方が、俺としては個人的に好きなのだ。

こういう話をすると、たいてい趣味が悪すぎる、手に負えない、と言われるのだが。

あ。でも、力も何も持っていないのに傲慢な奴は、ただの頭痛い人間でしかないっていうのも俺の考え方だけどな。

その点この国王は、権力は間違いなく持っているし、これだけ魔素太りの体つきだ、肉体も相当に強靭である。

ならば魔法使いとしての素質も相当に高い、つまり。

俺の視点から見て、強者である。

強者が割と傲慢なのは、おかしい事じゃないし、俺は強くてちょっとばかり傲慢な奴の方が実は好きだ。

そのため男友達の殆どが、若干そう言う気質だったせいで、俺についたあだ名は猛獣使いだった頃がある。

それはさておき。

俺はじっと国王の、その狼の瞳を見つめていた。

青い目の狼。そんな言葉が頭をよぎる。


「気にいった」


にいと、肥った顔立ちに似合わない笑みを浮かべる国王。

次に飛び出す言葉は何だろう。

俺は予想ができそうでできない、そんな物を思い浮かべて、国王の言葉を待った。

そして。


「少年、余の側近の一人として仕えぬか?」


とんでもない事を言われた。

側近たちが息をのむのが分かったし、俺自身もまさかの申し出に度肝を抜いている。

こいつ今なんて言った?

そんな気持ちがぶわっと心から吹きあがった。

俺は目を真ん丸く見開き、口を半開きにして、かなりあほな顔をして国王を見ていた。

こんなちびの、それも見た目だけで言えば十代にしか見えない子供に、こいつ今なんて言った。

側近として仕えぬか?

いいや、問いかけでもこれは命令だろう。

問いかけの形の命令形。

そういうか、なんというか、この国王様は自分の息子の部下にしようと言ったその口で、自分の側近にしようというのか?

俺の頭の中でいろんな言葉が、ぐるぐると回っていく。

何でそうなる、といった思いが正しい気がした。

そうやって思いながらも、言葉はまったく思い浮かばず、そこに至っては真っ白な状態で、俺は国王を見つめていた。


「答えられぬのか?」


国王が俺の目を間違いなく見ながら問いかける。

答えられないに決まっている、だって国王、よく考えてみろよ。

普通の下町の人間だって、答えられないだろうよ。

ましてや、俺は前世はこちらの存在でも、今は地球日本産の異世界人だぞ。

答え方なんてわかりっこないし、どうすればいいのかもうまく、思い浮かばない。

だって側近になったらこっち、学校も店もどうすりゃいいのよ俺は。

俺は言葉を探しながら、口を開閉させて、目をさっと左右に走らせた。

どうしたら、どうしたら、どうしたら……

と思っていた矢先だ。


「陛下」


宰相が口を突っ込んできた。

そして呆れ交じりに、こう言ってきた。


「物事が性急すぎますよ、やっと体の回復した子供に、いきなりそのような事を言ってはいけません」


「そうだろうか?」


国王は俺から目をそらさずに、まるで目をそらしたらその時点で俺が消え去ってしまう、とでも言いたげな視線で、宰相に答える。


「瘴気を一掃し、魔物を一掃する。それだけの力を秘めてる者を、他国にとられるわけにはいかぬだろう」


「しかし、まだ少年は……」


「うるさい。余はこの少年に聞いているのだ」


宰相の言葉を一蹴し、国王は俺にもう一度聞いてきた。


「で、どうする?」


俺は息を吸い込み、どうなっても知らないと思いつつ答えた。


「保護者と相談させていただきます!」


仮にこの命令を受けるならば、店の今後の事や、今通っている学校の事を相談しなきゃならないからだ。

俺が始めたと言っていい店を、放り投げる事は俺の気分的に許せないのである。

この発言を聞き、国王はこう言った。


「では、明後日、お前の答えを聞かせてもらうぞ」


 

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